「大切なのは何かいやなことがあったとき、そこに注意を向け続けず、記憶の痕跡に残さない努力をすることです」と語る青砥瑞人氏

ストレス社会に追い打ちをかけるように、われわれの日常生活を襲うコロナ禍。長く閉塞感を強いられるなか、心身に不調をきたすケースも少なくないだろう。

ところが、『HAPPY STRESS』の著者で応用神経科学者の青砥瑞人(あおと・みずと)氏は、「ストレスは自分を成長させる養分になる」と言う。どうすればストレスを味方につけることができるのか? 最新科学に基づいたストレスマネジメントについて話を聞いた。

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―――この長引くコロナ禍は人々にどのような影響を及ぼしているでしょうか。

青砥 世の中を俯瞰(ふかん)して見れば、コロナ禍で環境が変わり、これまでになかった形でストレスが降りかかっているのは間違いないでしょう。私の周辺でも、在宅ワークが増えて家族といる時間が増えた分、夫婦関係がギクシャクしてしまったというケースを耳にします。

親子関係も同様で、子供もストレスをためています。ある家庭では、幼い子供が突然、リビングに自分の「基地」を作り始めたそうです。親からすると、「邪魔だから片づけなさい」となりがちですが、これは子供なりに自分のパーソナルスペースを確保しようとする適応反応なんですね。言語化できなくても、子供なりに適応しようとしているのだから、むやみに否定するのはよくないわけです。

――ストレスに対する適応だと知れば、親も理解してあげられるでしょうね。

青砥 ストレスは人間にとって自然の摂理なので、生活の中からなくすことはできません。だからこそ、ストレスをきちんと理解することは大切です。

――そもそも、ストレスとはなんなのでしょう?

青砥 ストレスは生物としての自然の反応です。生物は太古の昔から、よくわからないものに対して警戒心(ストレス反応)を示すことで生存確率を高めてきました。そして、本来は目に見えないものであるストレスの仕組みを、細胞や分子レベルで解明しようというのが神経科学の役割のひとつです。

現代ではその研究の成果により、ストレスは必ずしも悪いものではなく、扱い方次第では自分を成長させる養分になることが証明されつつあります。その代表的なエビデンスが、米スタンフォード大学が行なった心理学実験で、あらかじめ被験者に「ストレス=学び」であると学習させると、ストレスレベルが有意に低下することが明らかになっているんです。

――では、成長を促すいいストレスとは?

青砥 ストレスにはダークストレスとブライトストレスがあります。前者は私たちを悩ませ、苦しませ、時にうつ病の原因となるものです。これに対して、私たちの成長や幸せに貢献してくれるのがブライトストレスです。

例えば、テスト前などなんらかの期限に追い立てられるような苦しみを味わい、それをどうにか乗り越えた後に大きな達成感や感動を覚えることがあると思います。その過程で味わったストレスは、私たちの学びを促進し、成長させてくれるのです。

――ストレスをポジティブなものとしてとらえることが大事ということでしょうか。

青砥 そのとおりです。ただし、私たちの脳は無意識に、ポジティブなものよりネガティブなものに注意を向けやすいという特徴があります。これをネガティビティバイアスと呼びます。ニュースがスキャンダルや事件など、ネガティブなものの割合が多いのは、そのほうが関心を引くことができるからでしょう。

また、人は恐怖や不安などの心理的ストレスに「慣れる」ことが難しいといわれています。例えば上司のパワハラなど、いやな出来事を思い出すたびに、その記憶は強くなるのです。これがいわゆる慢性的なストレス反応で、こうなると脳が十分なパフォーマンスを発揮できなくなるばかりか、心身をむしばむ可能性もあるので要注意です。

――そうした悪循環に陥らないためにはどうすれば?

青砥 まず自分自身がストレス反応を起こしていることを自覚することです。いやな出来事を思い出すのは、いやなことをしてきた人が原因なのではなく、その記憶を引き出している脳の仕業なのです。

近年、マインドフルネスなど自分の内側の反応と向き合うことが重視されているのもそのためで、ストレス反応に気づきさえすれば、いやなことを考え続けるスパイラルから脱して、別のことに注意を向けることだってできるわけです。

そのためには、たまにはスマホから目を離して景色を楽しむのもいいし、大好きなアイドルのライブを見るなど、なんでもいいんです。大切なのは何かいやなことがあったとき、そこに注意を向け続けず、記憶の痕跡に残さない努力をすることです。ただぼんやりと映画を見たり、BGMを聴いたりするのは効果が薄く、能動的に楽しいことをやるアクティブ性が重要です。

――適度な運動や、サウナで心身を"整える"ことも効果が期待できるでしょうか。

青砥 そうですね。運動で身体的な負荷をかけると、体はそれを緩和させるための化学物質をたくさん生産します。これを恒常性(ホメオスタシス)と呼び、結果としてストレスに強い状態を作りやすくなります。

サウナも同様で、熱さや水風呂に入った際の寒冷刺激から起きるストレス反応で回復作用が働き、効果的だと思います。その意味では、昨今のサウナブームというのは理にかなっているのではないでしょうか。

――なるほど。そうしてストレスと上手に付き合うことが、コロナ禍においては重要だと。

青砥 曖昧(あいまい)で不確かなコロナの情報がたくさんあって、ただただ批判的になってストレスをためている人もいる人と思います。外出や移動の自粛を求められて、就職したとしてもうまく働けないこともあるかもしれないけれど、その環境になったからこそのポジティブな面は、きっとゼロじゃないと思うんです。

すべてをネガティブにとらえるのではなく、意識的にポジティビティバイアスを働かせれば、逆にこの曖昧で不確かな今とうまく付き合っていく方法をひとりひとりが体得できると思います。

コロナのパンデミックは歴史の教科書に載る出来事でしょう。この危機を乗り越える努力をしながら、心のどこかで「将来、子供や孫に語って聞かせてやろう」なんて、想像して楽しむくらいの余裕があってもいいのではないでしょうか。

●青砥瑞人(あおと・みずと)
応用神経科学者。株式会社DAncing Einstein代表。小中高は野球漬け。高校は中退。脳の不思議さに誘因され米UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。2014年にDAncing Einsteinを創設。近年は、海外や国連関連のイベントでの講演活動に加え、大手企業やNPO、教育機関と連携・提携し、新しい学び方、生き方、文化づくりに携わる。著書に『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』(KADOKAWA)

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「ストレス」は付き合い方次第で自分を成長させてくれる養分になる――。神経科学の最新研究で明らかになりつつあるストレスの正体とは? うつ病などの病気の原因にもなるダークストレスを和らげ、脳の成長につながるブライトストレスを働かせるためには何をすればいいのか? ストレスをポジティブにとらえ、ストレスと上手に付き合うための方法を知る一冊

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