独創的な料理を続々と開発している野島慎一郎氏

冷凍庫から取り出し、鍋に入れて温めるだけ! 本格的なラーメンやうどんなどの麺料理が食べられるキンレイの「お水がいらない」シリーズが大人気!

その開発チームの「中の人」たちに『週刊プレイボーイ』で『激ウマ!! バカレシピ研究所』を連載中の野島慎一郎(のじま・しんいちろう)氏が直撃! 極限までおいしさを追求しちゃいます!

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■〝もったいない精神〟から生まれた3層構造

「横浜家系ラーメン」や「鍋焼うどん」など、超定番の麺類を次々と冷凍化する「お水がいらない」シリーズ。そのシリーズを象徴するのが、スープ・麺・具を一体化した3層構造だ!

シリーズ発売から11年で3000%強の伸び率(2021年2月の統計)。それが今や、累計販売数1億5000万食を突破したキンレイの冷凍麺「お水がいらない」シリーズだ。

そんな国民的冷凍麺の開発チームを、『週刊プレイボーイ』で『激ウマ!!バカレシピ研究所』を連載中の野島慎一郎氏が直撃! 苦悩の連続の開発秘話から絶品アレンジレシピまで教えてもらいます!

【株式会社キンレイ「お水がいらない」シリーズ中の人チーム】


広報・PR担当の若生さん。長らく商品開発・研究も担当していた、キンレイの開発史を知る事情ツウ。

開発の太田さん。入社6年目。「元祖皿うどん」や「札幌味噌ラーメン」などのヒット作を手がける。

開発の谷畑さん。入社2年目。生粋のラーメンマニア。「麺屋はなび 元祖台湾まぜそば」を担当。

【聞き手】 
野島慎一郎。ライター、マンガ家、B級フード研究家。独創的な料理を続々と開発。著書『世界一美味しい「どん二郎」の作り方』(宝島社)。冷凍庫にはキンレイ「札幌味噌ラーメン」を常備。

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野島 キンレイの「お水がいらない」シリーズといえば、やっぱり【スープ・麺・具】がドッキングした円盤形の3層構造が特徴的で、見た目のインパクトも抜群なんですけど、これってほかのメーカーではほぼ採用してないですよね。いったいどうしてこんな形に?

若生 もともとは3層に分けず、一流シェフのレシピで作った鍋焼きうどんをアルミ容器に入れてそのまま冷凍しようと考えていました。

なので、味には絶対の自信がありましたが、できたてのおいしさを再現するのに四苦八苦。解凍に時間がかかり、その間に麺ものびちゃう。どうしてもできたての状態よりも味が劣ってしまうんです。

野島 やっぱり冷凍麺は麺のコシこそ〝至高〟ですしね。

若生 なんとか改善するべく、研究と試作を繰り返していたんですが、試作中はどうしても麺とつゆがたくさん余ってしまう。これを捨てるのはもったいないので、それぞれ小分けに冷凍して取っておいたんです。

野島 社員の昼食とかで食べられますもんね。

若生 そうなんです。ある社員がたまたま凍ったつゆの上に凍った麺をのせて加熱したら、まさかの大成功。つゆを先に溶かしてから麺を溶かすことで、コシのある状態のまま麺を仕上げられたんです。これを形にしたのがキンレイの3層構造なんですね。

野島 3層構造はもったいない精神から偶然生まれたのか!

■現地遠征して食べまくり! 商品開発のこだわりと苦労話

お水がいらない札幌味噌ラーメン

ラーメンデータバンク監修の下、これぞ札幌味噌と思える味を追求してたどり着いた「純すみ系」の名作。こだわりの縮れ麺は20回以上も試作をしたそう!

野島 「お水がいらない」シリーズは濃縮スープを使わず、ストレートスープをそのまま凍らせていることもあって、うどんもラーメンも風味が段違いにいいんですよね。でも逆にごまかしが利かなくなるというか、商品の開発が相当大変になるんじゃないかと思うのですが。

太田 構想から商品開発を経て、無事に発売できるまでだいたい1年以上はかかっていますね。

野島 そんなに!

