「乳酸菌」という名前の細菌はいない。糖類を分解して多量の乳酸をつくる細菌の総称。自然界のあらゆるところに生息している 「乳酸菌」という名前の細菌はいない。糖類を分解して多量の乳酸をつくる細菌の総称。自然界のあらゆるところに生息している

「もう、びっくり! 眠りが良くなったの。一日2本飲んでるわよ」

マツコ・デラックスがバラエティ番組でそう発言してから話題が沸騰し、今では品薄で手に入らないほど大ブームになっている乳酸菌飲料「ヤクルト1000」。

いったい何がすごいのか。乳酸菌の専門家で『あなたの知らない乳酸菌力(パワー)』(小学館)や『乳酸菌がすべてを解決する』(アスコム)などの著書がある医療法人第一会最高顧問の後藤利夫医師に聞いた。

■乳酸菌にはそれぞれ得意分野がある!

――ヤクルト1000は何がすごいんですか?

後藤 ヤクルト1000には、乳酸菌シロタ株が一本に1000億個入っています。ヤクルト製品の中では最高密度です。この高密度の乳酸菌シロタ株を取ることで"ストレスの緩和"や"睡眠の質の向上"につながっています。

なぜ、そのような効果があるかというと"腸脳相関"といって、腸と脳はお互いに影響を与える関係だからです。例えば、緊張したりストレスがかかったりするとおなかが痛くなることがありますよね。また、便秘が続いていると気分が落ち込んだりします。これが腸脳相関のわかりやすい現象です。

ですから、乳酸菌などで腸内の環境を整えると脳もリラックスできるのです。

この脳のリラックスに大きな役割を果たしているのが"幸せホルモン"といわれ、気持ちを落ち着かせたり、幸せを感じたりする神経伝達物質のセロトニンです。さらにセロトニンが脳内で睡眠ホルモンのメラトニンになって、睡眠の質を向上させます。

セロトニンは脳内で1~2割つくられていて、残りの8~9割ほどが腸内でつくられています。この腸と脳のセロトニンを増やすのに役立つのが乳酸菌シロタ株というわけです。

シロタ株が1本(65ml)に200億個含まれている「ヤクルト」(写真)。人気の「ヤクルト1000」は1本(100ml)に1000億個入っている シロタ株が1本(65ml)に200億個含まれている「ヤクルト」(写真)。人気の「ヤクルト1000」は1本(100ml)に1000億個入っている

――シロタ株ってすごいんですね。

後藤 はい。シロタ株は京都大学の故・代田稔博士が、日本の子供たちの免疫力を高めるために生きたまま腸に届く菌を発見・強化した乳酸菌です。乳酸菌の持つほとんどの効果を持つスーパー乳酸菌です。

――シロタ株がすごいことはわかりましたが、そもそも、乳酸菌ってなんですか?

後藤 実は"乳酸菌"という名前の細菌はいないんです。

――えっ!?

後藤 乳酸菌とは「糖類を分解して多量の乳酸をつくり出す細菌の総称」です。乳酸菌は土の中や海の中、動物の体内など自然界のあらゆるところに存在していて、その数は数千種にも及びます。

乳酸菌は細菌の総称なので、正式には菌属、菌種、菌株のように分類されます。例えばヤクルト1000のシロタ株は「ラクトバチルス属カゼイ種シロタ株」。「明治ブルガリアヨーグルト」に含まれる乳酸菌は「ストレプトコッカス属サーモフィラス種1131株」となります。

自然界のどこにでもいるので、昔からいろいろな食べ物や飲み物に利用されています。牛やヤギなど動物の乳に含まれる乳糖をエサにして育つ乳酸菌を「動物性乳酸菌」といって代表的な食品にヨーグルトやチーズがあります。

一方、植物に含まれるブドウ糖や果糖をエサにして育つ乳酸菌は「植物性乳酸菌」で、漬け物や味噌、キムチ、醤油、日本酒などがあります。

基本的にどんな乳酸菌でも腸内の悪玉菌の増殖を抑えたり、消化吸収を助けたり、免疫力をアップしたりする効果がありますが、それ以外にも「血糖値の上昇を抑える」「アレルギー症状を和らげる」「血圧の上昇を抑える」など、それぞれの菌が得意分野を持っています。改善したい症状に合わせて、乳酸菌食品を選ぶことができます。

■ポイントは乳酸菌を継続して取ること!

――どんな得意分野や種類があるんですか?

