ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

「カレーライスとは、カツののっていないカツカレーである」

これは、かの寺田克也先生の名言であり、僕の座右の銘でもある。

なにかにくじけそうになり、ふとこの言葉を思い出すたび僕は、「そうだよな。日々、小さなことに対して文句を言ったり、余裕なくテンパったりしながら過ごしているけど、自分の人生なんてまだ単なるカレーライスに過ぎない。カツカレーになってからが人生だろう」と、初心に帰る。「つべこべ言わんと、男ならひと"カツ"揚げてみろ!」と、文字通り喝を入れられた気分になるのだ。

なぜこの言葉がここまで自分に響くのだろうかといえば、それは僕がカツカレーを好きだからに他ならないだろう。「いちばん美味しいと思う食べ物はカツカレー」と、様々な場所でしつこいくらいに言い続けてきたから、そろそろシンプルに「しつこい」と思っている読者の方もおられるかもしれない。

ま、その執念のおかげか、たまにSNSなどを通じて有益なカツカレー情報が寄せられるのは、とてもありがたいことだ。先日もTwitterを通じて、僕の家からも遠くない上石神井という街にある「ミトミトカレー」という店に、おもしろいカツカレーがあると教えてもらった。なんでもそこのカツカレーは......いや、言葉で説明するより、行ってみたほうが早いか。

と、さっそくミトミトカレーへやって来た。

「ミトミトカレー 上石神井店」 「ミトミトカレー 上石神井店」

看板には「本格インドカレー専門店」とある。インドカレー屋でカツカレーなんて聞いたことないけど、本当にあるのかな......と近寄ってみると、表の看板のいちばん目立つ場所にいきなり載っていた。

これだ! これだ!

なんと、見た目はもろに日本でおなじみの「ロースカツカレー」! 加えて、「カニクリームコロッケカレー」や「唐揚げカレー」などもある。これらはこの店では「Japaneseモダンカレー」と呼ばれ、なんとどれも、税込み690円というリーズナブルさ。

入店し、今日の僕には迷いはない。席に着くなり「ロースカツカレー」とオーダー。ぬかりなく生ビールも注文した。

「ザ・プレミアム・モルツ」(390円) 「ザ・プレミアム・モルツ」(390円)

サービスの「パパド」とともに、生ビールがやってきた。パパドとは、厳密にはもっと幅があるらしいがまぁ、「豆で作った極薄せんべい」って感じのもの。パリンパリンの食感、強めの塩気とスパイシーさ、体積がほとんどないゆえの腹にたまらなさ。どの項目もお通しとしてかなり理想的だと僕は思っていて、日本の居酒屋も、業務用の春雨サラダなんかを出すくらいならこっちを出してほしいと思う。

しばらくゆっくりめのペースで飲んでいると、いよいよカツカレーが到着。おぉ、これがインドと日本の文化が融合したひと皿か!

「ロースカツカレー」 「ロースカツカレー」

巨大な皿にたっぷりのサフランライス(たぶん)。その横に、赤褐色をしたインドカレーの海。ごはんの上には、どこからどう見ても「とんかつ」がのっていて、あまつさえソースまで回しかけてある! これはなかなか、他ではお目にかかれないビジュアルだな......。

やっぱり、とんかつだ やっぱり、とんかつだ

まずはカツをひと切れ食べてみよう。ザクッ。お、相当にハードめの、バッキバキな衣。が、その食感に包まれた柔らかくてジューシーな豚肉との対比が良く、あー、うまいうまい! 日本人としてはおなじみの、しかも超美味しいとんかつだ!

また、僕はこういった、カツに一切カレーソースがかかっていないタイプのカツカレーが大好き。なぜなら、まずはとんかつ&ごはんの味をいったん楽しめるというお得感があるから。となれば、すかさずカレーのかかっていないサフランライスをぱくりといく。ふわんとした優しい甘みが荒々しいカツを受け止める。両目から入ってくる視覚情報は、完全にインド。口のなかだけが、とんかつ定食。これは楽しい。

続けてカレー&ライスを食べてみる。なるほど、いわゆるバターチキンカレー的な、けっこう甘めのカレーだ。たまに甘すぎてびっくりしてしまうことがあるので、僕はバターチキンカレーってほぼ頼まないんだけど、ここはそこまでのことはなく、ちょうどいいバランスで美味しい。っていうか、さっきからバターチキンって言ってるけど、別にチキンは入ってない。見てとれる具材はたっぷりの玉ねぎのみ。正式に"なにカレー"なのかは、そもそもインドカレー事情に詳しくなく、加えてバカ舌な僕が知る由もない。

さぁ、そろそろこのカレーの真髄に迫っていくことにしよう。ふだんのカツカレーでしているように、カツを持ち上げ、カレーの海へとダイブさせる!

いよいよインドカツカレータイムに突入 いよいよインドカツカレータイムに突入

衣にたっぷりとカレーを絡め、がぶり。もぐもぐもぐ......おおおー、なるほど、これはありだ! 食べ慣れた味じゃないから一瞬混乱しそうになるし、とんかつでもインドカレーでもないどこかの国の郷土料理のような感じもあるけど、とにかくうまい! カレーが甘いからか、たまに名古屋の「味噌カツ」がよぎったりもする、新しい食体験。食べれば食べるほどぐんぐん食欲が湧いてくる。

途中でビールがなくなり、酒のおかわりをしようと、せっかくなので居酒屋では見ることのない「ラッシーハイ」というのを頼んでみた。そしたら厨房で、いかにも本場系の店員さんが、おなじみのペットボトル入り焼酎を取り出したのが見えてしまい、なんだか申し訳なくも、妙に愉快な気分に。

「ラッシーハイ」(380円) 「ラッシーハイ」(380円)

ラッシーハイはとろっとろにクリーミーで、だけどしっかり焼酎の味がし、カレーの締めにぴったり。最後まで新鮮な食体験だったな。

それにしても、たったの690円であのボリュームのカツカレー。いい店を知ることができて、大満足&大満腹だ。

ところで後日、また別の街を歩いていた時のこと、さらに攻めたメニューラインナップのインド・ネパール料理店を発見してしまった。

!!? !!?

看板に並ぶのは、「三元豚ロースカツカレー」や「メンチカツセット」は序の口で、「唐揚げカレー丼」に「カレースパゲティー」に、なぜか「豚丼」まで!?

近々、ここにも調査に行かなければ......。

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】