ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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京都発祥で、こってりスープが人気のラーメンチェーン「天下一品」がカップ麺を発売したという。マニアというほどではないけれど、僕も何度か店で食べたことがあり、あの独特なとろみのある濃厚さと、意外にも油でギトギトしていたりはせず、胃にもたれることもない味わいは大好きだ。というわけで、とても興味がある。コンビニで見かけ、さっそく買ってきた。
で、実際にこれを食べてみると、まず、カップ麺としてはものすごく美味しい。けれども正直なところスープはさすがに、店で食べるのと同じ濃厚さというわけにはいかない。わりかしさらりとしている印象。まぁ、そもそもカップ麺に店と同じものを求めるのが間違ってるんだけど。しかしながら、味のほうは確実に、あの天一を彷彿とさせるものだった。
となれば......僕の頭にむくむくとある想いが湧き上がってくる。
「魔改造してやるか」
すぐにコンビニで同じカップ麺を買っておいた。数日後の昼、タイミングを見つけ、天一カップ麺の魔改造、すなわち、せっかく研究の末に完成した市販品に自分勝手なアレンジを加え、より店の味に近づけられないかの実験にとりかかることにする。こういった行為を僕は、"冒涜のグルメ"と呼んでいる。
使用するのは、市販の鍋の素「鍋キューブ 濃厚白湯」と「春巻の皮」。鍋キューブの用途はなんとなくわかるだろう。天一の白湯スープにさらなるブーストを加えるのだ。本来の天一スープは野菜や鶏ガラがベースで、豚骨は入っていないそうだが、店を出すわけでもなし、まぁいいや。
では春巻の皮はなにゆえか。僕はふだんから、食べものに関してなにか気になることがあれば執拗に検証し、レポートにまとめる、というようなことばかりしている。っていうか、それが仕事だっていうんだからふざけているのだ。が、そういうことをくり返していると、一般的に知られていない、というか知りたくもないような"食の裏技"がやたらと蓄積されてゆく。今回の裏技は、いろんな点心の皮を刻んで麺を作る研究をしていた際に発見した、「春巻の皮をスープに投入すると溶けてなくなり、スープの粘度が上がる」だ。同様の効果は「もち」にもあるが、もちだと若干、のりのような食感が残るので、僕は春巻派。まぁ、この世に春巻派は僕ひとりで、もち派は0人なんだけど。
鍋にカップ麺の規定量よりも多めに湯をわかし、そこに鍋キューブとちぎった春巻の皮1枚を投入。両方が溶けるまで待つ。そうしたら次は本日最大の冒涜タイム。カップ麺についてきたかやくに加え、「必ずお召し上がりの直前に入れてください」と指示のある「あといれスープ」を、かまわず先に入れてしまう。
それらが溶けたら味を見て、しょっぱすぎれば水を足したりして調整し、スープの完成。相当にとろっとろの、そして味もかなり天一そっくりの、濃厚なスープになってくれた。
この鍋に麺も入れ、火が通ったらラーメンどんぶりによそい、家だからこその好き勝手なトッピングをして、いよいよ完成。
ラーメンの具は、チャーシューがわりに冷蔵庫に残っていたプレスハム、青ネギ、のり、それから「餃子の満洲」で買ってきたメンマ(これまた冒涜)をたっぷり。
また、もう20年近くも前の話なので正確性にちょっと自身がないんだけど、かつて新宿区の大久保に天一があって、ある日そこに友達と入ったところ、なんとキムチが食べ放題だった。そこでミニライスかなんかをとり、キムチをのせ、さらにこってりスープをちょろりとかけて食べたらものすごく美味しかった、という記憶が、かすかにある。あれを再現してやれと、ピンポン玉大ライスとキムチも用意した。
さぁ、いよいよ実食タイム。まずはれんげでスープをすくい、ひと口。スルルルル......この口中にまとわりつくようなとろみと、鶏や野菜の旨味。やった! かなり正しい方向にブーストが成功していて、まるで店の味だ!
続いてスープから麺をひきずりだし、すする。柔らかめのつるつる食感が、とてもインスタントとは思えない。ふるふるとしたスープがよく絡み、目をつぶればそこは天一。
好き放題入れた豪華具材たちも良い働きをしてくれ、最後まで飽きずに食べることができた。なにより、思いつきの魔改造が一発で成功したことによる達成感こそ最高の調味料。あぁ、本当、こんなことやってる時間が人生でいちばん楽しいな。
そうそう、肝心の「スープがけキムチごはん」の味はどうだったかというと、まぁ、食べたかどうかの記憶が曖昧なくらいだから、はっきり言って味なんか覚えてるはずもない。が、その組み合わせでまずくなるはずもない。
はい。もう、最高にうまかったです。