『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、世界のタイムゾーンの不思議について語る。
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海外に行く際、出国したのが夜なのに同じ日の朝に到着する得した気分と、帰国時に味わう損した気持ち。時差ボケのダルささえ恋しい今、世界のタイムゾーンについて考えました。
標準時は、鉄道の発展により、乗り遅れを防ぐために設定されたといわれています(イギリスのブリストルとロンドンの間にあった10分の時差のせいで帰れなくなった人がいたのがきっかけという説も)。東京も鉄道開業で時刻が統一され、日本全国に広まりました。
大きさ的にひとつのタイムゾーンで問題のない日本ですが、アメリカが6つのゾーンに分けられているように、世界では国の中に時差が生じている例は珍しくない。本来だったら経線に沿って、1時間ずつの時差で地球がきれいに24のゾーンに分けられるはずですが、実際は文化や経済、政治によって決まっていることも多い。
例えば、スペイン。地図を見てもわかるとおり、イギリスやポルトガル、モロッコとほぼ同じ経度ですが、実際はドイツと同じタイムゾーン。理由は第2次世界大戦。それまでは上記3国と同じタイムゾーンでしたが、ヒトラーへのアピールとしてドイツ時間に変更したそうです。
あれから約80年、スペインは近隣国より1時間早く、かなり東に当たるポーランドやクロアチアと同じ時刻。不便ではないか現地の友人に聞いたところ、「スペイン人は朝が苦手で遅くまで起きているのが好きだからちょうどいい、22時から夕飯を食べ始めても明るくてピッタリ」と納得できるようなできないような説明をされました。
反対に、「こんなに離れているのに同じタイムゾーン!?」な例もあります。世界で4番目に国土が広い中国。5つのゾーンに分けてもおかしくない規模ですが、国の結束を強調するために全国どこでも北京時間に合わせています。アメリカではひとつの州の中で時間が違う面倒くさいケースもあるので、「統一されているのはわかりやすくていいな」と思いつつ、調べると、最西部の新疆(しんきょう)ウイグル自治区では冬場の日の出が10時を過ぎることもあり......。
実際、西部では非公式の新疆時間で生活する人が多いそうです。2014年、アップルが対象地域の製品の時刻を新疆時間に変更するアップデートをリリースした際、北京時間でアラームをセットしていた人の遅刻が相次いだそう。ちなみに新疆時間を使わない場合、中国とアフガニスタンの国境では徒歩数分の距離に3時間半の時差があります。
経済的な理由で日付変更線を変えた例もあります。国内を日付変更線が通っていた太平洋諸島のキリバス共和国では、東側の地域だけ94年の12月31日を飛ばし、翌年の元日に移行。時差を丸ごと一日進めて日付の差を解消しました。これには、世界一早く日付が変わる国として、観光客を誘致するという目的もあったそうです。結果、ハワイとほぼ同じ経度なのに1日近い時差が生じました。11年、サモアも12月30日を飛ばして31日とし、貿易量の多いオーストラリアなどに合わせました(隣のアメリカ領サモアはそのまま)。当事者たちが便利ならあれこれ言う筋合いはないですが、誕生日を飛ばされた人たちが少し気になります。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。羽田空港から離陸する前に寝入ってしまい、気がついたらニューヨーク着陸後でCAさんに起こされた経験がある。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】