すぐに頭痛が治るロキロキの実なら食べたい
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

前回前々回と特殊能力について本気で考えてきた市川紗椰だが、今回はがっかりな「特殊能力」について語る。

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2回にわたって、マンガや映画などでおなじみの特殊能力を本気で考えてみました。SFは科学が進んだ先の世界などを舞台にした空想なので「いつか現実になるかも!?」と考察するのが正しい味わい方だけど、時には、リアリティをまったく目指してないファンタジー作品に無駄なツッコミをしてしまうこともあります。そんなイチャモンをつけたい能力をいろいろと調べていたなかで見つけた、「いらね~」と思わず声に出してしまったがっかり能力を紹介します。

まずは、500年後が舞台のゲーム『バレットストーム』。2017年に出たリマスター版をPS4で試しましたが、世界観はカッコいいものの、主人公の特殊能力「sliding」がどうも......。名前から、『Sliders』というアメコミのようにさまざまな次元を自由に移動できるのかな、と思いましたが、この場合のslide=滑るは、地面の上を滑ること。しかも、摩擦の度合いによって、滑れる距離が変わる......。靴下とツルツルのフローリングで叶(かな)えられるこの能力、ハズレにも程があります。

続いてはマンガ『ONE PIECE』より、サビサビの実の能力。この悪魔の実を食べると、触れた金属をサビつかせることが可能。作中では、能力者の海軍大佐シュウがゾロの刀をつかんで瞬時にボロボロにしてましたが、手で直接触れないと何もできないのが大きなネック。それに、金属をサビつかせるのは能力というより単なる金属の特性。現実的には、迷惑駐輪をしている自転車をサビつかせるくらいしか使い道がないけど、これも能力を発動せずに雨ざらしにしたら実現できそうです。

同じく『ONE PIECE』より、ビスケットを大量生産できるビスビスの実も私にとってはハズレ。この能力で世界一怠惰なお菓子屋さんになるのは魅力的だけど、そのために泳げないなんて、デメリットが大きすぎます。

ビスビスの実と同じくらい愉快だけどしょぼいのは、『X-men』のダズラーの能力。コミックスではそこそこ活躍するけど、実写では映画『X-MEN:ダーク・フェニックス』で、ミュータントキッズのためにパーティで歌ったくらい。ダズラーの能力は、音を光に変換すること。難しいことをしているかもしれませんが、要は人間ミラーボールです。ミュータントである苦悩と差別の代償がこの能力では、バランスが悪すぎます。

マーベルの世界にはがっかり能力は少なくなく、ほかにも、リスと話せるSquirrel Girl(直訳でまんま「リス少女」)、隣の部屋に人を通せるDoorman(扉がなくても通せるのはいいけど、隣の部屋のみ、という制限がなんとも。しかもネーミングの雑さよ)など、作り手の愛のなさとネタ切れの切実さがひしひしと伝わる能力がたくさんあります。

一番衝撃的だったのは、DCコミックスのArm-Fall-Off-Boy。文字どおり、腕が取れるボーイ。取り外した腕を武器にして敵を殴ったりしますが、それって、工程がひとつ多くなった単なるパンチなのでは? 普段より少しリーチは長くなりますが、メリット薄すぎ。脇もガラ空きになるし、ふびんで仕方ないです。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。『ONE PIECE』ではいまだに、フランキー以降に仲間になった麦わらの一味を新参者扱いしている。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!