対面活動は禁止、飲み会も禁止、合宿も禁止! ないない尽くしの大学サークル文化で、新入生と上級生の間で断絶が深まっている。その一方で新たな潮流も生まれていた。
■オンライン化に悩む
昨年の春、コロナ禍で大学は閉鎖されて講義はオンラインに切り替わった。現在は徐々に対面授業が再開されつつあるが、キャンパスライフの花形であるサークルは今も大幅に活動を制限されている。具体的には対面での活動や飲み会、合宿などが禁じられ、破ればサークルの公認取り消しや学生個人への処分などに及ぶ場合もある。
そうした制約からサークルの多くは今、オンラインに糸口を見いだしているが、その方向性は大きく分けて3つある。ひとつ目は練習や定例会など基本的な活動のオンライン化だ。しかしダンスサークルに所属する4年・女子は「ハードルは高い」とこぼす。
「そもそも練習が成り立ちません。Zoomをつないで音楽をかけみんなで踊って練習していますが、振りがどうしてもズレるし、練習後の打ち上げもないとモチベーションの維持が難しい」
一方で、新たな試みがうまくいっている団体もあった。
「これを機に、アカペラ歌唱の様子をYouTubeに上げ始めた。ネット上で反応が見られるのは今までにない刺激になる」(アカペラサークルの3年・男子)
この1年半にサークル間で明暗が分かれつつあるらしい。対面活動の制限に伴う混乱エピソードは後ほど詳しく紹介するとして、ふたつ目は"新歓"(新入生歓迎活動)のオンライン化だ。
「対面の新歓説明会が禁じられたので、Zoomでやりました。僕が所属しているお笑いサークルでは、『皆さん集まりましたかね。それでは自己紹介します。新入生の○○です』って言って、サークルメンバーたちがZoom越しに一斉に『新入生かい!』ってツッコんでもらうという、超単純なボケをかましました(笑)。
でも、それを見た新入生は雰囲気のいいサークルだと思ってくれたのか、例年の1.5倍新入部員が入りました」(4年・男子)
しかし、うまくいく事例はごく少数で、
「やっぱり対面でワイワイ話さないとサークルの雰囲気が伝わらない。活動内容を単調に話す企業説明会のようになってしまったし、冗談を言っても新入生のマイクやビデオがオフばかりなので、空気が凍りました」(イベントサークルの3年・男子)
と、悩みは尽きない様子だ。
3つ目は文化系サークルにとって集大成のお披露目場となる、学園祭のオンライン化だ。昨年は多くの大学で初となるオンライン学祭が開催されたが、
「盛り上がったという話を聞いたことがありません。コピーバンドやコピーダンスの配信を家で見ても、やはり楽しくない。うちの大学は例年なら数万人が参加していたのですが、YouTubeの配信で視聴者は数十人のときも。ほとんど身内だったんじゃないかと思います」(4年・女子)
授業はもちろん、サークル活動でもコロナに翻弄(ほんろう)される大学生たち。その閉塞(へいそく)感と、徐々に見えてきた新たな文化の芽を追った!