太田 特に「札幌味噌ラーメン」「横浜家系ラーメン」など、店舗の監修ではない商品は一般的にイメージしやすい味を作らないといけないので大変。開発担当が現地に行って何店舗も食べ歩き、トレンドや昔ながらの味を頭に叩き込んでいくんです。

谷畑 現地遠征のときは最低一日4、5軒は食べ歩きますね。

商品開発前には現地でトレンドから昔ながらの味まで徹底調査。大雪の札幌で重いスーツケースを引きずりながら一日5軒も食べ歩く太田さん

太田 「札幌味噌」は私が開発を担当したのですが、重たいスーツケースを引きずりながら、大雪の積もった札幌を歩き回るのは心が折れかけました......。

野島 しかも満腹で......。「札幌味噌」はショウガが利いていて、食べると体が温まりますが、これはもしかしたら太田さんが寒いなかで食べ歩いた経験が生かされているのかもですね......。

若生 キンレイではお客さんの気持ちになって商品を開発する!を大切にし、札幌もあえて極寒の2月に行くわけです。

麺屋はなび 元祖台湾まぜそば

2022年2月新発売。卵黄やのりはご家庭で足していただく設計とし、ミンチ肉の香ばしさや麺のネットリ感の再現に注力。大将も大絶賛の完成度に仕上がった

野島 冬に食べたいラーメンに仕上がっていたと思います! 谷畑さんが担当された「元祖台湾まぜそば」の開発にはどんな苦労やこだわりが?

谷畑 「元祖台湾まぜそば」は「麺屋はなび」の監修だったので、試作品を作りながら大将の考えるおいしさの特徴を探し出し、お店の味をできる限り再現することを目指しました。

野島 最もこだわった部分はどこだったのでしょうか?

谷畑 ミンチ肉です。「麺屋はなび」では火力の出る鉄鍋を使い、鉄鍋でしか出せない香りがします。それならキンレイも鉄鍋を使ってミンチ肉を作ろうと。

若生 でも、鉄鍋はさびやすく、洗浄に洗剤を使えないので、ステンレス鍋と比べてメンテナンスが大変なんです。使っている工場は少ないと思います。

野島 ハードルを上げるのが、キンレイ流のこだわりですね。

谷畑 でもそのかいあって「こんなに香ばしく作ってくれるメーカーはいない」と喜んでもらえました。あとは味つけも微妙な加減で変わるので、もちろん納得がいくまで何度でも試作を繰り返す。トウガラシやニンニクを炒めた湯気を一日中顔で浴びるので、帰ってから顔を洗うと水がヒリヒリと染みるんです。

野島 想像以上に体を張った開発ですね!

四海樓監修 元祖皿うどん

タレの濃度、具材から出る水分、麺の戻り方など細部の設計を微調整し、四海樓の調理法を電子レンジで再現。麺と具材に濃厚なタレが絡む珠玉の一品!

若生 最近リニューアルした「四海樓(しかいろう)監修 元祖皿うどん」も見えないこだわりがすごいんですよ。実店舗ではスープを鉄鍋で煮詰めながら麺と具材を和えて作っているんですが、レンチン時にスープがグツグツ煮立ったような状態で麺を解凍できるように微調整し、麺とタレの絡みを再現したんです。

野島 そうか、冷凍食品だからおいしく作って凍らせるだけじゃなくて、解凍されてちょうどおいしくなるように開発しないといけないのか!

若生 そうです。なので、試作品も作りたての状態で食べたら麺が硬かったりします。ご家庭で煮込むことを想定して作るので。できたてのものをいったん冷凍し、再解凍したものを食べるので、試食をするのにも時間がかかるんです。

野島 そんなに手間をかけて商品開発されていたとは!

■食べまくるからこそ誕生。中の人考案アレンジ

野島 開発チームの人たちはとにかく食べまくりだということがわかりましたが、いったい毎日どんな食生活なんですか?

谷畑 昼食は研究を兼ねて開発したラーメン・うどんを試食し、私はまだ入社して日が浅いので、さらにプラス1品くらいは自社商品を食べて研究をしています。そして夜は18時くらいに帰宅できるんですけど、時間があるものだから家でも研究でラーメンを自作してみたり。

野島 一日3食ラーメン生活!

谷畑 この生活を続けていたら1年で10kg太りました!

若生 もちろん全員が10kg太るわけではないです(笑)。でも、常にいろいろな麺料理を食べて開発のための引き出しを増やしていく必要があるんです。

野島 さすがにそんなに麺料理ばかり食べていたら、正直自社商品をそのまま食べるのは飽きがきちゃいますよね。きっと、ちょい足しやアレンジなどもされているのでは?

太田 やっぱり毎日食べているので、余った食材を使ってアレンジして食べちゃうことはあります。それが開発のヒントになることもあるので。

谷畑 これを足したらもっとおいしくなるとか、そういう視点は常に持っていますね。

野島 キンレイの中の人たちが実際にやっているアレンジレシピ、教えていただきたいです!

若生 もちろん、まずはそのままの味を楽しんでいただきたいのですが、どうしても冷凍をしにくい食材っていうのがあるんです。例えば、生卵は加熱解凍をしようとすると固まってしまいますよね。

野島 確かに、「元祖台湾まぜそば」も卵黄はご家庭で足してというスタイルになってました。

若生 生野菜は水分が抜けて食感が悪くなりやすく、豆腐やこんにゃくも食感がスカスカになってしまうし、乳製品も難しい。そういった食材をキンレイの商品とかけ合わせると、無限のアレンジを楽しめますよ。

野島 冷凍できない食材を補うことがポイントになると! 具体的にはどんなアレンジを?

