実寸大ユニコーンガンダム立像でおなじみの、お台場ダイバーシティのフードコート。除菌用アルコールのハイテンションなノリと絶妙なアナログ感がツボ 実寸大ユニコーンガンダム立像でおなじみの、お台場ダイバーシティのフードコート。除菌用アルコールのハイテンションなノリと絶妙なアナログ感がツボ
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、フードコートの魅力について語る。

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もっと早く気づくべきでした。私、フードコートが大好きです。見慣れたチェーン店の安心感と、ローカル店の未知なる誘惑の合体。あれもこれも食べたいときに、貪欲な自分を許してくれる寛容さ。呼び出し音が予想以上の音量で、あちこちでピーピー鳴り響くカオスな空間。子供が走り回るなかで重たいトレーを席まで運ぶときの無防備さまで好きです。テーブルが汚れているけど、台拭きが同じくらい汚れているときのジレンマまでいとしい。

振り返れば、人生のすべての局面に思い出のフードコートがありました。原体験は、祖母の家があった岐阜市の商業施設、マーサ21。そこは私が暮らしていたアメリカのフードコートと違って、明るくて爽やか。私の子供の頃の記憶では、真ん中に小さな水路が流れていて、まるでテーマパークのよう(なお、この記憶を裏づけてくれる親戚はいない。覚えている岐阜市民の方、連絡ください)。

フードコートに来るのは母が東海地方のソウルフード、スガキヤラーメンを食べたいときでしたが、「今日は何食べよう」と自分で利用するお店を選べて、大人の仲間入りをした気分でした。アメリカにはなかった出来上がりを知らせるベルが最先端技術のように輝いて見えて、「まだかなー」とガン見していたのに、油断した瞬間にやたらとデカい音で鳴ってびっくりするところまでセットで最高でした。

究極に自立心をかき立ててくれた原体験フードコートは、親友の家族と一緒に行った、シカゴの巨大フードコート。ただ、巨大というのも小学校低学年の記憶によるので、こちらも怪しい......。ここの特徴は、全員がセンサー付きのリストバンドがもらえて、各お店で支払いのときにタッチし、最後にまとめて精算するシステムで、キャッシュレス時代の先駆け的なハイテクフードコートでした。

親友とふたりきりでうろうろして、好きな料理を自由に選んでピッと"支払う"ことにとてもテンションが上がりました。お店もフードコート御用達のチェーン店と違った少しおしゃれな感じで、具体的に覚えているのは巨大なミートボールだけだけど、友達と一緒にレジに行く興奮は鮮明に覚えています。大人になってから探したけど、もうないのか仕組みが違うのか、それらしき場所は見つかりませんでした。こちらも情報求む。

中学に上がると友達だけで行動するのが当たり前になり、最寄りのモールのフードコートでダラダラしたり(食べたいお店の前におっかない連中がたむろしているときは諦める)、高校で東京に引っ越してからは、学校近くのフードコートに、ときどき放課後に行くようになりました。

人気店とそうでないお店の格差を見て不思議な正義感に駆られた私は、いつもすいていたピザ屋さんを利用していましたが、本当は、友人がいつも行ってた「ポッポ」が気になっていました。名物の山盛りポテト150円、それを、なんとソフトクリームにつける彼女に「しょっぱい×甘い」の味覚の扉を開いてもらいました。そして今食べたいのは、ポッポのラーメン。世の中が浮ついたラーメンであふれ返るなか、ポッポのなんてことのない、"ザ! 醤油ラーメン"が恋しいです。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。渋谷ミヤシタパークのフードコートにタコベルが入ったので張り切って行ったが、イケイケな若者だらけの空間にびびって引き返した。

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!