『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、アップデートしてほしい人間の部位について語る。
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かつて人間にも尻尾があったように、進化の過程で役割を失って退化する体のパーツはたくさんある。親知らずなどがよく知られていますが、その前に直してほしい部位はたくさんある。そこで、勝手ながら"仮想不具合修正"を行ないました。最新バージョンにアップデートをお願いします。
今回のアップデート内容は以下を含みます。
歯が2回生え替わるよう、もうワンセット内蔵しました。現在の乳歯+永久歯のシステムでは、健康で白い歯の維持は困難。そもそも最初のセットは5~10年で、ふたつ目のセットは70年以上使用させるという設計は「バランスが悪すぎる」との指摘が多数届きました。
設計ミスを認め、約45歳でさらに生え替わる3セット仕様にさせていただきました。なお、もっと早い段階で抜けた場合はそのタイミングで3セット目が生えるよう、デフォルト設定されています。一気に新セットにしたい方や、歯がいらない方は設定をご自身でオン・オフしてください。
続いては、「膝のメンテナスや膝痛の予防が非現実的」との声を受け、基本構造の改善を行ないました。体の中で一番複雑で大きな関節なのに、跳んだりはねたりはもちろん、体を支える・屈伸する・歩行するなどの日常的動作でさえ痛みの原因になるなど、さほど丈夫ではなかったことをおわびします。負担を軽減し、さらに可動域アップを狙って、肩のような球関節も検討しましたが、体重の増加に対して不具合が残りました。
そこで、他プログラムから着想を得て、鳥類の足を導入することになりました。体の割に細く見える鳥の足ですが、片足立ちで支えて眠ることさえできます。研究したところ(研究内容:フライドチキンの骨格標本作りや鶴の観察、アニマルプラネットの視聴)、鳥の膝だと思っていた部分はカカトであることが判明。ふくらはぎだと思っていた部位は足の裏に当たるところで、筋肉がほとんどなく腱(けん)で動く設計。
人間の足も、カカトの位置を上げ、足の裏を伸ばして爪先立ちに近いものに変えました。鳥のように、ふくらはぎと太ももの筋肉を太くして、脚の上に引き上げました。これによって、背骨への負担からくる腰痛や肩凝りといった不具合も改善されると期待します。鳥足、楽しんでください。iPhoneからホームボタンがなくなったとき同様、やがて慣れます。
追加機能で、ポッケを体につけました。スマホや家の鍵は今後、腹部の皮膚ポッケに収納してください。グロさより利便性が勝ると思います。
内蔵の一部機能も更新しました。消化酵素の増量や善玉菌の生産性アップのほか、自分の盲腸が急に攻撃してくる不具合も修正しました。細かい不具合では、しゃっくりが止まらなくなるバグや食事中に口の中を噛(か)んでしまうバグを修正しました。
今後の目標としては、メモリー増加や消去機能、意思に反した記憶の上書き保存の防止や、本来目を守るために設置したまつげがむしろ目に入る問題にも取り組みます。より優秀なウイルスソフトなど、積極的なサービス開発を行なってまいりますので、今後とも「人間」をよろしくお願いします。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。スマホのOSは周りの反応を見てからアップデートするタイプ。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】