豚肉を生で食べない日本ではなかなか縁のない食べ物ですが、あえて紹介したい。今回の「旅人でも簡単に作れるおうちで世界飯」第33回は、ウクライナの伝統食「サーロ」でお寿司作りです!
サーロは豚の脂身の塩漬けのこと。「白豚脂」と意訳され、"カロリーおばけ"な感は否めません。主に背脂で作られるようですが、豚バラのこともあり"燻製していない生ベーコンの白い脂身部分だけ"という感じ。ウクライナでは一般的な食べ物です。
私がウクライナを旅した2018年。初めてそれを見たのは、リブネという町の宿でのシェア飯(旅人みんなでご飯を食べること)でした。旅友のアベさんがテーブルに置いた謎の白い物体に、現場は一瞬ザワつきました。
「これはウクライナの伝統食で、生でそのまま食べるんだって!」
アベさんに教わるがままかじってみた私の最初の感想は正直「オイシサガワカラン!」でした。だって脂の塊なんだもの。
サーロは栄養価としてビタミンA、E、Dと不飽和脂肪酸が豊富で高カロリー。脂肪源として古来より重視されてきました。戦場に赴くウクライナ・コサックは、サーロを保存食として持参していたといいます。また東欧の伝統医学においては、捻挫や切り傷の際に痛み止め薬として使われていたとか。
「日々節約で質素な食生活を送る旅人にも、カロリー補給としてアリかもしれない! 時々ケガもするし!」
そう思った私は、もう少しサーロに興味を持つことにしました。アベさんとともにリヴィウの観光名所、サーロミュージアム「サーロ」を訪問。そこはサーロをテーマにしたユニークな芸術作品が展示されるレストランでした。
店内はピンク色の照明で怪しい空間。さらに、青白いライトに照らされ不気味に光るサーロで作られたオブジェたち。人の手や耳や胸、それから男性器を形取ったエロティックなものも。どうやら、食べられるようです。
「これ、食欲わかなくない......?(笑)」
私はそう呟きながら、サーロのような真っ白いソファに腰を掛け、メニューを開きました。
「じゃあ、ボルシチと赤ワインのグラス。それからサーロ盛り合わせと......、え! サーロ寿司だって! さすがサーロミュージアムだけあって攻めてるね! いっとく?」
世界にはびこる寿司ではない"SUSHI"の中でも、一際珍しいウクライナのサーロ寿司。これは日本人として寿司パトロールするしかないでしょう!
サーロ寿司はネギやピクルス、豚肉と、ご飯の代わりであろうか、黒パンをサーロでロールし、上にマスタードをちょこんと乗せたもの。これらがウォッカに合うと人気だそうです(私もウォッカを頼むべきだった! でも赤ワインも合うそう)。
さぁ、再度サーロに挑戦。舌の温度でとろける脂をワインで流し込むと、徐々に旨味や食感を理解してきたような。慣れたらクセになってくるのかも?
こちらのお店は現在閉業していますが、かつてはアートプロジェクトやライブなどが行なわれ、クリエイティブな若者が自己実現できる場所だったそうです。世界でもユニークなスポットなので、営業再開を祈っています。
さて、それではいつものとおりレッツクック! といきたいところですが、サーロは日本では入手困難。また豚肉の生食、また自家製は食中毒の危険性があることから推奨されておりません。
そこで今回は代用品を使います。輸入食品スーパーなどで販売している生食可能な「パンチェッタ」、いわゆる生ベーコンのことで豚バラの部分(または「ラルド」という豚の背脂に出会えればそちらがベター)。
パンチェッタは白い脂身の多いほうが、よりサーロに近いものが体験できるでしょう。あとは黒パン(ライ麦パン)をゲットしたら、レッツクックです!
(ちなみに自家製サーロは、豚バラの塊に塩とハーブを塗り込みキッチンペーパーとラップで密封したら冷蔵庫で寝かせ、毎日キッチンペーパーを交換しながら3日以上、最後は冷凍保存すればできあがり。ですが、当コラムでは生食をおすすめしません。作りたい人は自己責任で! または加熱を!)
<材料> 2人分
・サーロ(ラルドやパンチェッタで代用)...2スライス程度
・黒パン(ライ麦パン)...2スライス程度
・ネギ...数本
・豚肉(チャーシューやソーセージで代用)...適量
・ピクルス...適量
*トッピング
マスタード、胡椒、生ニンニクのスライスなど
<調理>
1.パンチェッタを薄くスライスし、寿司の具は巻きやすいサイズにカット
2.パンチェッタで具を巻いていく
3.マスタードを乗せ胡椒を振ったら寿司のできあがり! もう一品、カナッペは一口サイズの黒パンの上に薄切りのパンチェッタを乗せ、お好みでネギや生ニンニクのスライスを乗せる
★YouTubeで実際の料理シーンも見てみてね!
<実食>
そして実食。カナッペはまず黒パンのパサつきが気になりましたが、スライスされたサーロは口の中で脂が溶けるとバターのような役割となり、ウォッカとやると悪くない。
また寿司は厚い脂身のねっとり感が特徴的で、日本人には少々重たいですが、ネギのシャキシャキ感やマスタードの酸味、生ニンニクのスライスが良い働きをしてくれました。今回はパンチェッタを使ったので、現地のサーロよりも身近で食べやすいものになったと思います。
健康志向が高まる現代ではサーロ離れも見られますが、根強いファンも健在です。ウォッカと嗜まれるのはもちろん、かつてウクライナの兵士を支えてきたサーロは、今回のロシア侵攻でも、いざという時のための備蓄とされているのだとか。
サーロはこれからもウクライナの人々のパワーの源としてあり続け、時に寿司やアートなどに形を変えながら、またいつか訪れる旅人を驚かせてくれるでしょう。
PRAY FOR PEACE!
●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。2014年より『旅人マリーシャの世界一周紀行』を連載。Twitter【marysha98】 Instagram【marysha9898】 YouTube【https://www.youtube.com/channel/UCe2ihHJ1MXHEZgpdmglzWew】