札幌味噌ラーメンのリゾット風

開発担当者の太田さんが勧める「札幌味噌ラーメン」のアレンジ。食べ終えたスープにご飯を入れたら、チーズと黒こしょうをガッツリとトッピングしてリゾット風に。コク深いスープがいっそう濃厚化し、黒こしょうの刺激も最強マッチ。これ、毎日でも食べられます!

太田 ベタですが、「札幌味噌」を食べてスープが残ったところに、ご飯とチーズを入れて黒こしょうを振り、リゾット風にすると最高です。最後の一滴までスープを楽しめますよ。

カルボナーラ風ちゃんぽん 「お水がいらない四海樓監修ちゃんぽん」に卵黄を落とし、チーズと黒こしょうを振りかけてカルボナーラ風にするのも絶品。芳醇なうまみのスープにチーズと卵黄が混ざって濃厚に!

若生 私は「お水がいらない四海樓監修ちゃんぽん」にチーズと黒こしょうをガッツリ振りかけ、卵黄を落とすカルボナーラ風アレンジを家でよく作っています。

野島 チーズと卵の組み合わせは間違いないですな! 想像するだけでよだれが出てくる。

みぞれ風鍋焼きうどん 大根おろしをたっぷり作ったら、水気をしっかり絞って「鍋焼うどん」に入れるだけ。生大根のフレッシュな味わいが定番の鍋焼きうどんをいっそう贅沢で優しい味わいへと進化させる!

若生 あとは「お水がいらない鍋焼うどん」に水気を絞った大根おろしをたっぷり入れ「みぞれ鍋」風にするのも絶品です。

野島 二日酔いのときに食べたくなるやつですね! ぜひ試したいと思います。食べたらまたすぐ飲みに行けそう!(笑)。それでは最後に、皆さんの「これだけは食べておけ!」というイチオシ商品と、今後開発してみたいものを教えてください!

若生 ぜひ「四海樓監修 元祖皿うどん」を食べてみていただきたいです。ほかのメーカーさんではなかなか再現できないクオリティだと自負しています。最近のリニューアルで豚肉を追加していっそうおいしくなったのですが、今後も既存品のアップデートを重ね、品質向上に努めていきたいです。

太田 私のイチオシは「お水がいらないラーメン横綱」です。こちらはロングヒット商品で、開発当時かなり力を入れて作ったそうなのですが、実際に何度食べてもすごいクオリティだなと唸うならされます。

でも個人的にはラーメンばかりではなく、今後はうどんを突き詰めて開発していきたいですね。やっぱりキンレイは鍋焼きうどんから始まった会社ですから。

野島 うどんもご当地うどんがたくさんありますし、ぜひキンレイ品質で全国のうどんを食べてみたいです! 谷畑さんは?

谷畑 私が開発担当した「元祖台湾まぜそば」はもちろんなのですが、「横浜家系ラーメン」も大好きです。

店で食べる家系ラーメンのように生のすりおろしニンニクをガッツリ入れて、のりをスープにビタビタに浸し、豆板醤(トウバンジャン)とかをのっけたご飯を包んで食べるのが幸せなんですよ。これは毎日でも食べられます!

野島 めっちゃ食いたくなる!!

谷畑 あとは私自身がめちゃくちゃジロリアンなので、いつか二郎系ラーメンを商品化したいと思ってます。あの量を一瞬で冷凍させないといけないのでハードルが高いんですが、普段から食べまくっている豚大のヤサイアブラマシをなんとか商品化させたい!

野島 それはロマンしかない!! ぜひいつか実現させてください!! っていうか、谷畑さんが太ったのは絶対ラーメン二郎を食いまくってるせいだわ!

■野島慎一郎の激ウマ!! バカレシピ3選

●キーマカレーぶっかけ台湾まぜそば

レトルトのキーマカレーを「元祖台湾まぜそば」にかけながら味変を楽しもう。スパイシーさと肉感が増幅。

最後はカレー混じりのタレが大量に余るので、追い飯をガッツリ食べられる!

●ハッシュドポテトのせ鍋焼きうどん

温めておいたハッシュドポテトを定番の「鍋焼うどん」にのせるだけ。たぬきうどんのように味がまろやかになるだけでなく、ほぐれたポテトが麺に絡み、食感の変化も楽しめる

●横浜家系ガーリックトースト

バゲットにガーリックマーガリンを塗って焼き、余ったスープに浸して食べる。本格家系スープをビタビタに吸収したガーリックトーストは絶品! パンでメシが食える!

【『野島慎一郎の激ウマ!!バカレシピ研究所』は毎週金曜日更新!】