京都の道の駅「丹後王国」にて、リクガメのリクと。こういう亀と近所を散歩する老後が目標
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、「亀」について語る。

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私のひそかな夢は亀を飼うこと。以前、子供の頃に大好きだったニンジャ・タートルズについて語りましたが、実はずっと亀そのものに惹(ひ)かれてきました。

物心ついたときからずっと犬を飼っている私は、なぜかよく亀を預かる人生を送ってきました。小・中学校時代は、ボックシーという名前のハコガメ。箱=Boxをかわいくモジった名前で、日本語に訳すと「箱太郎」的な安易すぎるネーミング。今は誰の亀だったかさえ思い出せないけど、その人が旅行をするたびにわが家に来ました。水槽から出して家の中を散歩させたり、よくわからない亀餌の缶詰に食いつこうと口をパクパクしているのをボーッと見守ったりと、大充実でした。

「亀鳴く」という俳句の季語がありますが、ボックシーは実際に鳴く子で、ピカチュウがウイスキーでうがいしたような声でした。大学の頃には同級生のミシシッピアカミミガメのあずき(手足の可動域が異様に広かった)とトッさん(のちにメスだと判明し、トッコに改名)など預かりましたが、かれこれ10年強、うちに亀は来てません。寂しいものです。

亀の魅力のひとつは、その速度感。ゆっくりしたひとつひとつの動きに癒やされていると、急に手足のスピードを上げ、激しい動きを披露します。水槽の中でプチ移動してベストポジションを探しながら大暴れしたり、急に手足を一生懸命踏ん張ってびっくりするくらい素早く歩いたり、まあ飽きません。必死に動いた割には結局のんびりなところや、小さな怪獣のようなビジュアルなのに目がパッチリなアンバランスさにも引き込まれます。眺めていると、つぶらな瞳と悟った表情で見返してきます。あのマイペースな動きと表情の前に、「あ、亀はすべてお見通しなんだな」と誰もが思うはず。

亀の歴史を考えると、それも当然。恐竜が全滅した原因といわれている隕石が落下した前後に、同じ種類の亀の化石が発見されています。つまり、隕石(いんせき)が落下しても、何事もなかったかのように生き続けています。亜熱帯に住む亀の化石が日本でも発見されており、今より暑かった時代の日本も彼らは見てきたようです。そんな偉大な生きた化石をわれわれは家で飼えるのです。すごい。歴史の証人(証亀)の代表は、イギリス東インド会社の社員が飼っていた推定約250歳の亀。動向を調べたら、2006年に亡くなったことを知り、15年遅れて追悼。

宇宙旅行をした亀もいます。アメリカが初めて有人月周回飛行を成功させる前、1968年9月にソ連の宇宙船でリクガメ2匹が先に月を周回しています。『ウサギと亀』に代表されるように、足が遅いイメージの亀ですが、宇宙開発競争では"早かった"! 50年~200年という亀の寿命を考えると、「その2匹はまだ生きているかも!?」と思って調べてみましたが、地球に帰ってきたときは体に異常がなかったという情報以外は見つけられませんでした。

ちなみに日本人宇宙飛行士の油井(ゆい)さんの下の名前は亀美也(きみや)。『宙亀(そらかめ)通信』という動画も公開しており、勝手ながら親近感を抱きます。そんな油井さんは、亀ではなく、犬を飼っています。名前はくま吉だそうで、油井家の動物の渋滞にも注目です。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。絶滅寸前のピンタゾウカメ最後の生き残りだったLonesomeGeorge(寂しいジョージ)。名前のデリカシーのなさがツボ。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!