ついに廃止が発表された山手線唯一の踏切、第二中里踏切。巨大ゴルフボールが転がってきそうでこれ以上近づけない ついに廃止が発表された山手線唯一の踏切、第二中里踏切。巨大ゴルフボールが転がってきそうでこれ以上近づけない
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、ついに廃止が発表された山手線唯一の踏切、第二中里踏切について語る。

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前号は、引退間近の最後の2階建て新幹線、E4系Maxの思い出を語りましたが、今のうちに見ておきたい鉄道風景はほかにもたくさんあります。

なかでも思い入れが強いのは、JR山手線の駒込(こまごめ)~田端間にある、第二中里踏切。パッと見はなんの変哲もないスタンダードな踏切ですが、こちら、山手線の唯一の踏切です。「あの山手線にまだ踏切が残っている!」と、テレビや雑誌で取り上げられることも少なくない、大都会東京の昭和鉄道遺産で、ちょっとした珍スポットです。

長らく廃止がささやかれていましたが、昨年末に東京都北区とJR東日本が合意し、撤去を公表。廃止の時期はかなり先だといわれていますが、「今のうちに堪能しなきゃ」とちょこちょこ行っています。踏切の代わりとなる陸橋を建設するとみられており、廃止まで10年かかる可能性もあるから「焦りすぎっ!」と鉄道仲間に笑われましたが、私、この踏切が好きなのです。

例えば名前。「第二」中里踏切ですから、かつては「第一」もあったわけです。その踏切跡らしき場所が見つからず、大学生の頃に必死に探しました。最終的には古地図を頼りに、おそらくあっただろう場所を発見したときは、気分は『インディ・ジョーンズ』。人しか通れない細い踏切だったようで、線路脇のコンクリートが途切れているところがその名残だと思います。「大発見だ!」と高まりましたが、よく見たら踏切周辺によくある「高圧電線注意」の看板がデカデカと残っている上、線路を挟んだ道路がきれいにつながるので、古地図を引っ張り出さなくても見つかったな、とひとりで苦笑い......。それでも、感動しました。

第二中里踏切は、相方の「第一」が消えた後も、「第二」と名乗り続ける、律義で情け深いやつ。そもそも大きさ的には「俺が第一だろう」となってもおかしくないのに、快く「第二」を引き受けたのだろう。駄菓子の蒲焼(かばやき)さん太郎だって、一太郎と二太郎より大物になっても笑顔で「三」太郎として頑張っている(後に「蒲焼さん太郎」は「三太郎」ではないことに気づく。じゃあ「蒲焼太郎さん」であるべきではないか?と謎の不服を唱える)。よくわからない妄想がマックスに達したのは、第二中里踏切に戻り、自力(?)で鉄道遺産を見つけた高揚感に浸っているとき。「考古学者ってこんな気持ちかも?」と感慨にふけってたら、踏切の近くにあるゴルフショップの目印の巨大ゴルフボールがこっちに転がってくるかも、と『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の洞窟内のトラップにハマった遊びをしたくなりました。

風情もたっぷり。警報音が擬音の「カンカンカン」のモデルになったかと思うような、乾いているけどどこかかわいらしい音。誕生した1925年から電車しか通ったことがないのに「踏切あり」を示す道路標識が蒸気機関車のマークだったり、愛嬌(あいきょう)たっぷりな踏切です。隣には貨物線をまたぐ陸橋があり、陸橋の下には貨物列車や湘南新宿ラインが走るなど、高低差のある地形を利用した躍動感あふれる場所。廃止は寂しいけど、代わりに建設される陸橋からの景色もすてきそう。10年かけて心の準備をしときます。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。「三代目鳥メロ」という居酒屋を見つけ、初代と二代目が気になってしょうがない。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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