最高の〆、よくわからないぐちゃぐちゃ麺 最高の〆、よくわからないぐちゃぐちゃ麺
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、お酒のあとの「〆」について語る。

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おとなしく帰ったほうが絶対いいのに、ついもう一軒寄って何か食べてしまった経験、お酒を飲む人なら一度はありますよね。さっきまで「このまま1週間何も食べなくてもいい」と思うほどおなかがパンパンだったにもかかわらず、お店から一歩出た瞬間に入る脳の厄介なスイッチ、そしてあの魅惑の言葉。

「〆(しめ)、どう?」

外食さえほとんどしなくなったので前世のような記憶ですが、〆の定番といえばラーメン。ラーメンを食べることが少ない私も、理想の〆はうどんやお茶漬け、卵かけご飯、クリームパスタなど、炭水化物ばかり。ガッツリしたものを食べれば食べるほど次の日のHPもMPも回復する気がするので、〆はとにかく糖質と脂質。そう、〆が回復アイテムになるには、暴力的な食べ物じゃないと。サラダやスープなど、体に優しいものなら、むしろいらない。

この感覚は世界共通のようで、アメリカでは飲んだ後はピザが定番です。遅くまでやっているピザ屋さんは多く、徒歩で帰りながらひと切れ(巨大)を買い食いする人や、宅配ピザを頼んでしまうケースも。アメリカのピザは日本のラーメンやうどんのように地域によって具や生地がかなり異なりますが、〆のピザは一番チーズィーでコッテリなものをチョイスしがちです。理想の〆ピザのトッピングを問われ、「冷蔵庫から出した冷えたピザをそのまま食べるのが一番」と豪語していた友人もいました(おそらく袋麺を鍋から直接食べるタイプ)。タコスやナチョス、ブリトーなどのテックスメックスもオススメのアメリカンな〆ですが、遅くまで営業しているお店は少ない印象です。

気になったついでにロンドン在住の親友に定番の〆を聞いてみました。現地では、トルコ系移民の影響でケバブがメジャーとのこと。ケバブではMP回復しない、という私のがっかりを察してくれたのか、お酒をほとんど飲まない彼女ですが、お隣スコットランドの定番・マンチーボックスを勧めてくれました。ひと皿にピザ、ケバブ肉、オニオンリング、ポテト、焼きそば、とまさにジャンクの幕の内弁当。こんな夢のような〆が待っているなんて。パンデミックを機にスコットランドの旅をキャンセルしたのをずっと悔いていましたが、この情報を知らずに行っていたらと思うとゾッとします。

逆に、知らずに帰国して後悔しているのは、チェコの屋台で〆に食べられるスマジェニーシール。巨大な裂けるチーズらしきものを揚げた油の妖怪、"揚げたジャイアントチーズチャンス"を逃したなんて、自分に失望です。

また、旅先で出会った忘れられない〆はスリランカのコットゥ。スリランカの主食のひとつ、ロティというモチッとしたナン的なパンを、肉と野菜と共に鉄板の上で細切りにした素晴らしきグチャグチャ飯です。かまいたちに切られたお好み焼き?のような一品で、野菜が入っているので体にいいはず(!)です。

ちなみに〆は回復アイテムでもなんでもなく、アルコールのせいで低血糖になり、脳が空腹だと勘違いしてエネルギーを摂取しようとするダサい現象のせいで、食べたくなるだけ。しかし、これは人体の問題! 人類みな背徳!

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。札幌で名物の〆パフェを食べたかったけど、睡魔に負けて帰ってしまった。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!