日本一を記念して、宮崎ブーゲンビリア空港には多いな垂れ幕がかかった。また。宮崎市の繁華街にある百貨店「山形屋」では、家計調査が発表された週末、餃子購入金額&頻度の日本一を祝うイベントが開催された
誰もが大好き、餃子。すでに宇都宮市と浜松市は〝餃子の街〟として全国的に知れ渡っているが、最新データによるとその牙城が崩れた。年間餃子購入額と購入頻度で、宮崎市が1位となったのだ。〝宮崎ぎょうざ〟が日本一になった理由と、その魅力に迫った。

■実は歴史が古かった! 宮崎の餃子文化の源

2月8日、総務省の「家計調査」が公表された。家計調査とは、抽出された全国約9000世帯を対象に家計の収入や支出、貯蓄、負債などを調べたものだが、その最新データに騒然としたのが、宮崎市民と全国の餃子ファンだった。

この家計調査でなぜか毎年必ずといっていいほど話題に上るのが、1世帯(ふたり以上)当たりの年間の餃子購入額と購入頻度。ここ10年以上、〝餃子の街〟として全国的に知られる宇都宮市と浜松市で首位を争うのが常だった。しかし2021年、宮崎市が初めて両地域を上回り、1位の座に就いたのだ。

宮崎といえば、マンゴーやチキン南蛮などは有名だが、餃子と言われてもまったくイメージが湧かない......。だが意外なことに、「宮崎は県全体として長い餃子の歴史を持つ」と話すのは、焼き餃子協会代表理事の小野寺力(ちから)氏だ。

「日本で一般的に餃子が普及したのは戦後のことで、1947年に大分の別府市で日本初の餃子専門店『湖月(こげつ』が開店したといわれています。その8年後には、大分と隣接する宮崎県北部の延岡(のべおか)市で『黒兵衛』が創業しました。戦時中、満州にいた創業者が現地で餃子を学び、始めたそうです。ラードを使って焼くため、揚げたようなカリッとした食感が特徴です」

「黒兵衛」は延岡で宮崎県初の餃子専門店を開店。創業者家族は宮崎市へ移り、1979年に息子が市内の繁華街で開業。野球選手などが多く訪れる老舗として名をはせる。肉と野菜のバランスが取れた、まさに王道の餃子。晩酌のつまみとして持ち帰ったり飲み会のシメとして長年愛されている
その創業者が多くの人に餃子の基本を伝えたそうで、延岡には現在も人気店「翠園(すいえん)」や老舗「黄楊(つげ)」などの専門店が、その名残として営業を続けている。そして黒兵衛は延岡だけでなく、県央の高鍋町(たかなべちょう)にも大きな影響を及ぼした。

「高鍋には『餃子の馬渡(まわたり)』(67年創業)と『たかなべギョーザ』(71年創業)という老舗がありますが、この2店の創業者は黒兵衛の創業者と町役場で一緒に働いていたと聞いています。その縁で修業することになり、高鍋で独立したそうです。以来、町内に一気に餃子が根づきました」

「黒兵衛」で修業し、1967年に開業した「餃子の馬渡」。2種類の小麦粉を使った「もっちり皮」は、ラードで焼いているにもかかわらず、蒸したようにもちもち。宮崎のブランド豚と黒毛和牛肉を粗びきにしたあんは、食べ応え十分。通販にも対応「黒兵衛」から1971年に独立した「たかなべギョーザ」。丁寧にミンチされたあんは、滑らかでくちどけの良さが特徴。野菜が多めでさっぱりしているが、香辛料の風味が強くインパクトは抜群。皮も薄めで、スナック感覚で食べられる。通販にも対応
人口わずか2万人ほどの小さな町にもかかわらず、餃子の専門店や餃子を名物にしている店が実に17店舗もある。

「高鍋は餃子の具材であるキャベツにおいて、宮崎一の生産地なんです。それもあって餃子店が増えるのもわかるんですが、おそらく餃子の消費量も県内で断トツに多く、冠婚葬祭で餃子を渡したり、『焼き餃子ぱん』を出すカフェがあったりと、まさに〝餃子の街〟。そういう意味でも、黒兵衛は宮崎の餃子のルーツのひとつといえます」

