ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

池袋に「ハラルフード」専門のスーパーマーケットがあるという噂を聞き、行ってみたいと思っていた。

ハラルフードとは、イスラム教の戒律によって許されている食べもののこと。ここで過不足なく解説できるほど詳しいわけでもなし、その文化をきちんと知りたい人にはもっとまっとうな文献を読んでもらえたらと思うので詳細は省くが、大前提として「豚肉」と「酒」が禁止されている。たとえば豚肉のエキスが含まれるスープなどはもちろん、豚肉を調理した道具を使って作った料理などもNG。酒も、煮込むのに使ってアルコールが飛ばしてあってもNG。など、その基準はものすごく厳しいそうだ。

豚肉と酒さえあれば生きていけるとさえ言える僕からすると、おじゃまするのも悪いような気さえするが、単純に海外の珍しい食材としてのハラルフードに、どうしても興味がある。もちろん、イスラム教徒以外お断りということはなく、誰もが利用していいスーパーだそうだし、用事で池袋を訪れたついでに寄ってみることにした。

「アルファラ スーパーマーケット」
店名は「アルファラ スーパーマーケット」。小さな雑居ビルの4階にあり、想像よりもずっと小さな店だったが、見たことのない食料品が整然と並ぶ様子にテンションが上がる。カレー作りなどに使うスパイス類や、バスマティライス、知らない野菜の缶詰、瓶詰め、カップ麺、パッケージを見てもなお、なにがなんだかわからないものなど、見れば見るほど興味がつきない。特に、日本のスーパーではお目にかかれないレトルトカレー類には興奮し、なかには「羊の脳みそのカレー」なんていうのまであった。

ついあれこれカゴに入れ、にこやかなパキスタン人店主に会計をお願いする。無事に支払いが済んでエレベーターに乗りこもうとすると、「スミマセン、イマ、ラマダン(ムスリムの義務のひとつで、絶食期間のこと)ノキカンデ、ゼンピン10%オフデシタ!」と差額を返してくれる親切さに、思わずキュンとしてしまった。

買ってきたハラルフードたち
帰宅し、いよいよ買ってきたものを食べてみよう。

まず嬉しかったのが、パキスタン製のピクルス。インドの漬物「アチャール」と同様のものという認識でいいのかな? 家でカレーを食べるときなんかに欲しいなと思いつつ、どこで買えるのかわからないから、一度作ってみるしかないかと思っていたけど、これからは気軽に買いに行けるな。

「MIXED PIKLE IN OIL」
いろんな種類があったけど、初めてなので「ミックス」にしてみた。瓶を開け、試しに少し取り出してかじってみる。すると、店頭には「オイル漬けなのですっぱくありません」と説明があったのに、強烈に酸っぱいじゃん!とびっくり。いちばん多く入っているのがカットされたマンゴーのようで、これをかじってみたら、固い種つきだったのにもまたびっくり。が、いったん慣れると、カレーにはもちろん、普通に晩酌のつまみとしてちびちび食べるのにも良さそうだ。

それからメイン。今日は豪勢に「チキンビリヤニ」と「マトンパヤカレー」を相盛りにしてしまおう!

インドカレー用のステンレス皿にどーんと
チキンビリヤニはその名のとおり。そもそも、ビリヤニが家で湯せんするだけで食べられるというのが嬉しすぎるし、皿に出してみたら2人前くらいの大ボリュームだった。マトンパヤカレーは、なんと羊のひづめ肉を煮込んだカレー。そんな珍しいものが、それぞれ450円で手に入ってしまうんだから、あらためて、なんて楽しいスーパーなんだろう。

そこにさっきのピクルス、それから、まったく聞いたことのない「ジャックフルーツ」という果物のシロップ漬けも添えてみた。さて準備完了! いざ、いただきます!

骨の周りの肉がとろとろ

まずは期待のビリヤニ。醍醐味であるパラパラ感はばっちりだけど、同時にちょっとパサッともしているかな。特にむねと思われる鶏肉が。いやでも、優しいチキン風味でとても美味しい。そして、自宅にいながらにしてこの異国情緒が愉快すぎる。

続いてカレーは......なるほど、過剰な旨みや深いコクがある日本のカレーとは対極の、スパイスとシンプルな塩気で構成された、さらりとしたカレーだ。くさみのまったくない、ぷるぷる羊肉の美味しさもたまらない。なんだかどっちも、体が喜ぶような味わいだな。

おっと、ビリヤニとカレーを合わせて食べると、パサッと感が中和されてさらにうまいぞ。我ながらナイスな組み合わせだったかもしれない。あ! そこにピクルスをほんの少しずつ混ぜながら食べてもいける! いや~、楽しいなこりゃ。

ちょうどよかったつけあわせたち

え~と、で、ジャックフルーツ。これがまったくの謎なんだけど......へ~、マンゴーとパパイヤとバナナの中間みたいな? そこにほんのちょっとだけ自分の知らないクセを足したような? なんだかちょっとぼんやりとした味わいだけど、今日の箸休めにはちょうどいいかもしれない。

そうそう、ジュースもひとつ買ってあったんだった。イラストだと茶色くてでかい豆にしか見えないけど、どうやらフルーツの一種らしき「タマリンド」なる植物のジュース。もはやなにもわからない。とりあえず缶のままひと口飲んでみよう。うわ! 強~烈に甘いなこれは! 加えて、ほのかな酸味と土っぽさも感じる。これは、自分には、ストレートじゃ無理かも......。

となれば......
そこで思いついたのが、最近発売されたフレーバーのないプレーンチューハイ、タカラの「タンチュー」に少しだけプラスするという飲みかた。......いえいえ、じゅうぶんわかっております。お酒がハラル的にNGなのは。だけど僕はイスラム教徒ではないし、家でひっそりと楽しませてもらってるだけなので、多めに見てやってください。と、どこかの誰かに言い訳をしつつ生成した「タマリンドサワー」をひと口飲んでみて驚いたんだけど、これほとんど「元祖下町ハイボール」じゃん! さっき感じたクセもなにもなくなって、ただただ飲みやすい! そんでまた、ビリヤニ&カレーと合うな〜。

古くから東京の下町で、安焼酎を使ったチューハイを少しでも美味しく飲めるように、各酒場が作っていたという"謎のエキス"。その味の秘訣が、実はタマリンドだった! なんて可能性は......さすがにないか。

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】