家族などから「イビキがうるさい!」と言われたことはないか? 「疲れているから」「ストレスがたまってるから」と放っておいてはいけない。それは、もしかしたら、新型コロナワクチンの優先接種の対象にも指定された、命に関わる病気かもしれないぞ!

* * *

■心臓に負担がかかる睡眠時無呼吸症候群!

新型コロナワクチンの接種は、基本的に「医療従事者」→「高齢者」→「基礎疾患のある人」→「それ以外の人」の順番で進んでいる。そして、寝ているときにすごく大きなイビキをかくことなどで知られる「睡眠時無呼吸症候群」は、高齢者の次に優先される「基礎疾患」のひとつである。

しかし、「慢性の心臓病」や「慢性の腎臓病」「慢性の肝臓病」「染色体異常」などと一緒に扱われるほど何が恐ろしいのか? この病気の専門病院「御茶ノ水呼吸ケアクリニック」の院長、村田 朗(むらた・あきら)医師に聞いた。

――睡眠時無呼吸症候群って、どんな病気なんですか?

村田 寝ている間に口の周りの筋肉などが緩んで気道が塞がり、呼吸が止まってしまったり、弱くなったりする病気です。1時間に10秒以上の呼吸停止が5回以上あると、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。5回から15回未満が軽症、15回から30回未満が中等症、30回以上が重症です。

――1時間に30回って、2分に1回じゃないですか!?

村田 はい。軽症の人でも12分に1回くらいの割合です。

普段、呼吸をしているときの血中酸素濃度は98%くらい。息を止める我慢比べをしても、意識がある場合は95%くらいにしか下がりません。苦しくて息をしてしまいますから。

しかし、睡眠時無呼吸症候群の人は無意識に息が止まっているので、寝ているときに血中酸素濃度が80%台くらいまで下がってしまうことがある。これは、いきなり酸素の薄いエベレストの山頂に行ったような状態です。

睡眠時の無呼吸で心臓に負担がかかると、心臓が痙攣する心房細動を起こして突然死する人もいる

――ヤバくないですか?

村田 ヤバいです。睡眠時無呼吸症候群の何が怖いかというと、ひと晩中、こうした低酸素状態を繰り返しているので心臓に大きな負担がかかってしまうこと。そして、夜中に激しい動悸(どうき)や息苦しさを起こす狭心症になったり、不整脈になったり、時には心臓が痙攣(けいれん)する心房細動を起こして、突然死する人もいます。

また、脳が呼吸を再開させるためにずっと働いているので、交感神経の緊張状態が続いていて高血圧になったり、インスリンの抵抗性がついて糖尿病になりやすくなる。また、ストレスでコレステロール濃度が上がり動脈硬化を起こしやすくなる。動脈硬化が起こると血栓ができやすくなって心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。

――すごい病気のオンパレードですね。どれくらいの期間でそうなるんですか?

村田 それは人それぞれですが、重症の人は3年で13%、5年で15%が亡くなっているという報告があります。

――げっ!

村田 心臓病、糖尿病、呼吸器の病気、メタボなど、新型コロナワクチンの接種を優先される多くの基礎疾患が、睡眠時無呼吸症候群の合併症として起こるわけですから、接種順位の上位に入れざるをえないわけです。

ちなみに、睡眠時無呼吸症候群になると睡眠の質が悪くなり免疫力が落ちます。また、口を開けて寝るのでのどを痛めてしまい、新型コロナに感染しやすくなります。

アメリカの研究では、睡眠時無呼吸症候群の人は新型コロナに罹患(りかん)するリスクが約8倍で、新型コロナにかかって呼吸不全などになる重症化リスクは約2倍だといわれています。

また、日本でも新型コロナ感染の疑いでホテル療養を行なった人の中で「睡眠時無呼吸症候群の治療を過去もしくは現在において受けたことがある人」は42%いたという調査報告がありました。

――怖すぎですね。

■イビキをかくのは、普通の状態ではない!

朝起きて頭が痛かったり、日中、ボーッとして集中力がない場合は、睡眠時無呼吸症候群かもしれない

――睡眠時無呼吸症候群は、自覚症状とかあるんですか?