■抜けていくメンバーに怒りを覚える
まずはコロナ前のキャンパスライフも経験している4年の女子学生の声から。
「コロナ前の活動を知っている自分たちにとってはつまらない毎日です。私が所属する観光案内サークルは外国人観光客が来なければ活動できないので、今はただの仲間の集まりです」
当然、サークルを抜ける上級生が後を絶たない。
「大学に行く機会がなくなり、サークル室にも足を運ばなくなった。前は授業の合間に集まって仲間とよく雑談していたのですが、自然と疎遠になり活動から離れていってしまいました。ああいうリアルの場での雑談がサークルに人を引きつけていたのだと、失ってから痛感しましたね」(新聞サークルの3年・男子)
一方、講演会などを企画するサークルの代表(3年・男子)からはこんな声も。
「サークルが苦しい時期に、仲間がどんどん離れていく。自分は先輩たちから受け継いだサークルを残そうと奮闘しているのに、楽しくないからと抜けていくメンバーたちには怒りすら覚えてしまう」
と、ここまでは自粛要請を守っているサークルの話。だが、学内では"ヤリサー"と言われることもあるテニスサークルの4年・男子はこう語る。
「ぶっちゃけ、上級生同士では相変わらず飲み会ばかりしています。十数人で男女半々くらい。時短営業を守ってない居酒屋なんかでパーッとやってます。ただ、自粛に対してどう考えているかわからない新入生は誘いづらいですね」
同じく華やかなイメージのあるイベサーはというと、そもそも会場のクラブなどが休業中で借りられないこともあり、活動は停滞しているところが多かった。しかし最近は、時短要請を守っていないスペースを借りてイベントを開くサークルもあるようだ。
■「サークルって何が楽しいんですか?」
では、現在の1、2年生、つまり"コロナ直撃世代"はどうか。
「ショートムービーを作るサークルに入ってみたものの、先輩から動画編集のタスクを振られるだけ。行事も合宿も飲み会もなく、ただ仕事を無償でしているように感じる。これの何が楽しいのだろうかと思ってしまう」(1年・男子)
などと、やはり多くは楽しさを実感できていないもよう。
そもそも、サークルに入らなかった新入生も少なくない。
「オンライン新歓には参加したが、魅力がよくわからず、どこにも入らなかった。大学に友達もいないので毎日家でYouTubeを見る日々。虚無感しかない」(1年・男子)
「先輩たちは私たちに『サークルが楽しめなくてかわいそう』と言うけど、そもそもサークルがどういうものかわからないので、何が失われているかも実感できない。そんなに楽しいものなんですか?」(1年・女子)
とはいえネガティブな意見だけではない。サークルで友達をつくれた、という声も少なからずある。
「サークル入会をきっかけに新入生同士でSNSでつながった。そこで交流するうちに友人になり、去年の夏休み頃からは遊びに行くようにもなった」(デジタル創作サークルの1年・男子)
ようやく対面活動が部分的に再開されつつある大学も出てきた。アカペラサークルの男子新入生が満足げに話す。
「8月に日帰り合宿に行ってきました。外泊は学校のルール上不可能なので、『合宿』といっても学校のサークル室に集まって歌うだけだったんですが、とても楽しかったです! これまで練習はZoomだけだったので、そこで初めて会う人もいたり。
お昼は5人ずつに分かれて近くのレストランに行ったんですけど、『一緒にご飯を食べるなんて大学生っぽい!』と感動しました」
■潰れたサークルも多数存在
ここまで大学生たちの声を聞いてきたが、やはり上級生と下級生の間での断絶は大きそうだ。では、これからサークル文化はどうなるのか。実際、この1年半でなくなったサークルは少なくない。
「学校の屋上で流しそうめんをするなど変わった企画を連発して、学内で有名だった名物サークルが解散した」(4年・男子)
「伝統あるダンスサークルが潰(つぶ)れた。代表が頑張って呼びかけたが誰も戻ってこなかったと聞いた」(大学院修士1年・女子)
だが、このようにはっきりと解散が決まったところは少数で、ほとんどは活動ができなくなって自然消滅、あるいはその一歩手前の状況にあるようだ。音楽サークルの学生の声。
「サークル内で組んだバンドメンバーとはコロナ禍でも練習を続けてきましたが、同じサークルのほかのバンドのメンバーとはずっと交流がないし、オンライン飲み会もみんな飽きている。メンバーが減っていき、サークルは自然消滅してしまいました」(3年・女子)
しかしここで疑問が。長引く自粛は確かに気の毒だが、それでもなぜ、1年半程度の自粛で多くのサークルは危機に瀕(ひん)しているのか?
