ここ数年、30年前の国産スポーツカーの中古価格が鬼の爆上げ! 下手な高級輸入車よりも価格が高いというのだ。どうしてこんな事態に? 背景には何が? 自動車専門誌の元編集長で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する。

■中古価格爆上げの背景にある「25年ルール」と「投機目的」

ーー1980年代後半から1990年代に登場して一世を風靡した国産スポーツカーの中古車価格が、おかしなことになっているらしいスね?

渡辺 ここ数年、国産スポーツカーの中古車価格は鬼の爆上げ状態が続いており、1000万円を軽く突破するクルマが多数あります。

ーーこれは、発売当時子供だった世代がお金に余裕ができて、いわゆるひとつの〝大人買い〟をした結果なんスかね?

渡辺 それもありますが、国産スポーツカーの相場が異常な高騰を続けている背景には、アメリカの25年ルールの影響が挙げられます。数年前から日本の古い人気スポーツカーが続々とアメリカに渡り、国内の中古車市場から姿を消しているんです。

ーーその影響で、国内のタマ数が激減していると?

渡辺 もう少し踏み込むと、入手困難になりつつあるワケです。アメリカでは原則的に右ハンドル車の輸入が禁止されています。ところが、生産から25年が経過したクルマになると、右ハンドル車であっても、いわゆる〝骨董品〟と同等の扱いになります。つまり、輸入OKとなる。コイツが鬼の爆上げの背景にある25年ルールの実態ですね。

ーーなぜアメリカで日本の古いスポーツカーが重宝されているんでしょうか?

渡辺 人気ゲームソフト『グランツーリスモ』や、映画『ワイルドスピード』の影響とされています。〝ジャパニーズカルトカー〟などと呼ばれており、アメリカ人にとってはクールな存在のようです。今後もどんどん国産スポーツカーは海を渡るでしょうね。

ーーなぜこんな事態に?

渡辺 皮肉な話ですが、日本では古いクルマに価値を見い出したり、大切にする文化が育っていません。クルマを生活のツールとして捉える影響もあるからです。このような事情もあり、古い日本車の価値は、むしろ海外の人たちの方が深く理解しています。

また日本では、新車登録から13年で自動車税が1割以上増税されます。この重課税が旧車に与える影響は小さくないと思いますね。国は新車に買い替えて経済を回せ、そうしないと高い税金を払わせるぞと。要するに国は旧車や旧車を愛する庶民、あるいは仕方なく古いクルマを使っている人たちに、新車を買わせようとしている。「新しいクルマは環境性能が優れているから乗り替えろ」というのは建前で、実際には困っている人たちを苦しめているだけです。

――なるほど。

渡辺 結局のところ、国は自動車メーカーの味方なのです。自動車工業会もクルマの税金が高い、値下げしろと提唱していますが、古いクルマの重課税にはほとんど言及していません。自動車工業会が本当にユーザーの味方であるなら、まず行なうべきは重課税の撤廃でしょう。それを持ち出さないと、税金関連の提唱も、クルマをたくさん売ることが目的だと捉えられてしまいます。このように中古車価格高騰の問題というのは実に根深いんです。

ーーつまり、子供の頃に憧れた国産スポーツカーは、もはや庶民には手が届かないと?

渡辺 そうです。

ーー残念無念! せっかくなので鬼価格にも程がある国産スポーツカーを5台挙げていただけますか?

1位「日産 R34スカイラインGT-R」発売1999年~2002年 。中古相場最高価格3000万円以上も

渡辺 ワタナベはクルマ業界に身を置いて40年近くですが、こんな鬼の爆上げは今まで見たことがありません。1位は日産スカイラインR34のGT‐Rです。3000万円以上の中古車もあります。

ーーR34は99年デビューなので25年ルールは関係ありませんよね? それなのにこの鬼価格です。どう捉えればいいんでしょうか。

渡辺 新車のR34の廉価グレードは609万円でしたから、とてつもない値段です。この高騰の背景には最後のスカイラインGT‐Rという面もあるでしょうね。R34を最後にGT‐Rは独立しますので希少価値がある。中東や中国など海外からの引き合いも多いという話も耳にしています。裏を返せば、投機目的の面が高騰を支えていると思います。もはや流通台数が限られているので、思い切り高く吊り上げているのでしょう。買い手がつかなければ、価格を下げればいいわけですからね。

2位「トヨタ スープラ」発売1993年~2002年。中古相場最高価格1000万円前後

3位「ホンダ NSX」発売1990年~2005年。中古相場最高価格1000万円前後

ーー続いて2位は先代のトヨタ・スープラ、3位はホンダの初代NSXです。

渡辺 どちらも1000万円前後の高値をマークしています。先代スープラは93年~02年まで生産され、新車の価格は200万台~400万円台でした。一方、NSXは90年に発売し、05年まで生産されました。価格は800~1200万円オーバーでした。

4位「ホンダ S2000」発売1999年~2009年。中古相場最高価格600万円以上

5位「マツダ RX-7」発売1991年~2003年。中古相場最高価格600万円以上
ーーそして4位はホンダのS2000、5位はマツダのRX‐7(FD)ですね。

渡辺 この2台はどちらも600万円以上をマークしています。

ーーもうタメ息しか出ません。この高騰はしばらく続きそうですか?

渡辺 そのとおりです。


渡辺陽一郎 Yoichiro WATANABE
カーライフジャーナリスト。1989年に自動車購入ガイド誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長に。1997年に同社取締役を兼任。その後、フリーランスに。著書に『運転事故の定石』(講談社)など。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員