ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才？」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
＊ ＊ ＊ ＊
今日の仕事現場は、東京都北区の王子だった。内容は、昼間っからとある方と酒を飲みながら対談をするという楽しいだけのもの。となれば、早めに行って軽く下地を作っておきたい。また、対談系の仕事って、いくら飲みながらとはいえ、話すことに夢中になってしまってあれこれ食べられないことが多い。なので、軽く胃になにか入れておきたい。さてどうするか......なんつって、僕の心はすでに"ある店"に向かっているんだけど。
王子は大好きな街のひとつだ。「宝泉」や「山田屋」に代表される名酒場もたくさんあるし、かつては駅のホームと隣接する「飛鳥山公園」の間にひっそりと、「さくら新道」という激シブの横丁があった。なかでも「スナックまち子」という店が大好きだったんだけど（ご興味あれば、以前「まち子」について書いた記事をご覧ください）、今は横丁ごとなくなってしまった。あの温かい空間がもうこの世にないなんて、なんだか信じられない。諸行無常。
確認しに行ってみると、やはりないのだった
さて、向かう"ある店"とは「平澤かまぼこ」。自家製のかまぼこは名物のひとつだけど、その専門店というわけではなく、メインはカウンターのみの立ち飲みおでん屋。ここがもう、安くてうまくてサクッと飲めて、王子に来たからには寄らずにはいられない名店なのだ。
「平澤かまぼこ」
大人気店だが、さすがに平日日中ということもあって、すんなりカウンターのはしに着くことができた。まずは「チューハイ」（３００円）をお願いし、それをすすりながら注文を検討してゆく。
いい眺め
壁には魅惑の品々が並ぶ
え～と、おでんだねでいちばん好きな「ちくわぶ」はマスト。「じゃがいも」もマスト。ここは豆腐はないから......「あつあげ」かな。おっと、もちろん大根も。合わせて５５０円。
店頭のおでん鍋から直送
いつものことだけど、僕がなにも考えずに好きなおでんだねを選ぶと、皿の上が真っ白になりがちだ。
まずは大根から。清廉なその身にスッと箸を入れ、一片を噛みしめる。じゅわりと広がるだしの味。おでんの大根って、その店のつゆを味わうための装置と言えるかもしれない。家で雑に作ったおでんとは違い、どこまでも上品なんだけど、しっかりとだしが効いているから満足感がすごい。位置的に暖房の風が暖かく、内側からはおでんでほっこり。そこにキンキンのチューハイを流しこむ快感！
ちくわぶは、外側はとろとろ、中央に若干芯の残る僕のいちばん好きな仕上がり。厚あげの、ジューシーでありながら透明感のある味わいもいいし、さすが今回の最高級品だけあって、じゃがいもの食べごたえもすごい。それに味が濃い。語弊をおそれず言えば、さつまいもくらい味が濃い。......伝わらないかな？ まぁ、機会があれば食べてみてくださいよ。
ここはおでん以外のちょっとしたつまみもあれこれうまいし、せっかくだから自家製のかまぼこも食べたかったけど、もう身も心も大満足だ。それに、このあとも飲むんだし。
さて、そろそろ仕事に向かおうかな。
【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新！】
