ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

ありがたいことに、またまた新しい単行本を出させてもらうことになった。9月29日に出版社、スタンド・ブックスから発売される、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』がそれだ。  

おなじみ、スズキナオさんとの共著で、これまでにふたりでデイリーポータルZというWEBサイトに発表してきた記事を厳選し、徹底的に加筆修正を加え、なんと全ページに「副音声」と題した語り下ろし対談を収録。『つつがない生活』などの作品で知られる漫画家、INAさんによるカバー挿画も、戸塚泰雄さんによるブックデザインも、あまりにも素晴らしい。

さらに、初めて聴いたのが1994年『ポテン・ヒッツ~シングル・コレクション』だから、もう28年も好きでいる計算になるスチャダラパーのBoseさん、そして、人気ラジオ番組「アフター6ジャンクション」で度々共演させてもらい、人としてはもちろん、酒飲みとしても大尊敬しているTBSアナウンサーの日比麻音子さん、そのおふたりから、恐縮なことに帯コメントまでいただいてしまった。

新しい本が出るたびに、こんなに嬉しいことが、人生にまた起きるなんて! と、胸がいっぱいになる。けれどももちろんそれだけで満足せず、この本がひとりでも多くの人のもとに届くように、できる限りの努力をしていかなければ。  

と、本の宣伝はこのくらいにして、つまり僕は数日前まで、その本に関する「単行本作業」に追われていたのだった。  

書き下ろしの本じゃないのにこんなにも!? と自分でも思うくらいの作業量で、WEB用に書いた記事の内容を紙の本で読みやすいように直し、6時間ほどぶっ通しでナオさんとの語り下ろし対談をし、ところどころにどうしても発生してしまう余白が寂しかったので、そのすべてに僕が挿し絵を描き下ろすことにし......。  

さらに時間がかかるのが原稿への「赤入れ」作業。本全体の「ゲラ」と呼ばれる試し刷りが上がってくると、「ここに誤字がある」「ここの表現は変えたい」「このくだりは不要かも」「ここはもうちょっとわかりやすい説明が必要か」など、いくらでも修正したい箇所が出てくる。そこで試し刷り原稿に、赤ボールペンでどんどん修正希望を書きこんでいくのが赤入れ作業。

単行本を出してもらうたびに経験することだけど、最初から最後まで徹底的に確認したはずなのに、その作業をくり返すたび、また新しい修正点が出てくる。しかも今回の本、327ページというなかなかの厚みで、しかも本文は2段組(文字がいっぱい入るレイアウト)。時間がいくらあっても足りないし、精神的にもかなり疲弊する。それを、ナオさん、編集者さん、僕がそれぞれにやって、ついに入稿データが完成したのが数日前だったというわけだ。  

最後の4日間くらいはもう、1日平均3時間くらいの睡眠をこま切れにとっているような感じで、身も心もへろへろ。それでも続けていれば終わるもので、いよいよ入校日の朝......を、通り越して午前9時ごろ。ついに、自分が担当するぶんのすべての作業が完了したのだった。  

眠い。眠すぎる。しかし達成感から、気分は高揚もしている。いったん、昨日のいつから食べていないかも覚えていない、メシを食おう。合わせてお疲れ様の一杯もやろう。そんで、寝よう。平日の午前中というものすごい時間ではあるけれど、そうやっていったん肉体と精神を"シャットダウン"しないと、次の行動がとれるはずもない。  

さてどうする。駅前まで行けば、「富士そば」とか「松屋」なんかのチェーン店なら開いているし、また魅力的でもあるけれど、なんだかそれすらも面倒だ。いいか、もう。コンビニで。そうだ、コンビニで欲望のままに食べたいものを買ってきて、がっつがっつと食らってやろう! 今はその選択肢こそ、ベストな気がする!  