後藤 例えば、「免疫力の強化」が得意なのは乳酸菌シロタ株やR-1乳酸菌などです。免疫システムの主力のひとつであるNK細胞の活性を上げる働きをします。これらを含んでいるのが「ヤクルト」(ヤクルト)や「明治プロビオヨーグルトR-1」(明治)などです。

――じゃあ、血中コレステロールを抑える効果があるのは?

後藤 N-1乳酸菌やSBT2055株。「生乳100%ヨーグルト」(酪王協同乳業)や「ナチュレ恵」(雪印メグミルク)に含まれています。

――血糖値の上昇を緩やかにするのは?

後藤 クレモリス菌FC株。食事のときにこの株が含まれているヨーグルトを一緒に食べると血糖値の上昇が緩やかになったという報告があります。そして、この株を含んでいるのが「カスピ海ヨーグルト」(フジッコ)です。

――血圧の上昇を抑えるのは?

後藤 ラクトトリペプチド(LTP)。LTPは乳酸菌ではなく乳酸菌がつくる成分です。乳酸菌飲料の「アミールS」(カルピス)などに含まれています。

――プリン体の吸収を抑えて尿酸値を下げるのは?

後藤 PA-3乳酸菌など。「明治プロビオヨーグルトPA-3」(明治)など。

――内臓脂肪の蓄積を抑えるのは?

後藤 ガセリ菌SP株やLGG乳酸菌。「ナチュレ恵」(雪印メグミルク)、「おなかへGG!」(タカナシ乳業)などがありますね。

――ピロリ菌を減らして胃潰瘍(かいよう)などから守るのは?

後藤 LG21乳酸菌など。これを含んでいるのが「明治プロビオヨーグルトLG21」です。

――花粉症などのアレルギー症状にいいのは?

後藤 L-92乳酸菌やL-55乳酸菌などです。飲料タイプの「アレルケア」(カルピス)や「ぜいたく生乳ヨーグルト」(オハヨー乳業)などに含まれています。

自分の悩みに合わせて乳酸菌食品を選び、それを継続して摂取することが重要だ 自分の悩みに合わせて乳酸菌食品を選び、それを継続して摂取することが重要だ

――なんか、乳酸菌ってほとんどの人の健康維持には欠かせない食品のような気がしてきました。ちなみに違う種類の乳酸菌を一緒に取っても大丈夫なんですか?

後藤 大丈夫です。エサを取り合うことはありますが、乳酸菌同士がケンカをすることはありません。ただ、ポイントは"継続して取ること"です。体外から取り入れる乳酸菌の寿命は長くて2週間です。

また、摂取した乳酸菌が生きたまますべて腸まで届くわけではありません。多くは胃酸などで腸にたどり着くまでに死んでしまいますから。

外から取り入れる乳酸菌の寿命は長くて2週間。そのため、継続して取る必要がある 外から取り入れる乳酸菌の寿命は長くて2週間。そのため、継続して取る必要がある

――そうなんですか。

後藤 ただ、死んでしまった菌も腸にすみ着いている乳酸菌のエサになり、腸内環境のバランスを善玉菌優位になるように働いてくれます。

――善玉菌優位とは?

後藤 腸内には発酵活動をする善玉菌が約2割。腐敗活動をする悪玉菌が約1割。そして日和見(ひよりみ)菌が約7割います。

――日和見菌?

後藤 日和見菌とは善玉菌、悪玉菌のうち、優位なほうの味方をする菌です。善玉菌を増やすには栄養バランスの取れた食事をすること。乳酸菌の好物は食物繊維なので、野菜などを豊富に取るといいでしょう。逆に暴飲暴食をすると悪玉菌が増えます。悪玉菌が好きなのは肉を中心とした高脂肪食です。

ちなみに、下痢をしたときは腸内細菌が全体的に減っているので、積極的に乳酸菌を取って腸内バランスを善玉菌優位に整えましょう。

小腸で吸収できないくらい食べすぎると、分解できなかったタンパク質や脂肪が悪玉菌のエサとなる 小腸で吸収できないくらい食べすぎると、分解できなかったタンパク質や脂肪が悪玉菌のエサとなる

――わかりました。

後藤 特に乳酸菌などの善玉菌は、年齢とともに減っていきます。50代になると乳児の約100分の1になってしまう。腸内バランスを整え、健康を維持するためにも、日頃から乳酸菌などを取る習慣をつけておくといいでしょう。

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ヤクルト1000が大ブームだが、それ以外にも体にいい乳酸菌食品はたくさんある。自分に合ったものを選んで継続して取るようにしたい。