黒兵衛が宮崎の北側に餃子文化をもたらした一方で、鹿児島に近い県西エリアで餃子文化を拡大させたのが、「ぎょうざの丸岡」だ。

「この店はもう全国区ですね。宮崎県第2の都市・都城(みやこのじょう)で1994年にオープンしましたが、現在では九州地方と関西地方にも店舗を構えています。一日の生産量は50万個で、土日は購入客で行列になっています。もともとは肉屋で、餃子は惣菜のひとつだったんですが、人気を呼び専門店になりました。都城だけでなく、宮崎県民なら誰もが知る存在です」

宮崎や九州だけでなく、全国的に知られる名店「ぎょうざの丸岡」。キャベツが大量に使われ、甘みのあるあんが特徴。また薄皮は水に一度つけて焼くことで、外はパリパリ、中はもちもちに。通販も人気で、数ヵ月待ちになることも
その丸岡にほれ込んだのが、一昨年から「宮崎ギョーザ王子」を自称し、宮崎の餃子を応援する恒吉浩之氏だ。2017年に東京から宮崎に移住し、丸岡に出会った。

「宇都宮や浜松でも餃子を食べましたが、餃子に特別興味もなかった。なのに、この餃子は衝撃でした。芸能人のファンが多いのもうなずける。実際、丸岡の餃子を食べている人は多く、宮崎県全体の餃子消費量のうち、かなりを占めると思います」

こうして餃子の名店が宮崎県に複数生まれ、さらに宮崎市を含む他の市町村にも波及。餃子が県民のソウルフードとなっていったのだ。

■宮崎ぎょうざの特徴と市民に愛される理由

では、「宮崎ぎょうざ」とはいったい何を指すのか。餃子も人気の宮崎市のラーメン店「屋台骨」で餃子部門の責任者であり、宮崎市ぎょうざ協議会の会長も務める渡辺愛香(あいか)氏に聞いた。

「何百回と聞かれているんですけど、正直、今はまだ決まってないんです。あんに使う肉も豚、牛、鶏とバラバラですし、皮の特徴も各店で違います。むしろ、その多種多様さが宮崎ぎょうざの面白さのひとつだと思いますが......」

前出の焼き餃子協会代表理事・小野寺氏もこう話す。

「黒兵衛のようにラードを使って焼く店は多いですが、丸岡は違いますし、全体の特徴とは言い難い。でも、宇都宮だってバラバラですし、浜松も餃子の上にモヤシをのせるスタイルが増えたのは最近で、老舗はさまざまですから」

言われてみれば確かにそうなのだが......。

「もう半年以上、宮崎ぎょうざの定義を決めようという話は出ているんですけど、なかなかねぇ......。今回の日本一を機に、他県でも宮崎ぎょうざの名前を使った便乗商売をしている店があるそうなので、早く決めるつもりです。ただ、各店で宮崎県産の食材をふんだんに使って〝地産地消〟しています。それは特徴的ですね!」(前出・渡辺会長)

確かに宮崎は宮崎牛や地鶏、ブランド豚など畜産が有名。また、餃子の材料になるキャベツやニラの生産量も多い農業大国でもある。宮崎の餃子は「地元の農畜産物のうま味が詰まったフード」ということか。

「屋台骨」の餃子は、宮崎のブランド豚・まるみ豚やニラなど、あんの具材はすべて宮崎県産を使用。うで肉ともも肉を使うため豚肉の香りが強め。さらにラードで焼くことにより肉や野菜のうま味を引き立たせてラーメンにも合う餃子に。通販にも対応
さらに「ただウマいだけでなく、安い」と力説するのは、前出の恒吉氏。

「宮崎はブランド豚といっても高い品質の割に価格が安く、野菜も基本的に安い上、端材で十分ですから、コストを抑えられる。だから宮崎の餃子は、高クオリティで安く提供できるんです。

また、宮崎は最低賃金や年収が全国的にも最低ランクな一方で、出生率は高い。餃子は家族で大量に食べても安く済む、庶民の味方なんです」

この地に餃子が「安くてウマい日常食」として定着した理由はほかにもある。

「宮崎では餃子を外で食べるより、生餃子を家庭の食卓に持ち帰って食べることがほとんど。昔から〝持ち帰り文化〟があるんですよ。私が幼い頃から各家庭にはホットプレートがあって、夕飯では大量に餃子を焼く光景が日常的でした。しかも一度に何十個も買うので、冷凍庫には常に餃子が入ってましたよ。近所におすそ分けするのも普通でした」(前出・渡辺会長)

■統計の仕方が日本一のカギに!?

