『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、最近ハマったという特撮人形劇『サンダーバード』の魅力について語る。
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ちょっと前に、お仕事で特撮人形劇『サンダーバード』を見ました。特急サンダーバードのことだと勘違いしていた私は、きょとんとしながらDVDを受け取ったものの、見始めたらどんどんハマり、テレビシリーズのオリジナル版全32話と今年公開された新作も一気見してしまいました。アメリカではいまひとつ人気がなかったため、ほとんど触れることがなかったんですが、もっと早く見るべきでした。メカやセットのクリエーティビティ、チャーミングだけど時にツッコミどころ満載なストーリー(エンパイアステートビルを引っ張って数㎞移動させる、というどう考えても失敗しそうな計画が出てくる回がありますが、案の定、失敗します)、ミニチュアや特撮の技術、そして何よりも人形の造形と動きの素晴らしさ。すべてがツボ。
物語の主役である国際救助隊一家はアメリカ人、舞台は放送時の100年後に当たる2065年という設定(製作者のジェリー・アンダーソンはそれまでアメリカに行ったことがなかったので、作品はいわば未来もアメリカも知らない作り手による未来のアメリカ)。私にとっての目玉は、人間的な表情や動作を叶(かな)えたスーパーマリオネーションと呼ばれる特殊撮影手法。絶妙に左右非対称の顔や義眼と同じ技術で作られた奥行きのある目、頭部には音声に連動して唇が動く電磁石装置が内蔵されており、不思議な生命力が宿っています。
さらに、この人形たちを人間の役者のように撮影するのもリアル感に寄与していると思います。普通、人形劇は引きの画かアップの画が続くものが多い印象ですが、サンダーバードのカメラアングルやカット割りは、実写作品のように複雑。人形を自然に歩かせる大変さから来た苦肉の策という一面もあるようですが、こういった制約から生まれた工夫には興奮させられます。ヤシの木が倒れる有名なシーンも、出来上がったメカが大きすぎて滑走路を通れなかったから、だそう。
一番引かれたキャラクターはロンドン支部の令嬢ペネロープと執事のパーカー。ふたりはポップで光り輝いていたスウィンギング・ロンドンの時代を体現していて、会話がクスッと笑えます。ペネロープはダスティ・スプリングフィールドとツイッギーのハイブリッドのようなザ・60年代ポッシュ・ロンドンガール。
対するパーカーは、コックニーなまりのギャンブル大好き労働者階級。更生した元金庫破りのパーカーは一見頼りなさそうだけど、射撃と鍵を開ける腕前はピカイチ。ロンドンのふたつの顔を象徴するふたりの任務には、スパイ映画の空気感が漂っていて、「MI.5のジェームズ・ボンソン」なる人物が出てくる回は特に好きでした。
気味悪い世界観と変装したペネロープのファッションもさることながら、夜中のコートダジュールの海から謎のダイバーのアップで始まるオープニングもカッコいい。巨大な水槽を設置したスタジオを想像すると興奮します。最後のペネロープの表情も意味深ですてき。
ほかにも、本物のワニを使ったり、爆破シーンでは今では法律的にダメな黒煙が噴き上がったり、いろんな面で貴重な作品。メカについても、いつか語ります!
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。北陸新幹線が延伸した後の特急「サンダーバード」の運命が気になってしょうがない。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】