『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、絵本『ウォーリーをさがせ!』の意外な事実について語る。
* * *
日頃の"グーグルアースパトロール"で、びっくりな発見をしました。カナダ・バンクーバーのロハスな街キツラノの商店街に立つビルの屋根に、世界中の人たちが探し求めた、あの男の姿が。赤と白のボーダーのロンTにおそろいのポンポンつきニット帽、丸メガネの奥の瞳が笑っていない、うっすら不気味な笑顔のあいつ。そう、ウォーリー。なんと私、ウォーリーを探せてました。
調べると、カナダ人アーティストのメラニー・コールズがビルの屋上に描いた巨大なウォーリーの絵だそう。美大の卒業制作として「グーグルアースに映るどこかにウォーリーを描いた。さあ、ウォーリーをさがせ!」と発表し、「架空の人物のウォーリーが現実世界に出現することにより、リアルとゲームの境目を問いたかった。世界中の屋上や草むらが、ウォーリーが隠れている場所の候補になる」と趣旨を説明しています。さらに、「地球がウォーリーのゲームの遊び場になったなら、ウォーリーは神々か?」とまで言っており、だいぶ飛躍を感じますが、面白い試みだと思いました。
しかし、一番驚いたのは、コールズの問いでも偶然見つけた巨大ウォーリーでもありません。ここまで何度か「ウォーリー」と書いていますが、実はアメリカでは、逃亡しがちなあいつの名前は「ウォーリー」ではなく「ウォルドー」。今回の発見を仕事現場で話した際、スタッフさんに指摘されて初めて知りました。
どうやら、絵本『ウォーリーをさがせ!』はイギリス生まれで、本国での名前は日本と同じく「ウォーリー」。同じ英語圏なのに、アメリカとカナダは「ウォルドー」(オーストラリアは「ウォーリー」)。北米ではWallyよりWaldoが名前としてなじみがある、という理由らしいですが、Waldoって名前はほかに聞いたことないし、どっちかというと、WallyのほうがWalter(ウォルター)のあだ名として解釈できるので、耳なじみはあるかも......。
そして紛らわしいことに、ドイツでは「ワルター」というそうです。ほかにも、ノルウェーではニアミスの「ウィーリー」、フランス版では全然違う「シャルリ」、スウェーデンではもっと違う「ヒューゴ」など、国によってさまざま。
性格も国によって違うことが判明しました。イギリスではちょっと鈍くさくオタクくさいキャラで、見た目もイギリス版の鉄道マニア・トレインスポッターをイメージしているらしい。一方、見た目はまったく一緒にもかかわらず、アメリカでは流行に敏感な若者という設定。ローカライズ、というと響きがいいですが、私はこれを、国際犯罪に手を染めているヤツの身元詐称の証拠ととらえることにしました。だからいつも捜索されて逃亡してたのかと、彼を探さないといけない謎がやっと解けました。
ちなみに、小学生時代に通っていた眼科の待合室の『ウォーリーをさがせ!』は大人気で、なかなか読めませんでした。やっと順番が来ていざ開いたら、誰かが全ページのウォーリーに○をつけてました。ド近眼ながらも鮮明に〇が見えたあの日の絶望は、いまだに忘れていません。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。最近まで、くいだおれ太郎がウォーリーだと思っていた。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】