1993年公開の映画『ジュラシック・パーク』に始まった大人気シリーズ待望の最新作が絶賛上映中! そして、『学研の図鑑LIVE』シリーズの中でも人気の高い『恐竜』の新版が登場!
"恐竜熱"が高まっている今、知っておくと通ぶれる恐竜の最新知識を編集者・松原由幸(まつばら・よしゆき)氏に直撃した! どうやら『ジュラシック』シリーズで人気の恐竜・ヴェロキラプトルは実際とはだいぶ違うらしい。
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■映画のラプトルはモデルが別にいる!
――映画『ジュラシック・パーク』シリーズを通して、特に活躍するヴェロキラプトル。素早い上に賢く、肉食恐竜の中では小ぶりながら、群れで大きい恐竜と善戦したり、人を追いつめたりします。ラプトルは実際に強い恐竜だったのでしょうか?
松原 実は作品内で描かれているラプトルは、実際とはけっこう異なるんです。
――え、どういうこと?
松原 映画では人と同じくらいのサイズですが、実際のラプトルは大型犬くらい。映画のラプトルは、ヴェロキラプトルと同じドロマエオサウルス科で、もう少し体の大きなデイノニクスという別の恐竜をモデルにしているそうです。
――では、デイノニクスが映画のラプトルのような恐竜だったということですか?
松原 映画同様、素早い肉食恐竜だったと考えられていますが、容貌はかなり違ったでしょう。映画のラプトルは全身が鱗(うろこ)に覆われていますが、実際は羽毛で覆われ、翼があったと考えられています。最近の図鑑では羽毛がありますが、シリーズ1作目が公開された1993年前後の図鑑では、羽毛のない姿で描かれています。
ちなみに、デイノニクスは恐竜の研究史にとって非常に重要な意味を持つので、それが活躍するのはアツいことなんです。
――重要な意味とは?
松原 今では「鳥は恐竜から進化した」ことは通説になっていますよね。19世紀くらいからこの説は存在したんですが、実は長いこと引き下げられていたんです。しかし、1964年にジョン・オストロムという研究者がデイノニクスの化石を発見し、骨格が鳥に似ていることを報告したことで、説が再び支持されるようになりました。
さらに、オストロムの弟子のロバート・バッカーが「恐竜は爬虫類(はちゅうるい)のような変温動物ではなく、鳥と同じ恒温動物だ」という説を立ち上げたのです。
ちなみに映画の1作目に「バッカー博士の本では......」というセリフがあるのですが、それはおそらくロバート・バッカーのこと。彼は恐竜を世間に広めることに積極的だった人で、イラスト付きの本を出版しました。その本を登場人物も読んだんでしょうね。
――『ジュラシック』シリーズに出てくるほかの恐竜は本物に近いんでしょうか?
松原 毒を吐くディロフォサウルスという恐竜が出てくるのですが、実際の姿とはかなり違います。映画内ではクルマに乗ってきたりするくらい小さいですが、実際は全長6mくらい。また、エリマキトカゲのようなエリマキもなく、今のところ毒を持っていたという知見もありません。
――めちゃくちゃフィクションだったんだ! でも、恐竜はやっぱり鳥よりワニなどの爬虫類に近い気がするんですけど......。
松原 恐竜の定義の話になるのですが、どこに注目するかというと「骨盤」なんです。
――骨盤!?
松原 大腿骨(だいたいこつ)と骨盤がくっついているところに注目します。爬虫類は骨盤のその部分がくぼんでいるだけなのですが、恐竜の骨盤には穴が開いています。穴の開いた骨盤を持つ生き物を恐竜とするので、骨盤が同じ形をしている鳥は恐竜ともいえるんです。
■恐竜はなぜ絶滅したのか
――恐竜が絶滅した理由は?
松原 巨大隕石(いんせき)の衝突だと考えられています。恐竜が生きていた時代の白亜紀と、絶滅した古第三紀の地層の境界からイリジウムという物質が大量に見つかっているんです。これは地球の地表にあまりない物質なので、境界から見つかったものは宇宙から持ち込まれたといわれています。
つまり、巨大隕石に含まれていたイリジウムが噴煙となって世界中にばらまかれて地層に入った。これが、隕石の衝突説が支持される大きな根拠になっています。
そして、その衝撃によって巻き上げられた塵(ちり)が日光を遮断したことで、地上の温度が28℃、海では11℃下がったといわれています。その影響で植物が育たなくなり、それを食べる植物食恐竜が死に、それを食べていた肉食恐竜も死んでいった、というのが今の通説です。
そこで生き残った地上の生物は何かっていうと、くちばしを持つ鳥類。植物が枯れても、残った種をくちばしでついばんで食べられたと考えられています。また、変温動物の爬虫類や両生類も、食べ物を多く食べなくても生きていけたため絶滅を免れた。あとは僕らの祖先の哺乳類。当時はだいぶ小型だったので食べ物が少なくても生き延びた。
一方、繁栄しまくって巨大になっていた恐竜は急激な環境変化に対応できず、ほぼ絶滅。その後は哺乳類が地球上で存在感を増していくワケです。
――絶滅する前まで、恐竜は地球を支配していた?
松原 そうですね。体の形や大きさがさまざまで、肉や植物など食べるものにも違いが出ているのは、恐竜が地球上のあらゆる環境に適応して繁栄したからだと考えられます。今の哺乳類と同じような状態と考えれば、どれほど繁栄していたかわかりやすいですね。
――確かに空を飛ぶものもいれば、水の中に生息した恐竜もいますもんね。
松原 たぶん今想像されているのは、恐竜じゃないです。
――プテラノドンとかフタバスズキリュウとかいるじゃないですか!
