『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、8月末で閉店する「アンナミラーズ」の日本最後の店舗について語る。
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突然ですが、私の無念を聞いてください。アメリカの家庭的な味で知られるレストラン「アンナミラーズ」の日本最後の店舗である高輪店が、8月末で閉店することが発表されました。かつては首都圏に20店舗以上あったアンミラ。私は幼稚園、中高生の頃からいろいろな店舗にお世話になってきました。今も週に1回ほどのペースで通っています。閉店のニュースが飛び込んできた前日も、ココナッツパイをテイクアウトしました。ああ、あの頃の純粋無垢(むく)な午後に戻りたい。
見た目の華やかさと、スイーツが苦手な人にも好評な大人の味で、私の手土産の定番はアンミラのパイ。ちょっとしたお祝い事にこじつけて現場にも持っていきます。その結果、アンミラ=市川と連想する人が多いようで、閉店の一報が流れた際は誕生日以上に連絡が来ました。なかには「長年お疲れさまでした、寂しくなります」など、私をアンミラ側に置いたようなメッセージも。
「おい!」とツッコミたい一方、アンミラ側ととらえられてまんざらではありません。そう、私はアンミラ閉店で荒(すさ)んだ心を導くアンミラエバンジェリスト。「パイより制服」と言っていた愚か者を真人間に生まれ変わらせたこともあります。好きなものの魅力を広めてファンを増やす、というオタの正しい接し方を心がけてきました。しかし。閉店。あああ。
とはいえ、私なんぞの布教活動がなくても高輪店は常ににぎわっていました。今回の閉店理由も、品川駅前の再開発に伴う移転要請。今の場所と同じ集客力が得られる立地での新規出店を検討しているそうですが、現在は未定のよう。今後もインターネットでパイやチーズケーキの販売はしてくれるのが救いです。
発表から数日後、いつもどおり訪問したら大行列。混雑は予想していましたが、想像を超える大大大行列が閉店の発表から続いています。パイも購入数の制限があり、平日の販売は一日2回。もしかして、私のアンミラは実質もう閉店したと同然なのか。
この気持ち、三江(さんこう)線の廃止前を思い出します。三江線は利用者減による廃線でしたが、廃止間際は通勤ラッシュ並みの満員列車に。乗車制限がかけられ、普段利用している人が乗れなかったと聞きました。その後、廃線を利用して造られたレールパークがにぎわってほしいと願っていますが、その思いと同じように、アンミラの"閉店祭り"が終わってもパイがネットで買われたり、新規出店が応援されてほしいと思っています。
それに向けて、オススメのメニューを。まずはフレッシュストロベリーなどのクリームパイ。豪快な見た目に反して上品な味のひと皿です。アップルパイは、表面にブラウンシュガーとシナモンなどがのったダッチアップルがオススメ。甘さと塩気のバランスがクセになります。日本では珍しいキーライムパイや、クリーミーなチーズケーキも捨て難い......。カリフォルニアパンケーキも最高です。イチゴが生地の中に入っており、生クリームも完璧。
甘くないものだと、ホットサンドにビーフパティ、チーズ、タマネギを挟んだパティメルトをぜひ。これらにほれ込んだら、復活に向けて共に声を上げ続けましょ!
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】