そこには、就職活動の早期化が絡んでいる。
ここ数年で、大学3年生の夏からインターンシップに参加し、そこからノンストップで就職活動に突入するのが一般的になった。そのため今の大学生は3年生の夏から秋にはサークルを引退することが多く、サークル運営の中心は2年生になっているのだ。
しかし、現在の2年生は対面での活動をほとんど経験したことがない。そのため、運営ノウハウが引き継げていないのである。バンドサークルの4年・男子に説明してもらおう。
「技術的なことは書面でノウハウを引き継げます。しかし、ライブの細かい流れや合宿などの行事は実際に参加しないと厳しい。書面を渡して形式的には引き継げたとしても、自分たちが卒業した後は、もう僕のサークルは活動を続けられないでしょう」
前出の講演会企画サークルの代表は悔しさをにじませる。
「新入生が2年連続で入らなかったので、来年の新歓ができたところでもう手遅れです。何十年も続いたサークルを自分たちの代で潰すことになってしまうのはOBやOGたちにも申し訳ない」
こうした状況を受け、一部のサークルではOB、OGが救援に入っている。
「オンライン学祭の準備は、新しいことだらけで私たちだけでは対応できませんでした。仕方がないのでホームページ制作や配信の準備などは、OBとOGの手を借りて行ないました」(学祭実行委員長の3年・女子)
「僕は今年の3月に大学を卒業しましたが、今もサークルの業務を手伝っています。企画のノウハウや、大学から公認継続の許可をもらう手続きなどは慣れが必要ですから。しかし、そんなことがいつまでも続けられるとは思えず、その場しのぎにすぎないと自分でも感じています」(企画サークルOB)
■オンライン完結のサークルが流行
ここまではキャンパスライフの重苦しい現状を見てきた。しかし、新しい大学文化も芽吹き始めている。
例えば、オンライン上で活動が完結するという、今までにないサークルがいくつも出現してきているのだ。
「現代文化研究サークルに所属しています。事前にテーマを決めておき、オンライン上で各人が発表、その後ディスカッションをするというのが活動内容なのですが、これはチャットツール『Discord』内で完結します。このサークルは関西の大学で発足したのですが、東京に住んでいる僕でも気軽に参加できます」(2年・男子)
「満足な学生生活がなかなか送れなかったので、読書の趣味が似た人たちで集まり小説やマンガをチャットサービス上で語り合うサークルを自らつくった。最近は、エッセイや批評を載せた会報の発行を始めました」(1年・男子)
ノリ重視の大学サークルはコロナで困っている一方、こうした文化系サークルが生まれているのは興味深い。
その一方で、対面での活動を伴うサークルも新たに立ち上がっている。ある大学では、自然発生的にラップサークルが発生した。
「飲食店がやっていないのでよく大学の友達と公園で飲んでいたんですが、ある日から音楽をかけてラップをするようになって。
その後、いつの間にか金曜日の夜に集まってサイファー(ラッパーが集まり、円になってフリースタイルラップをし合う)をするサークルに発展して、今や違う大学の人や社会人まで参加することもあります。最近では大きなラップバトルに出てプロを目指してる人も遊びに来ましたね」(3年・女子)
彼女たちの場合、大学の仲間が中心メンバーではあるが、そもそも大学から公認を受けるつもりがない。大学ではなくストリートで活動を続けるつもりだ。
また、新歓イベントも新たな形が模索されている。立命館大学では、新入生がアバターを作り、キャンパスを模したバーチャル空間でオンライン上のサークルブースを回る「VR新歓」が今年4月から5月に行なわれた。
「Zoomを用いた新歓より、キャンパスをバーチャル空間で再現したほうがリアルの学生生活っぽいと思い企画しました。アバターで参加するので、従来のブース新歓(入学式の直後に行なわれる、各サークルがブースを出して新入生を勧誘するイベント)にはつきものだった強引な勧誘などがなく新入生がマイペースに参加できる。コロナが明けても続けたい」(主催した学生)
これらの動きは、大学サークル文化のアップデートとなるかもしれない。
古今東西、文化が途絶えれば新たな文化が生まれるもの。早くサークル活動自粛が全面解除されて彼ら・彼女らが楽しい学生生活を送れることを願う一方で、新時代のカルチャーがこの先いくつも生まれていくことも期待したい!