松原 プテラノドンは翼竜、フタバスズキリュウ(学名:フタバサウルス)は首長竜であって、恐竜じゃないです。どちらも骨盤に穴が開いていません。首長竜は、どちらかといえばトカゲとかに近いんです。水辺に生息していた恐竜でいえば、スピノサウルスが有名ですね。
――『ジュラシック・パークⅢ』(2001年)で襲ってくるヤツ!
松原 スピノサウルスは研究が進むにつれて復元の姿が変わってきた興味深い種なんです。昔から部分的に化石は見つかっていたのですが、第2次世界大戦の戦火で失われてしまって、しばらく研究が滞っていました。『パークⅢ』では二足歩行で描かれますが、2014年に後ろ足の骨の化石が見つかり、それが短かったため、今は四足歩行をしていたといわれています。
また、20年に見つかった化石から、スピノサウルスは縦に幅広いウナギのようなしっぽを持ち、泳ぐのが得意だったという説が提唱されました。しかし、この説についてはまだ議論が続いています。
■恐竜の色がわかってきた!?
――今回の改訂版は、前回の図鑑からどのくらい変更があったのですか?
松原 恐竜って日々新しい発見や研究が出るので、旧版から内容を更新したところも多いです。すでに掲載する恐竜のラインナップが決まっていた昨年末に新種が見つかったときは震えましたよ......。
ステゴウロスっていう原始的な鎧竜(ヨロイリュウ)類なんですけど、急いで内容を変更して追加しました。今回、420種以上の生物を載せているのですが、ほとんどイラストを全部新しく作ったんですよ。
――イラストのこだわりは?
松原 恐竜にはそれぞれ特徴的な部位があるので、そこをしっかり見せるようにしています。しっぽだったり背中だったり。ティラノサウルスであれば、顎の筋肉。ほかの肉食恐竜と比べても頭蓋骨の横幅が広く、噛む筋肉が発達していました。あとは、学研の図鑑では羽毛を馬のたてがみのように生やしています。
――本当だ! ティラノサウルスにも羽毛が生えていたんですか?
松原 20年くらいずっと論争が続いています。なぜそういう議論になったかというと、ティラノサウルスの祖先であるディロングなどの化石から羽毛の跡が見つかったんです。祖先に羽毛が生えていたということは、子孫であるティラノサウルスにも羽毛が生えるポテンシャルがあったかもしれない、といわれるようになったんです。
一方で、ティラノサウルスの化石からは鱗の跡が見つかっています。このことからは「鱗に覆われていた皮膚もあった」といえます。ただ、羽毛説を否定はできません。この議論がなかなか収束しない要因は、ティラノサウルスの化石からは羽毛が見つかってないこと。そのため、研究者や博物館によって復元画に描かれる羽毛の有無や量はまちまちなんです。
学研の図鑑では背中にだけ羽毛を生やして、体の大部分は鱗にしました。大きい生き物って体に熱がこもりやすいので、全身に羽毛は生えていないと考えました。
昔と比べると、姿勢も変わっています。発見当時はゴジラみたいに体を起こして、しっぽを引きずって歩いていたとされていたんですが、その後見つかった足跡の化石に、しっぽを引きずる跡は見つかりませんでした。そのため、しっぽを上げた前傾姿勢だったと考えられるようになりました。
――日々新発見があるなら、ティラノサウルスよりも強い恐竜も出てきているのでは?
松原 いまだに、噛む力はティラノサウルスが最強クラスだと思います。ほかの大型肉食恐竜と比べても、ティラノサウルスの顎の筋肉は発達していて、獲物を骨ごと噛み砕いていたともいわれています。
ギガノトサウルスというティラノ級に大きな肉食恐竜がいて、よくゲームなどでティラノのライバルとされるんですが、ティラノよりも顎は細かったので、戦えばティラノサウルスが勝つかな...と思います。
――原点にして頂点なんだ! ちなみに恐竜の体の色はどう決めたんですか?
松原 実は近年、化石から色がわかってきているんです。生き物の体の色を決める要素のひとつに、「メラノソーム」があります。メラノソームは、生物の細胞内にある色素を含んだ小器官で、構造によって色が決まっています。細長かったら黒色みたいな。
それで、恐竜の羽毛や皮膚の化石を電子顕微鏡で細かく観察したところ、驚くべきことにメラノソームの痕跡が残っていて構造までわかり、色もわかった。この図鑑では、体の色がわかっているものについては明記しています。
恐竜の研究の幅も広がっています。昔は化石を発掘して、それを目で見て観察することしかできなかった。でも今はそれに加えて、電子顕微鏡やコンピューターのシミュレーションなどの技術を駆使することで、恐竜の姿形や生活の様子がもっとわかるようになってきた。それでもまだわからないことばかりですが。
――この図鑑には「論争が続いている」とか「反対意見もある」とか「まだわかっていない」という文言も書いてありますよね。
松原 企画当初からこの図鑑では、まだわかっていないことはちゃんと「わからない」と書くことに決めていました。学問として正確ですし、そのほうがワクワクしますよね。この図鑑を読んだ読者が将来、「わからない」って書かれていた部分を解明してくれたらという思いも込めています。
読者の皆さんもロマンあふれる恐竜の世界を、劇場と図鑑で堪能してみては?
●松原由幸(まつばら・よしゆき)
2017年、名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。同年学研プラスに入社。学参・辞典編集室で参考書などの編集制作に携わり、2020年より図鑑・科学編集室に配属となる