年間1000以上の商品が発売されるといわれるインスタント麺業界。大手メーカーが圧倒的なシェアを誇るなか、即席麺の中堅メーカー・ヤマダイのカップ麺「ニュータッチ 凄麺」が10月29日に20周年を迎えた。
その名のとおり、麺のうまさはもちろんのこと、ご当地シリーズでは北は札幌から南は長崎まで、日本各地のご当地ラーメンの味を再現し、好評を博している。
そんな「凄麺」が愛される理由やこだわりを、ブランド立ち上げから携わる開発担当の松澤伸明氏と経営企画部長の森田和樹氏に伺った。
■予定のなかったご当地シリーズ誕生
――2001年の発売以降、今もファンが多い「凄麺」。そもそも開発された経緯は?
松澤 ゆでたての麺質を再現し、カップ麺を超越した存在を目指そうと生まれたんです。ノンフライ麺は蒸した麺を熱風で乾燥させたものが一般的です。ですが凄麺のノンフライ麺は、ゆでた麺を乾燥させることで、生麺に近い独特の食感を生み出しました。
――第1号が「煮玉子らーめん」というのは珍しいですね。
松澤 煮玉子は今のカップ麺ではほとんど見かけないですが、当時はいくつか商品があったんですよ。複数の具材候補の中から、最初に出すならインパクトのあるほうがいいと決まりました。
――その翌年に「佐野らーめん」をリリースしますが、ご当地ラーメンシリーズになったのは2作目からなんですね。
森田 社長から聞いた話ですが、次を何にしようか考えていたときに、付き合いのあった北関東の問屋さんから佐野ラーメンを作ってほしいという要望があったらしいんです。なので、厳密に言うと、当時はまだ凄麺ブランドでもなく、途中からのリニューアルを機に「ご当地系の凄麺」になったんです。
――ご当地シリーズはその時点で考えていなかったと。
松澤 そうなりますね。正直、まだ始まったばかりでわれわれも確固たる戦略がなく、いろんな方向で商品作りをしてました。そのときは、特にご当地ブームでもなく、佐野ラーメン自体も今と比べると全国的な知名度は低く、マイナーな存在でしたから。
それが、いろんなトレンドが重なり、売れ筋になって、ご当地シリーズという独自の強みになっていったんです。
森田 当時、神奈川の人気ラーメン店「支那そばや」創業者で"ラーメンの鬼"と呼ばれた佐野実さんがご存命で、みんな佐野ラーメンを知らないから"佐野さんが作ったカップ麺"だと勘違いして購入された方もいたそうです(笑)。
――ラインナップも「博多とんこつ」や「喜多方ラーメン」など全国区のものから、静岡の「焼津かつおラーメン」奈良の「天理スタミナラーメン」など、地元以外では珍しいものまで幅広いですが、商品開発の基準はあるんですか?
松澤 地元に根づく商品を作ることが第一ですね。事業所は札幌から広島までありますが、営業スタッフは毎日ラーメンを食べているくらい、とにかくラーメン好きが多いんです。なので、開発担当者たちも知らないラーメンも含めて、各地から「こういうご当地ラーメンを作ってほしい」と、いろいろなものが候補として挙がってくるんです。
森田 個人的には、自分の地元にはないラーメンが食べたいと思うんですが、売り上げデータを見ると、地元の商品が売れているんですよ。日本人の郷土愛の強さにハッとさせられました。
――そうなんですね。実際の開発では、現地で味などの確認をするんですか?
松澤 最終プロトタイプを作る段階でピックアップしたお店や、ご当地ラーメン団体には伺うことも多いです。「佐野らーめん」のときも「佐野らーめん会」さんに協力していただいて、認めてもらいました。ただおいしいだけでなく、現地の味として認められないとダメですから。
■すべては原価率へ還元。開発者の意外な苦労
――地元のお店の協力もあるんですね。でも、有名店とのコラボは見たことないような......。
森田 お店とコラボをさせていただくことも稀(まれ)にありますが、「凄麺」はあくまで「お店」でなく、地元に根差している味をひとつの形にする商品と考えています。
また、それを実現するためには、コラボでのインセンティブをかけず、味に関わらないコストを最小限にするという理由もあります。広告宣伝費を原価に回せるようにCMも作ったことがないんですよ。
――それだけ品質にこだわっているんですね。ちなみにパッケージ写真も開発担当者が撮影しているそうですが、それもコストカットのため?
森田 結果的にそうなりますが、商品の魅力を一番理解している人間が撮ったほうが伝わるからですね。
松澤 正直、撮影日は憂鬱(ゆううつ)ですよ。撮影の研修はあるんですけど、頭の中のイメージを再現できるかといったら不安ですから。デザイン的な理由で撮り直しもありますし。今は統括する立場で撮影がないので、ホッとしています。
――意外なこだわりと苦労が(笑)。味以外でほかにこだわっていることは?
森田 なるべく終売しないことですね。たくさん種類があることでお客さまに喜んでもらえていると感じているので。実際、通販では好みの12食を選べる「凄麺アソート」が好評です。数ヵ月で終売になるカップ麺も多いのですが、「凄麺」のほとんどは5年、10年と販売し続けています。
――話を開発に戻しますが、年間どれくらい試作されているんですか?
松澤 リニューアルも含めたら、年間で1000以上はプロトタイプを作っていると思います。ひとつにつき何十人規模の試食をしたり現地の方々にも食べてもらったり、いくつもの試作品を作ります。そして改良を重ねたふたつが「社長試食」でひとつに絞られて、ようやく商品になります。
――ここで社長自ら登場!
森田 社長は若いときから開発畑で、自ら「凄麺」のプロジェクトリーダーとして各地を食べ歩いていましたから。最終的な商品化の判断はすべて社長が行ないます。
■10年以上かかった極太麺への挑戦
――社長もラーメンオタクなんですね。現在、ご当地シリーズとして23種類販売されていますが、再現が難しかったラーメンは?
松澤 濃い味は比較的、本物に近づけやすいイメージです。ただ、清湯(チンタン)スープのように澄んだスープは、素材の味が決め手になるのでカップ麺では難しいですね。
森田 素材によっては、調達価格や加工が難しく使えないものもあるので。一方、濃厚な味は異なる素材の組み合わせで再現しやすいんです。
――ほかに苦労した点は?
森田 (松澤さんに)ちゃんぽんでは? 20年の半分は使ってますよね?
――ちゃんぽんは味の再現が難しいんですか?
松澤 麺です。1㎜という数字はすごく小さいですけど、麺の世界では髪の毛一本分の厚みを出すのに、原料の小麦粉の種類も配合もすべてを考えなくてはならないんです。ちゃんぽんに合う極太麺ができて、ようやく2017年に念願の「長崎ちゃんぽん」がリリースできました。
――その違いってわかるものなんですか?
松澤 私どもはわかります。ただ、お客さまがそこを感じていただけるかっていうと......。
森田 もうトレーニングですよね。それくらい、いろんな麺を食べ比べ続けてないと無理だと思います。ちなみに社長もわかるそうです。
――皆さんのラーメン愛が伝わりました。最後に今後の展望をお願いします。
森田 ご当地ラーメンって細かく見るとどこにでもあるんですよ。なので、47都道府県をすべて作りたいですね。
松澤 全国もそうなんですけど、私は埼玉出身なので、まずは終売になってしまった「さいたま豆腐ラーメン」を復活させたいです(笑)。