というわけで、最寄りのコンビニである「ファミリーマート」までてくてくと歩いて行く。すると、なんということだ! しばらく前から「9月6日発売!」という告知が出ていて、これ、絶対好きなやつ! と心待ちにしていたホットスナックの新商品「フィッシュフライ(タルタルソース入り)」が、もうとっくに発売されてるじゃないか! 僕としたことが、仕事に追われすぎて楽しみにしていたフィッシュフライを発売日に食べることも忘れていたとは、なんともなさけない......。  

すると、頭のなかのピースがカチリカチリとはまりはじめる。こいつを主軸に組み立てよう。となると、白ごはんだよな。お弁当コーナーにはただのライスはないようだから、パックごはんか。野菜も一応とっておきたい。ここは「千切りキャベツ」でいいか。それから、フィッシュフライだけで足りなかった場合も考えて、なにかおかずをもう1品......「生ちくわ」だな。  

で、そうだそうだ。Boseさんとも仲良しで、僕が大尊敬してやまない、かせきさいだぁさん。そのかせきさんが最近プロデュースした食器「質素亭 なんでも丼ぶり」が、こないだうちに届いていたんだった。あまりにもかわいくて、最初はなにを食べようかと迷っていたんだけど、今こそがそのタイミングに違いない。ファミマで買ったあれこれをどんぶりに盛りつけ、「質素丼」を作って食べよう!


「質素亭 なんでも丼ぶり」(@ciderproducts) 「質素亭 なんでも丼ぶり」(@ciderproducts) 買ってきた食材たち 買ってきた食材たち
さて、あとやることと言ったら、盛りつけだけだ。あいにく仕事場には電子レンジがないけれど、「サトウのごはん」は、湯せんでも温められる。いちばん簡単な方法はたっぷりとお湯を沸かしたら弱火にし、その鍋にフィルム側を上にして15分以上入れておくだけ。つまり、カセットコンロと鍋さえあればできるわけで、これ、実は災害時などにも使える豆知識。

湯せん中  湯せん中 
ごはんが温まる間、よし、もうチューハイ開けちゃえ。ゆっくり飲んでよう。ぷしゅり。ごくごくごく......ふぅ~......終わったんだな、今回も......。こういうタイミングで寄り添ってくれる酒は、いつだって心と体に沁みわたる。  

そろそろごはんも温まったかな。そしたらどんぶりによそって、キャベツをのせてソースをかけて、あ、ソースがない。まぁマヨネーズでいっか。

器のせいでもうかわいい 器のせいでもうかわいい
最後にフィッシュフライとちくわを、どんどんどーん! 雑にもほどがある調理工程ながら、ついにオリジナル「質素丼」の完成。

パリッコ作「本日の質素丼」  パリッコ作「本日の質素丼」 

よぅし、まずは「ベジファースト」の精神で、気持ちばかりキャベツをもしゃもしゃ。そしたら、いよいよ待望のフィッシュフライだ。

いざ、ぱくり......うん、厚めでザックザクの衣のなかに、ふわりとした白身魚とたっぷりのタルタルソース。タルタルの甘酸っぱさはもちろん、衣にもしっかりと塩気が効かせてあって、ジャンクフードらしい容赦のないオイリーさがあって、あぁ、乾いた心身が潤っていく~。

ジャンクフードにしかない優しさもある  ジャンクフードにしかない優しさもある 
すかさず白メシもぐもぐ。フィッシュフライといえばパンに挟むイメージで、ちょっと斬新さはあるけれど、いやいや、すすむ、すすみすぎるぞ~! ごはんも!  

そんでまた、かせきさんのどんぶりの形が、ものすご~くごはんをかっこみやすい形になってる。やっぱいいなぁ、これ。早くも、次は何を食べようかな? なんて思いはじめてしまっている。  

フィッシュフライを半分食べたところでちくわをぱくり。ぷりんとした食感と凝縮された旨味。同じ魚料理でありながらそれぞれに個性があり、いいリズムが生まれる。なんだか我ながら、スズキナオさんとのコンビ名として勝手に名乗っている「酒の穴」みたいでもあるような? なんて、ニヤニヤしつつ飲むチューハイがうまい。

しみじみと味わい、大満足でごちそうさま。もはや、なにも考えることができない。よし、寝る!  

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】