「実は背伸びって、背中の筋肉を縮めること。伸ばしているわけじゃないんです。ストレッチにばかり目が向きがちですけど、ほぐすこともしっかりと意識すべきです」と語る石部伸之氏

在宅時間が増えたことで運動不足になり、以前よりも体の凝りを感じている人も少なくないだろう。そんな方にオススメなのが、「筋硬結(きんこうけつ)」をボールペンのペン尻で押して凝りをほぐす「ボールペンマッサージ」だ。

この独特なマッサージを提唱するのは『たった5秒で痛みを治す! ほぐすだけボールペンマッサージ』の著者・石部伸之氏。理学療法士として豊富なキャリアを持つ、リハビリのプロだ。「筋硬結をほぐすことで、肩凝りや腰痛などの改善だけでなく、関節痛や坐骨神経痛にも効く」と断言する石部氏に話を聞いた。

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――そもそも筋硬結とはいったいどういうものですか?

石部 筋肉はゴムのようにビヨーンと伸びるわけではなくて、そうめんの束のように繊維と繊維が重なったものが、滑り込むように伸び縮みしています。しかし、同じ姿勢を長時間続けたり、急に衝撃を受けたりすることで繊維同士が絡まり、ほぐれにくくなることがあります。この小さな絡まりが筋硬結なんです。

骨格筋はその両端が腱(けん)になっており、骨膜にくっついて骨につながっているのですが、筋肉がカチンと硬くなってしまうと、筋膜が常に引っ張られた状態になってしまいます。その状態で無理に動くと、筋肉だけでなく、離れた位置にある関節にも痛みが発生してしまうんです。

――筋硬結が原因となり、関節痛も引き起こされているわけですね。

石部 もちろん、関節自体が磨耗して痛みが出るケースもありますが、例えばランニングやウオーキングを頑張りすぎて膝が痛いといった場合は、筋硬結が原因と考えていいでしょう。

ちなみに、うちの実家は精肉店なんですが、兄が包丁の握りすぎで手首を痛めて整形外科に行ったら、「腱鞘炎(けんしょうえん)だからストレッチをするように」と診断されたそうなんです。でも、全然治らなくて、僕が筋肉をほぐすように指導したら、数日で手首の痛みが消えました。

整形外科の先生はレントゲンを見て、関節が変形しているからそれが原因と判断したと思うんですけど、ストレッチをする前に筋肉をほぐして、その絡まりを解消してあげるべきなんです。正しいプロセスでアプローチすれば、痛みの何割かは必ず軽減できますよ。

――重い包丁を持つような仕事じゃなくても、普通に生活しているだけで筋硬結はできるそうですね。時にはくしゃみや咳(せき)でできることもあるとか。

石部 くしゃみをするときに腰を触ってみるとわかるんですけど、筋肉がものすごく収縮するんですよ。高齢の方に限らず、体がまだ柔軟な若い人でも、疲労で筋肉が硬くなっている状態でくしゃみをすると、筋硬結は容易にできてしまいます。

日常生活の中で日々たくさんの筋硬結ができますが、ポイントは違和感のある箇所をとにかく早く見つけること。体をさすってみて、コリッとしたものに触れたらそれが筋硬結です。鉛筆の芯からマカロニほどの太さまで、大きさはさまざまです。

――そして、それをボールペンでほぐしていくと。職場にマッサージ器具は持ち込みにくいですが、ボールペンなら身の回りにあるので楽ですね。

石部 体が凝るとマッサージを受けに行く方もいると思いますが、揉(も)み返しになる場合もありますし、たとえその瞬間はほぐれても効果が1週間続くことはかなりまれですよね。なので、プロに筋硬結を見つけてもらって、普段は自分でこまめに刺激するのもいいでしょう。何よりボールペンは指先よりも細くて硬いので、うまくツボを突けるんです。

――ちなみにどんなボールペンを選ぶべきですか?

石部 ノック式ではなく、グリップが滑りにくいものが握りやすくてオススメです。個人的に一番好みなのはペン尻に消しゴムがついているタイプで、僕はシャープペン機能もついている4色ボールペンを使っています。指の間をほぐすのにちょうどいい太さですよ。

――先ほど筋膜という言葉が出ましたが、ちまたでは「筋膜リリース」がはやっていますよね。

石部 はい。でも、本当は筋膜ってはがしたらいけないんですよ。というか、そもそもはがれないですしね。

――と言いますと?

石部 筋肉と筋膜が離れてしまうと、筋肉の収縮力が伝わらなくなるからです。鶏のササミやむね肉を調理したことがある方はそれを想像してもらうとわかりやすいんですが、薄い皮の部分と肉がくっついていて、取ろうとしてもなかなか取れませんよね。

言葉が悪いかもしれないですが、筋膜リリースというのは単なるマッサージかなという印象です。僕としては、それよりも筋硬結をほぐすことによって筋肉全体の動きをよくするほうが効果的だと考えています。

――なるほど、イメージが覆されました。

石部 今はストレッチ全盛の時代ですけど、これはすごく大きな問題だと思います。もちろんストレッチが悪いわけではなくて、「それだけしていればいい」という考え方がよくない。皆さん、筋肉を伸ばすことばかりに目が向きがちですけど、ほぐしたり、縮めたりすることもしっかり意識すべきなんです。

例えば、実は背伸びって背中の筋肉を縮めることなんですよ。伸ばしてるわけではないんです。筋肉を縮めることで血液やリンパ液がギューッと絞り出され、脱力することでそれらが流れるようになります。

筋肉って、思いっきり縮めた後が最も緩みやすくなるという性質があるんですね。「筋肉の最大収縮後の最大弛緩(しかん)」と呼ばれるもので、この性質をうまく利用することで、筋肉の緊張をうまく緩められるようになります。

僕はこの方法を「逆ストレッチ」としてまとめ、今年2月に発売した書籍でも解説しています。ですので、ボールペンマッサージで体をほぐすとともに、逆ストレッチで体を鍛える、この両輪がベストだと思います。

――ストレッチもやり方次第で効果が全然変わるし、逆効果になることもあるんですね。

石部 筋硬結の状態のままストレッチをすると、筋硬結自体はほぐれないのに、それ以外の筋肉は伸びるからむしろ悪循環なんですよ。ですから、例えば僕はランニング後すぐには絶対にストレッチをしません。同じ動作を繰り返した後は筋肉が硬くなるので、その塊をほぐしてからストレッチをするのが最も体にいいと思います。

●石部伸之(いしべ・のぶゆき)
1967年生まれ、岡山県倉敷市出身。同県玉野市在住。理学療法士、准看護師、介護支援専門員。デルタフォースジム主宰。その豊富な臨床経験から、独自のリハビリテーションである逆ストレッチを考案し、日々、実践・指導をしている。また、トライアスロン大会やマラソン大会に積極的に参加しているアスリートでもある。近著に『ダイエット、筋肉強化、腰痛・肩こりに効果絶大! 7秒「逆」ストレッチ』(PHP研究所)

■『たった5秒で痛みを治す! ほぐすだけボールペンマッサージ』
(廣済堂出版 1540円)
さまざまな要因で、筋肉内部の筋繊維が持続的に収縮してしまうことで生じる「筋硬結」。高齢者はもちろんのこと、運動不足のデスクワーカー、部活にいそしむ中高生に至るまで、誰の体にも日々生じている筋硬結だが、関節痛など筋肉から離れた部位にも痛みを引き起こす原因となってしまう。そこで、理学療法士の石部氏はボールペンを用いたマッサージ方法を独自に開発。筋肉の絡まりをほぐすことでその痛みはすぐ治る!

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