ピグレットさんご本人。防弾ガラスケースに守られて ピグレットさんご本人。防弾ガラスケースに守られて
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、『クマのプー』のモデルとなったぬいぐるみについて語る。

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先日、米ニューヨーク公共図書館で文学にまつわる展覧会を見た際、原稿や初版本に交じってひときわ目立つボロボロの人形たちを見つけました。クマ、ロバ、カンガルー、虎、豚......。これは、クマのプーさんご一行。1926年に出版された児童書『クマのプー』は、作者A.A.ミルンが息子クリストファー・ロビンのため、彼が持っていたぬいぐるみをモデルにして書いた物語です。その後、ディズニーが権利を取得し、おなじみの赤い服を着たプーさんが登場する映画を作りましたが、今回私が見たぬいぐるみは原作のプーのもとになったもの。ミルンの息子が実際に所有していたプーさんご本人です。もしかすると、今までお会いしたなかで一番の有名人かもしれない。

しかし。はっきり言います。プー先輩、まぁかわいくない。経年劣化とは関係なく、顔がそもそもかわいくないし、野生。これはベアーとかクマさんというより、熊。私はディズニー版より原作イラストのプーが好みだけど、ご本人のコレジャナイ感、すごいです。いくら子供のためとはいえ、「よくこれでミルンは物語を考えようと思ったな」とまで。各メンバーはメーカーが異なるようで、セット売りの商品ではなく自然と家に集まったものというリアルさは面白いものの、全員もれなくかわいくない。

特に豚のピグレットさんは本革みたいな質感で、豚のぬいぐるみが豚の皮でできているような不気味さを感じました。ロバのイーヨーさんは見るからに元気がなくしょんぼりしていて、キャラどおりだと感じられたのはうれしいけど、さすがにこんなに暗いぬいぐるみは見たことない。一番状態が良さそうな虎のティガーはフカフカ感があって表情も柔らかかったけど、「息子にあまり遊んでもらえなかったってこと!?」と哀れな目で見てしまいました。

かわいくないプーさんといえば、最近、プーさんのホラー映画化が話題になりました。私は予告動画のサムネでおなかいっぱいになりましたが、内容は、クリストファー・ロビンに捨てられた人間サイズのプーさんとピグレットが人間を食べる、というものだそうです。ストーリーも映像も気持ち悪いこの映画、完全なる悪ふざけ動画で早々にディズニーの矢が入るかと思いきや、権利的には問題ないようです。アメリカでは、今年から『クマのプー』の著作権の保護期間が切れ、パブリックドメインになりました。ディズニー版はまだ切れていませんが、赤いTシャツさえ着せなければ、本のストーリーやキャラクターはほぼ使い放題!

そこで勝手ながら、夢のプーを考えました。案1:『スパロボ』で超銀河グレンラガンに勝つプー。2:「クマ娘プーリティダービー」に参加する美少女化したプー。3:宇宙に移った森へのコロニー落としを阻止するプー(『スター・トレック』の世界では赤いシャツを着たやつはすぐに死にますが、原作の裸プーなら大丈夫)。4:序盤のライバル・ピグレットが途中でかませ犬になる"友情、努力、勝利"のプー。5:当局に名前や画像の投稿をブロックされるプー。以上、著作権的にOKでもほかにいろいろ問題がありそうならやめます。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。一番怖かった「本人」は国立科学博物館で見たハチ公の剥製。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!