気持ちを改めるきっかけの新年度到来! ぜひ見直したい健康数値のひとつが血圧。日本人の3人にひとりが高血圧といわれる時代だからこそ、血圧にまつわる素朴な疑問をQ&A形式で勉強しておこう。
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■若いうちから血圧対策を!
新年度到来! これを機に見直したいのが生活習慣。なかでも、血圧は若いうちから対策が必要なようで、荏原病院循環器内科医長の冠木敬之(かぶき・たかゆき)先生はこう忠告する。
「40代以上の日本人の4割が高血圧といわれています。そのうち、ちゃんと治療しているのは4分の1くらい。残りの4分の3は管理が不十分か、そもそも自分が高血圧という自覚がありません。そして、知らず知らずのうちに動脈硬化が進んでしまうんです」
とはいえ、まだまだ健康な20代、30代にはピンとこない気もするけど。
「日本は有名な長寿国ですが、平均的に最後の10年は介護を必要としています。長生きしているが、ひとりで生活できない。心臓や脳の病気はそういう状態を引き起こしやすく、健康寿命を延ばすためには若い頃からの良好な生活習慣が重要。自分の老後のためにも、早いうちから意識するようにしましょう」
というわけで、心臓・血管の専門医の先生方に質問形式で血圧にまつわるアレコレを聞いてみた。
●そもそも血圧とは?
答えてくれたのは、田園都市高血圧クリニックかなえ院長の米山喜平先生。
「蛇口につながったホースをイメージしてもらうとわかりやすいです。蛇口=心臓、ホース=血管、そして、このホースの中にかかる圧力が血圧。人間の体は、ホースの先をつまんで血液を全身に飛ばしているイメージ(これが血管収縮)。
しかし、このつまむ力が強くなれば強くなるほど、ホースの内部がパンパンになり、最悪の場合破裂します」
●最高血圧、最低血圧とは?
「最高血圧は心臓が収縮したときの血圧。心臓が収縮すると、血管にはドバッと血液が流れ込んで膨らみます。最低血圧は心臓が拡張しているときの血圧(大動脈が元に戻ろうとするときの血圧)。心臓が閉じている間に、血管は元に戻ろうと縮みます。
例えば、映画などで体を切られるシーンを見たことがあるかと思いますが、切られた瞬間はドバッと血液が吹き出すけど、その後はダラダラと流れていく。このダラダラ流れている状態が最低血圧時。大きな血管が元に戻ろうとしているんです」(米山先生)
●血圧が高いと何がどう悪くなる?
「血圧が高い期間が続くと、血管に圧力がかかってヒビが入ります。そこにコレステロールなどの〝脂〟が入り込んでくる。入り込んだ脂は時間がたつと硬くなり、ゴムのように柔らかかった血管が硬い物質に変わってしまいます。これを石灰化といい、動脈硬化につながります。
また、圧がずっとかかると、抵抗しようと血管の壁が厚くなっていく。血液の通り道が狭くなり、流れが悪くなります」(冠木先生)
●結果、どんな病気に?
「あらゆる死への病気につながります。日本人の死因の1位はがんですが、2位は動脈硬化の病気。動脈硬化の病気とは、心臓の病気(心筋梗塞、心不全など)や脳の病気(脳出血、脳梗塞など)。特に脳の病気の原因は高血圧が最も多いです」(冠木先生)
●要注意の数値は?
「正常血圧は120(最高)/80(最低)以下。病院内測定での高血圧の基準は140/90。自宅だと135/85。〝白衣高血圧〟といって、病院に来た緊張で数値が高くなってしまうので、病院の高血圧の基準と自宅での基準に差があります」(冠木先生)
また、こんな注意も必要だ。
「最高血圧に目がいきがちですが、最低血圧が高いのもダメ。最低血圧が高い40代のほとんどは食べすぎが原因。メタボや肥満が多いので、ダイエット推奨です」(米山先生)
●どういうときに血圧って上がるの?
「緊張で交感神経が活性化されると血圧は上がります。本当にささいなこと、例えば、寝不足、仕事のストレス、寒い所に出る、痛いこと......。普段血圧が110くらいの人でも、息切れするくらいの激しい運動をすればすぐに血圧は200を超えるくらいに上昇します。
このように、血圧はすごく簡単に上がってしまいます(ただし適度な運動はその後の血圧低下に効果的)。一時的な上昇は問題ないですが、常にストレスを抱えていたり、不眠が続くなどの生活サイクルが長引くと、平時の血圧も上がってしまいます。もちろん塩分摂取やお酒の飲みすぎ、喫煙などでも血圧は上がります」(冠木先生)
●「そんなに怒ると血圧上がるよ」と言われるのは本当?