この〝持ち帰り文化〟が、今回の日本一のキモだと、前出の焼き餃子協会・小野寺氏は指摘する。

「家計調査で対象になるのは、スーパーでの購入や持ち帰り専門店のもので、外食や冷凍食品は含まれません。そのため、宮崎は以前から常に上位にランクインしていたんです。一方で宇都宮や浜松は購入金額や頻度がじわじわ下がっていたので、私も、10年後には宮崎が二強に食い込むと思っていました。

しかし、このコロナ禍で内食が増えて宮崎の餃子需要が急上昇した一方で、他地域は餃子は外食が基本だったのでコロナにより店の休業が増え、同時に持ち帰りも落ち込んだのだと思います。おそらく同じ理由で2020年の上半期には、購入金額も頻度も宮崎が1位になっていたんですが、この年は後半に巻き返されていました」

19年に宮崎市のショッピングモールで行なわれた餃子イベントでは、2万5000人を集客したそうで、もともとのポテンシャルがあったところに、コロナ禍で逆転現象が起きたようだ。

「餃子があまりにも日常生活に根づいていることもあって、正直、宮崎=餃子のイメージは、特に私もありませんでした。19年のイベントには私たちも参加していたんですが、宮崎にこんなに人がいたのかと驚いたくらい(笑)。しかしその光景を見て、宮崎市民の餃子愛を自覚したんです。そして翌年の上半期1位にまたびっくりして、これなら年間1位になれると奮起するきっかけになりました」(前出・渡辺会長)

「逆転満塁ホームラン餃子」(右)、「新富餃子」(左)、「戸村の餃子」(中)など、近年は地元スーパーのオリジナル餃子も増加。加えて、餃子販売店や地元の食品加工メーカーの商品が並び、スーパーでも種類が豊富に
こうして宮崎市の餃子関係者が、この地の餃子愛を自覚し始めたのだが、市民の賛同はなかなか広がらなかった。やはり皆の日常の一部になりすぎていたのだろう。そこで20年9月に宮崎市ぎょうざ協議会を発足し、市や県に支援を依頼。しかしさしたる反応はなし。宮崎市観光協会も同様。観光協会事務局次長の長田将明氏は、こう笑う。

「渡辺会長が餃子の魅力を熱弁していたんですが、正直、ピンときませんでした。とはいえ、コロナで観光PRができないので、できることをやろうと一緒に餃子MAPを作ったりしたんですよね。でも今は同じ熱意で活動していますよ!」

数年前までは観光協会すら気づかなかった〝宮崎ぎょうざ〟の魅力だが、関係者の努力は徐々に実を結ぶ。

「昨年の2月頃には多くのメディアに紹介されて、地元の餃子を応援するムードが高まってきたのを実感しました。この流れが今回の結果につながった」(前出・恒吉氏) こうして念願の日本一に輝いたが、「今度は追い上げられるプレッシャーがあるのと、急増した需要に各店が疲弊してスタッフが倒れないか心配」とこぼす渡辺会長が、こう続ける。

「餃子は畜産業や農業の方が参入しやすい加工品で、最近は弊社でもプライベートブランドのためのOEMの依頼が増えています。このように今ある餃子店と一緒に、宮崎の畜産物や農産物の魅力がもっと知れ渡ってほしいです。また、宮崎市だけでなく県内にはおいしい餃子店がたくさんあるので、今後は県全体で盛り上がれたら!」

(右上から時計回りに)佐土原ナス、トマトとチーズ、タマネギ、アスパラを使用した「831GYOUZA」の餃子。店名のとおり、野菜をウリにしており、野菜を練り込んだカラフルな皮や、野菜自体を皮に挟んだり、のせたりする斬新なスタイルが特徴
今回の反響が、すでに宮崎市外に及んでいるというのは、三股町(みまたちょう)にある「831(ハチサンイチ)GYOUZA」の店主・溝口恵水(しげみ)氏。野菜中心の〝進化系餃子〟が話題の店だ。

「実は地元の人たちは、宮崎市ではなく宮崎県が日本一になったと勘違いしていて、うちも2割ほど売り上げが上がりました(笑)。マンゴーやチキン南蛮など独自のものはあるものの、メジャーなフードでの日本一はほぼ初なので、皆うれしそうです。宮崎県民総出で盛り上げる体制は、すでに整っています(笑)」

ちなみに、831GYOUZAは今夏にアメリカ出店を予定しているそう。宇都宮・浜松・宮崎の〝餃子三国時代〟を経て、宮崎ぎょうざが世界に羽ばたくかも!