『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、ロイヤルホストのビーフジャワカレーについて語る。
* * *
スパイスカレーブームにより、カレーも並んで食べるようなメニューになりました。はやりのスリランカカレーやミールスも好きだけど、「結局これだな」と思うカレーがあります。それはロイヤルホストのビーフジャワカレー。ロイホに行くたびにメニューをひととおり見て迷うけど、毎回頼むのはこれです。
ビーフジャワカレーは、昭和40年代に誕生したロイホを代表する定番メニュー。じっくり炒めたタマネギと20種類以上のスパイスを使用した本格カレーで、私は甘辛カレーの最高峰だと思っています。
最初にくるタマネギの甘さ、後から追いかけてくる爽やかな辛さ。ひと口の中で味わいが変化していく、絶妙な奥行きが特徴です。欧風カレーらしいコクはあるけどぼんやりしておらず、スパイス感が見事に際立っており、余韻がたまりせん。
少しでも余韻が長く続くよう、ひと口ごとに目をつぶり、ゆっくりと浸るようにしていますが、本当は味が体から出ないように耳と鼻もふさぎたいくらいです。
複雑な味わいが魅力だけど、シンプルで気取ってないのも素晴らしい。具は潔く、トロトロの牛肉のみ。ライスにはフライドオニオンとしば漬け、マンゴーチャツネが添えてあり、少し混ぜることによってカレーがより香り高く、豊かな食感に。
特にフライドオニオン。あの香ばしさ、うま味、そしてルーによって瞬時にしなしなになって初めて完成形に達するあの歯応え。学生の頃はフライドオニオンの量が少ないと思っていましたけど、今となれば、あの2、3口ほどのボリュームがいい。柔らかい牛肉とねっとりのルーに光るちょっとしたアクセント。ああ、はかなきフライドオニオン。君はいい仕事をしている。
盛りつけも私好み。ライスとつけ合わせがのったお皿とは別に、カレーはステンレスのソースポットに入って運ばれてきます。ホテルや晴れの日に行く洋食屋さんでおなじみのソースポット。これで出されるだけで高級感が増し、テンションも上昇。ソースポットから一気にドバっといかず、付属のレードルで3口ずつ分けてルーをかけます。
理由は以前紹介した「エンドレス牛丼」の発想と同じ。全部ひと皿にまとめると、食べ始める前に終わりが示されてしまい、ひと口ごとに消えてくさまに焦ってしまう。食べる分だけちまちまとライスにかけることによって、ルーの全貌が把握できず、「まだ、けっこう残っている」と自分に思わせながら落ち着いていただけます。
ルーもやがてなくなりますが、レードルの丸みがソースポットの底にぴったりハマるように設計されており、カレーを一滴も残さずにすくい取れるフィット感に感動しているので、悲しさや焦りは半減です。
無性に食べたくなるビーフジャワカレー、過去に何度か家で再現に挑みましたが、あの味にはたどり着けませんでした。しかし! もうその必要はなし! ロイホの店舗やオンラインショップで冷凍が買えるのを知りました。
おとなしくお米でいただくのはもちろん、パスタにかけてカレースパにするのもオススメ。汁けのないとろりとしたルーがパスタとよく絡み、私の中で新たなビーフジャワの扉が開きました。お試しあれ。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ソニンの『カレーライスの女』を聴きながら原稿を書いた。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】