日本が世界に誇れるシステム、指さし確認
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、日本特有の鉄道のシステム「指さし確認」について語る。

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日本の鉄道を世界と比べると、きっちり時刻どおりに動くとか、グラフィティやゴミが少なくてきれいというイメージがあると思います。遊び心あふれる観光列車が多いことを思い浮かべる人もいるかもしれません。ほかにもいろいろな特徴がありますが、ひとつ重要な違いに、指さし確認があります。運転士が「出発進行!」と言いながら指で信号をさす姿や、車掌が列車到着後に「停車位置オーライ!」と声を出す安全確認の動作は、日本ではおなじみですが、実は日本特有のものです。

鉄道の現場に立つ職員が、信号や標識などに向かって指をさしながら声を出す「指さし確認」(「指差喚呼[しさかんこ]」「指差称呼[しさしょうこ]」「確認喚呼」など呼び方はさまざま。どれもパソコンの変換では出てこなくてショック......)は、明治末期に旧国鉄の神戸鉄道管理局で生まれたといわれています。目が悪くなってしまった機関士が助手に何度も口頭で信号の確認をしていたところ、目が悪いことを知らない機関車課の幹部が、その安全の徹底に感動してルール化したそうです。これが国鉄や私鉄に広がり、今は建設業などの他業種でも導入されています。各会社の文言の違いも楽しいです。

指さし確認の効果のポイントは、「気が抜けない」ところ。対象を見詰め、指をさして「〇〇良し!」と声に出すと、反射的に意識がそこに向き、誤判断や誤操作などのヒューマンエラーを減らせます。鉄道総合技術研究所の実験では、指差喚呼すると作業ミスの発生率が約6分の1に減少しました。ほかの実験では、85%減ったというデータもあるようです。

なのに、世界には広まっていません。日本統治時代に日本の鉄道システムを導入した韓国や台湾以外では、香港や中国の一部、ブラジル・リオデジャネイロのスーペルヴィアという近郊型鉄道が採用しています。

ニューヨーク市地下鉄では、日本で見た指差喚呼に感銘を受けた幹部の指示で、1996年から指さしのみを導入しています。列車の停車位置を確かめ、ホームの上に設置してある白黒の看板(通称ゼブラボード)に向かって指さし確認をしますが、個々の車掌さんの動きが違うので見ていて面白いです。

日本では動きを統一したほうが効果があるとされていますが、それでもニューヨーク市地下鉄ではホーム転落事故が75%減りました(そもそもホームがないところに停車して転落が相次いでいた、という事故の質はさておき)。以前、ゼブラボードに「セクシーだったらここを指さして!」というイタズラ書きが張られているのを目撃しましたが、笑いながら「そう、俺セクシーだぜ」と指をさした車掌さんのノリの良さが印象的でした。安全確認としては全然ダメでしょうが、みんな楽しそうで何よりでした。

ちなみに、指でさした方向に注意が向く人間の特性を利用した遊びに、「あっち向いてホイ」があります。あっち向いてホイも欧米にはない遊びで、グーグル翻訳では雑にlook over there hoiと訳されてました。世界への指さし確認の普及のための第一歩は、良い訳を見つけるところからかもしれません。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。かつてグーグル翻訳は「事なきを得る」を「I get Kotonaki」と訳していたのに、いつの間にか修正されていて寂しい。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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