「怒るという行為は交感神経を刺激するので、一時的に血圧を上げることは間違いありません。一時的なら問題はないですが、安静にしているときの血圧にまで影響してくるようになったら注意が必要です」(米山先生)
●逆に、低血圧でも健康に害が出る?
「若い女性に多い低血圧は〝倦怠感が強い〟など、その人のQOL(生活の質)を下げてしまう可能性はありますが、病気のリスクは少ない。ただ、高齢で血圧が低いとホルモン異常や糖尿病が隠れている可能性もあります」(冠木先生)
●低血圧のせいで朝起きられないというのは本当?
「可能性はあります。でも若い女性がほとんどで、男性では少ないです。低血圧で寝起きが悪いと訴える女性の多くの最高血圧は80もありません。男性で100ない人はあまりいないので、男性の場合は寝起きの悪さと低血圧はあまり関係なさそうです」(冠木先生)
●では、具体的な血圧の下げ方を教えてください。
「先に説明したように、血圧は上がるも下がるも〝自律神経〟次第。自分でコントロールできないので、簡単かつ急に血圧を下げるという方法はありません。それを踏まえた上で一番効果的なのは〝減塩〟と〝ダイエット〟です。
減塩の意識として必要なのは、多くの塩は〝調味料〟として体内に入ってくるということ。醤油、ソース、ドレッシングなどを控え、味つけをレモンやハーブなどに変えてみましょう。
さらに調味料を〝かける〟ではなく〝つける〟意識を。海鮮丼で醤油を回しかけるのではなく、小皿に取ってチョンとつければ、小皿に出した醤油をすべて摂取することはなく、減塩につながります」(米山先生)
また、冠木先生はリラックスタイムを定期的に取ることをオススメしている。
「横に寝ると逆に血圧が上がることもあるので、イスに座って背もたれに寄りかかり、クラシックを聴きながら白湯(さゆ)を飲む。首に温めたタオルをあてるなどです。深呼吸も血圧を下げるのに効果があります。適温のお風呂にゆっくり入って体を温めるのもよし。ただし、汗をダラダラかくようなサウナはNGです」
●血圧を下げる食品やサプリは効果がある?
「日本高血圧学会によると、医学的に証明されている〝血圧を下げるもの〟は、医師が処方する薬以外はないとされています。
ただ、サプリやドリンクを飲むなどして健康意識が上がり、生活習慣が整い始める人もいます。『血圧のためにサプリを飲んでいるのだから、日頃の食生活も気をつけなくては』と思えるきっかけになるのであれば、意味はあります」(米山先生)
●なぜ、塩分を取ると血圧が上がるの?
「体の水分バランスは、ナトリウム(塩など)で調整されていますが、塩分を取りすぎると、体に水がたまります。血管の中の水分量が多いと血管にかかる圧が大きくなる。また、塩の摂取は、それを管理するためのホルモンや交感神経が活性化してしまい、血圧が上がります」(冠木先生)
●アルコールとの関係は?
「少ない量(0.5合以下)だと体がリラックスするので、むしろ血圧は下がる傾向があります。しかし、1合を超えてくると体のストレスになり、交感神経が活性化してくるため血圧が上がってしまいます」(冠木先生)
「アルコールを飲むと塩気の多い食べ物を食べたくなってしまうのも血圧が上がる原因のひとつかもしれません。いずれにせよ、飲みすぎには注意が必要です」(米山先生)
●年齢とともに血圧は絶対に上がるもの?
「体や関節が硬くなるように、年とともに血管も劣化し硬くなるため血圧は上がっていきます。ただ、若いうちから生活習慣に気をつけていれば高血圧が引き起こす病気のリスクはかなり違ってきます」(冠木先生)
●高血圧だと若いうちから薬を飲まなきゃだめですか?
「服薬などの厳格な治療は40代からでも大丈夫。でも30代から生活習慣は見直したほうがいい。特に若くして血圧が高い人は食生活などが影響している可能性が高いので、意識してほしい。日常生活の中で血圧を上げている要因はたくさん存在すると思うので、まずは自分の生活を見直しましょう」(冠木先生)
自分の未来のためにも、早いうちから対策を!