ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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朝からなにも食べておらず、取材先でクラフトビールだけを数杯飲むという、我ながらめちゃくちゃな行程が、夕方、立川で終わった。
関係者のみなさまとはその場で解散となり、ひとり、どこかで食事を兼ねたプチ打ち上げをして帰りたい。となれば「酒亭 玉河」に決まりだろう。
いや、立川にはいくらでも魅力的な飲食店があり、ふらりとどこかに飛びこんでみるという手もあるんだけど、そんなふうに迷っている余裕もないほど、体がメシと酒を渇望している。それにやっぱり、立川まで来て、大好きな玉河に寄らないで帰るわけにはいかないしな。
玉河は、JR立川駅北口目の前にある、創業昭和25年の居酒屋兼定食屋。なんと午前11時から夜までの通し営業で飲めてしまい、地元にあったらなかなか危険な店とも言える。
地下へと続く階段を降り、広々とした店内のカウンター席へ。なにはなくとも、まずは生ビールだ!
キンッキンの生ビールをごくりごくりと喉に流しこみ、っふぅ~! とひと息。やっぱり仕事のあとの生ビールは最高だな! と噛み締めたところ気づく。そういえば今日は、その「仕事」ですでにビールを何杯か飲んでいたんだった。まぁ、酒飲みなんてそんなもの。うまけりゃいいんだ。
さて、と、お通しの、いい味に煮込まれた山菜や野菜の煮物をつまみつつ、その他の注文を検討していこう。
玉河にはこれまで、ふらりと寄って軽く一杯、という感じでしか来たことがなかったので、初めて定食ものを頼んでみるというのもありだよな。「刺身定食」「さんま焼定食」「焼肉定食」「レバニラ定食」「きのこベーコン定食」「ホルモン定食」「煮込み定食」「とんかつ定食」「カツ丼」「親子丼」「カレーライス」「カツカレー」......う~ん、なんでもありだな。 レギュラーメニューに載っているだけで35種類もある。
が、ちょっと待てよ、その下にある200円の「ライス」単品だけを注文し、おかずはさらに膨大にある単品のおつまみメニューから選べば、自分だけの「オリジナル定食」という無限の可能性も広がっているじゃないか! よし、そっちの作戦でいこう。
う~んう~ん、今日の気分は......とさんざん迷い、おかず2品を決定。さっそく届いた1品目は「鳥チャーシュー」だ!
ロール状に巻かれた鶏肉のチャーシューに、見るからにうまそうなタレがかかっていて、その上にねぎがどさっ。いや~、いい。見るからにいい。もちろん、これをほかほかのごはんにのせて、まずはオリジナルの「鳥チャーシュー丼」にして、いただきま~す!
甘辛ベースだけど想像よりもあっさりめのタレがふわりと柔らかい鶏肉に絡み、そこにしゃきしゃきのネギがアクセントを加え、絶妙な炊き加減の白メシに合いすぎる。はふっはふっと、箸を口に運ぶ手が止まらない。まずいぞまずいぞ、次のおかずのために、ごはんを半分は残しておかなきゃいけないのに......。
と思っていたら、2品目も到着。選んだのは「きのこ盛合天ぷら」!
480円というリーズナブルさにして、この迫力はどうだ。肉厚のエリンギ天と、大ぶりのしめじ天が、山と積まれている。もちろん、その両方をごはんにのせ、醤油と七味をかければ、オリジナル第2弾「きのこ天丼」の完成!
サクサクの衣に包まれたジューシーなエリンギは、肉厚と表現するより、もはや「肉」と言っても過言ではない満足感。ふわふわ食感のなかに旨味と良い香りを閉じこめたしめじ天も、言葉ない美味しさだ。すかさず白メシで追いかければ、全身がじわ~んと温まってくるような幸福感に包まれる。
レモンスライスまで浮かべてもらって360円という値段に拍手を送りたい「酎ハイ」をおかわりし、しっかりとだしのきいた天つゆに浸したきのこ天を、そのままつまみにしたりもしつつ、大充実のひとり打ち上げもいよいよ終盤戦。
残ったつまみと、天ぷらについてきた大根おろしも、よし、みんなごはんにのせちゃえ!
すべての要素が融合し、もはや「本日のパリッコ丼」としか言えないものが目の前に爆誕してしまったけれど......そりゃあもう......ね? わかりますよね? こんなものが、うまくないはずがないことは。
あぁ、今日も幸せな"ハマりメシ"が食べられてありがたいことだ。さて、電車とバスでうとうとしつつ、帰ろっかな。