ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

今年もなんとか、僕のようなフリーランス稼業者にとって1年に一度の大仕事、確定申告の全作業を終わらせることができた。

サラリーマン時代に副業としてライター仕事が発生しだした頃からだから、もう数年ぶんの経験はあり、さすがに国税庁のサイトフォーマットに情報を入力して書類を作成するやりかたは大体覚えている。

が、毎年決まって苦労するのが、取材などにかかった領収書、レシート類の整理だ。絶対に発生する作業なんだから、せめて諸経費、地代家賃、旅費交通費、荷造運賃くらいには分けてとっておけばいいものを、ガサツな性格の僕はそれができない。1年間、部屋の片隅に置いたでかめの紙袋に、ただ闇雲にほうりこんで溜めておくだけだ。

ズシリと重いその袋から領収書をつかみ取りしては、ひたすら仕分けしてゆく。これは取材費、これは消耗品費、これは確か、オリジナルレシピの記事用にスーパーで買った食材の領収書だけど、うわ、子供のオムツも一緒に買っちゃってるよこいつ......差し引いて赤入れしておけばいいのか? なんて言いながら、提出期限前日、一夜漬けに近い勢いで泣きながら作業する。

やがてはぱっと触っただけで、郵便局、交通系ICカードチャージ、タクシー代金などの領収書とそれ以外が知覚できるという不思議な能力を手にするが、またそれを使うちょうど1年後にはゼロリセットされるため、なんの得もない。

とにかくそうやってまとめた書類たちを期限当日の早朝、大泉学園にある「練馬西税務署」へ行って、時間外窓口に投函して作業完了。というのが例年のパターンだった。ところが今年はそれにも間に合いそうにない。調べてみると、郵便局から郵送する場合は期限当日の消印有効と知り、なんとか午後2時ごろに全作業を終えて、郵送も完了。少ないながら還付金も出るようで、疲労もすごいがそれ以上に達成感がある。

よし、なにかごほうびごはんを食べに行くか!

こんな日に食べたいものはなんだろう? カツカレー、ラーメン、天玉そば......いや、せっかくだしもっと贅沢に、回らない寿司? うなぎ? いや、それもなんか無理矢理感があるし......あ、焼肉!

ありがたいことに、これまでにいろんなジャンルの尊敬する人たちに、インタビューや対談の仕事で、酒を飲みながらお話を聞かせてもらったことがある。そんななか、一定数の大人物が同様に語ってくれたのが、「心や体が疲れたら、肉を食って寝るにつきる」というもの。が、焼鳥やもつ焼きに比べてどうも割高な感じがしてしまう焼肉屋というものに、僕はあまり行く習慣がない。ましてや「ひとり焼肉」なんて、人生で一度もしたことがなかったはず。実は、ちょっとあこがれていた。今こそが、おつかれひとり焼肉飲みのタイミングなんじゃないだろうか!?

とはいえ、勝手のわからないなか、いきなり「叙々苑」のランチに飛びこむ勇気もない。そこで今回は、びっくりするほど高くはないであろう「安楽亭」へ行ってみることにした。ごほうびと言いつつ庶民感覚から抜け出せないのは我ながらという感じがするが、年収が大幅に増えてたわけでもない現実も突きつけられたばかりだし。

「焼肉 安楽亭 大泉店」

やってきたのは「焼肉 安楽亭 大泉店」。初めて入ったけど、想像の何倍も高級感があって、個室の座敷席がたくさんあって、テーブル席も広々としていて、ものすごく居心地がいい。ランチメニューが夕方5時まで頼めるのもありがたいし、手頃なワンコインランチから高級黒毛和牛ランチまで選択肢も幅広い。。キッズメニューもいろいろあって、家族で来るのにもぴったりそうな店だな~。

さて僕はと。そうだな、お得そうな「スペシャルランチ」のコーナーから、「ファミリーカルビ&旨ハラミ(豚)SPランチ 100g」(880円)でいくか! 言わずもがな、生ビールもお願いします!

「生ビール(中)」(490円)。ベタだけど、この一杯のために生きてる

スペシャルランチも到着

ランチ一式が到着して驚いた。肉はファミリーカルビ(ファミリーってなんだろう?)と豚ハラミが数枚ずつで100gぶん。それに加えて、僕は普通盛りにしたけど大盛りにもできるごはん、キムチ(サラダも選択可)、パインののった杏仁豆腐、そしてそして、超でっかい&具沢山のユッケジャンスープに、ドリンクバーまで。もはや肉なしでこの値段でも納得してしまうくらい豪華だ。

肉も野菜もたっぷりの、ユッケジャンスープ

さっそく目の前の網にトングで肉をのせると、高火力でジューッと一気に焼ける。この感覚久しぶりだなと、まずはカルビを箸でつかみ、たっぷりのタレをつけてほおばる。うおー! うまっ! 焼肉って家でもたまにやるけど、豪快に煙をまとわせながら焼く専門店の味、別次元だな......。すかさず白メシばくばく。っくぅ~......なんだかんだ言っても、カルビ焼肉がこの世でいちばん白メシに合うよなぁ! おっと、ビールビールビール!

シズル感とはこの肉のためにある言葉

最強タッグ!

 柔らかくも絶妙な歯ごたえ、なにより豚の旨味たっぷりのハラミも最高にうまく、快調に食べすすんでチューハイをおかわり。ときにスープやキムチをおかずにし、一心不乱に食べ終えた。

......そりゃあ焼肉屋にも、そして肉自体にも、天井知らずにもっと高級なものがあるんだろうけど、今の僕にはこの880円のセットでじゅうぶんすぎるごちそうだ。こんなにもお得で、かつ本格的な焼肉店だったなんて、ありがたや安楽亭。

おかわりのチューハイが沁みる......

 はぁ~、それにしてもなんていい気分。今日ばかりはもう店じまい。そうだ、腹ごなしに散歩しながら、帰り道にある銭湯「たつの湯」にでも寄って帰るかな。で、帰ったらいったん、昼寝しよ~。

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】