村田 どこかが痛くなるとかならわかりやすいんですけど、そうした自覚症状はありません。ただ、例えば朝起きたときに頭が痛いというのは、睡眠時無呼吸症候群の可能性はあります。息が止まっているから空気を吸うこともできないし吐くこともできない。すると二酸化炭素が体にたまるので、起きたときに頭痛がする。でも、普通に呼吸を始めるとすぐに治ってしまう。だから、なかなか気づきにくい。

また、十分な良い睡眠を取れていないので日中に眠くなる。すると集中力が低下して仕事のミスや事故などを起こしやすくなる。実は睡眠時無呼吸症候群の人は、交通事故を起こす確率が病気でない人と比べて約7倍高いという報告があります。クルマを運転される方は気をつけてほしい。

それから、心臓に負担がかかるので循環する血液量を減らすため尿を出そうとします。そのため、夜中に頻尿になる人もいます。

――でも、これって睡眠時無呼吸症候群の人でなくても、疲れていれば日中に眠くなるし、水分を多く取っていれば夜中にトイレに行きたくなりますよね。

村田 そうですね。だから、なかなか自分が睡眠時無呼吸症候群だとわからないんです。私のクリニックでは「家族からイビキがうるさいと言われまして......」と来る患者さんがほとんどです。

――なるほど。

村田 まず知っておいてほしいのは、イビキをかくことは普通の状態ではないということです。

――そうなんですか? 疲れているときはイビキをかくものだと思ってました。

村田 疲れていてもイビキをかかない人はたくさんいます。正常な人はイビキをかきません。イビキをかくということは気道が狭くなっているという証拠です。イビキは無呼吸の前兆なんです。

――えーっ!?

村田 それに、睡眠時無呼吸症候群になるのは、太ったオジサンだけではありません。痩せている人も、20代、30代の人でもなります。

基本的な原因は顔の骨格だといわれています。日本人を含めた東アジアの人間は、頭の前後径が短い平たい顔のため、アゴが小さくてのどが狭い。だから、ちょっと太ったり、年を取って筋肉が緩んだりすると睡眠時無呼吸症候群になりやすいんです。

特に最近の10代、20代は小顔なのでイビキをかく人が増えています。若くてまだ筋肉がピンと張っているから無呼吸にならないけれども油断はできません。

――予防法はないんですか?

村田 「太っているとなる」「年を取るとなる」「お酒を飲むと筋肉が緩んでなる」「疲れるとなる」。この逆になればいいんですが、若返るのは無理だし、「太らない」「お酒を飲まない」「疲れないようにする」ことぐらいですかね。

ただ、治療している患者さんが「10kg痩せたんですがどうでしょうか?」と聞いてきたので、念のために調べてみたら検査結果にあまり変化はありませんでした。痩せても骨格は変わりませんからね。

――のどに筋肉をつけるというのは?

村田 皆さんが考えることはだいたい世界の医師がやっています。のどに筋肉をつけても寝ている間にその増えた筋肉が緩むわけですから、よけいにのどが塞がります。筋肉をつけたら逆効果なんです。

頭から足まで数多くのセンサーをつけて、寝ている間に何回くらい無呼吸になっているかや心電図、脳波などをひと晩かけて精密検査する。これで、今後の治療方針が決まる

――なかなか、いい予防法がないんですね。じゃあ、家族からイビキがうるさいと言われた場合はどうすればいいんですか?

村田 まず、専門のクリニックに行って簡易検査をしてください。この検査は指や鼻に器具をつけて自宅でひと晩寝るだけです。そして、もし無呼吸があったら精密検査に移ります。

精密検査は頭から足の先まで20ヵ所くらいにセンサーをつけて専門のクリニックなどでひと晩寝ている間に測定します。そして、検査の結果、睡眠時無呼吸症候群となれば治療が始まります。このときに無呼吸低呼吸指数が1時間に20回以上の場合はCPAP(シーパップ/持続陽圧呼吸療法)を使い、20回未満はマウスピースを装着します。

保険適用の場合は、こうした基準になっています。ただし、マウスピースだけでは無呼吸をゼロにはできません。「無呼吸を少し減らしましょう」という治療です。

一方のCPAPだと無呼吸をゼロにできます。鼻から気道に空気を送り込み、気道を広げて無呼吸を防止するからです。

精密検査の結果、1時間に20回以上の無呼吸があると鼻から気道に空気を送り込むCPAP(持続陽圧呼吸療法)をつけて寝ることになる

――CPAPをつけて寝るのはかなり大変そうです。面倒くさくなってやめちゃう人はいないんですか?

村田 たまにいますが、睡眠時無呼吸症候群という病気をきちんと理解している人は、長年、続けていますよ。CPAP治療を始めたら「眠気がすごく取れました」とか「これまで、疲れてぐったりしていたのが、子供と元気に遊べるようになりました」と効果を実感する人は多いですから。

放っておけば、さまざまな合併症が起きる可能性があります。睡眠時無呼吸症候群は、新型コロナワクチンの優先接種の対象になるほどの怖い病気なんです。皆さん気をつけてください。

* * *

睡眠時無呼吸症候群の予備軍は、約500万人といわれている。また、サラリーマンの5人にひとりは治療が必要という調査報告もある。自分はイビキが大きいなと思ったら、一度、検査を受けてほしい。これは命に関わる基礎疾患なのだから。