携帯内の写真を「カンガルー」で検索したらなぜか出てきた写真 携帯内の写真を「カンガルー」で検索したらなぜか出てきた写真
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、カンガルーのポッケについて語る。

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石畳のガタガタ道を車で走っていたときのこと。父自慢の1969年製ビンテージカーのサスペンションが弱かったため、全身が上下左右に大揺れする激しいドライブになりました。脳も揺さぶられたからか、どうでもいい疑問が。カンガルーは、ぴょんぴょん跳ねて移動をする。これくらいの揺れで私の胃がやられるなら、袋の中のカンガルーの赤ちゃんはどうなのよ。お母さん的にもきつくないのか。そもそもあの袋の中はいったいどうなっているのか。調べてみると、カプセルホテル以上、シティホテル未満でした。べとべとだけど。

よくキャラクターにあるようなザ・カンガルーの親子を思い浮かべると、子カンガルーがかわいらしくひょこっと顔と手を出しているポッケの内側は、ふかふかの毛皮? お母さん製の極上の毛布に四六時中くるまれるラグジュアリーな空間。

しかし実際は、あの中はねちょねちょべたべた、さらにジメジメだそう。窮屈で暗く、小さな洞窟のよう。壁は粘膜と思いきや、素肌。服のポッケの裏地がシワシワの皮膚でできているホラーな映像が脳裏に浮かびました。う~んこれはラグジュアリーから程遠い、悪夢のカプセルホテル。テレワークのデイユースでも、リモート会議の背景としては最悪。

いい点は暖かいところ。いまだかつて適温のビジネスホテルに出会ったことのない身としては、ここはポイント高い。湿度も気温もちょうどよさそうなので、ビジホ特有のペラペラかけ布団で冷えるvs暖房全開でカピカピになる、という勝ち目のない2択から解放されます。

アメニティも悪くない。シャンプーなどはないものの、あちこちに微生物が大量にいるのでいい菌が悪いバクテリアをやっつけてくれます。

ルームサービスも充実してます。乳首が4つ袋の中にあり、いわば飲み放題プラン付き。栄養管理もお任せ! 成長過程に合わせて母乳の成分が変化します。一度に複数の赤ちゃんがいる場合は、個々の成長に合わせて異なる母乳が出るそうです。どの乳首がどの子のなのか、母も子もよくわかるな、と感心します。

なぜわかるかは調べてもよくわかりませんでしたが、とりあえずこれで繁忙期の相部屋も安心。私はひとりで泊まりたい派なので、4つのお乳を水・コーヒー・ウーロンハイ・コーンスープに分けていただきます。

ハウスキーピングは再びホラー。袋内で用を足すので、清掃は入りますが掃除道具は母の舌。ぺろぺろ袋の隅まで舐なめて掃除します。しかし、唾液にはいい菌がたくさん! 母も子供の排泄(はいせつ)物で腸内フローラのバランスを整えるので、ウィンウィンです。臭いのはどんまい。

送迎サービスはありませんのでご了承ください。生まれたてのカンガルーはわずか2、3㎝の大きさ、ピンク色のグミのような見た目です。ポパイのように発達している腕に対して、足はパッと見てわからないくらい小さい。この赤ちゃんが、袋までの30㎝ほどをほふく前進のような動きで移動します。目も見えないのに、大したものです。東京駅から出てるスパリゾートハワイアンズの無料バスのありがたみが身に染みました。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。女性用の服はポケットがない場合が多いので、新しいワンピースにポッケがあるとつい自慢してしまう。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!