神話学者の平藤喜久子教授(國學院大學)の著作『神話の歩き方』(集英社)の発売を記念して、ロック歌手の相川七瀬、俳優の賀集利樹といった"神話通"との豪華なトークイベントが実現。神話への熱き想いを聞いた。

■教授と現役学生とOBが勢揃い

神話学者の平藤喜久子教授(國學院大學)が近著『神話の歩き方』をもとに、神話の物語を体感できる絶景や神社を案内するトークイベントが行われた。

『仮面ライダーアギト』の主演で脚光を浴び、その後も数々のヒット作に出演している俳優の賀集利樹が司会を務め、歌手の相川七瀬がゲスト登壇する、という異色の組み合わせ。

なにを隠そう賀集は國學院大學神道文化学部の卒業生で、相川は現在同学部の三年生、しかも二人とも神社めぐりの著書を持つ神話通なのだ。筆者は収録現場を取材する機会にめぐまれたが、一時間半のトークイベントは、お堅い雰囲気一切なし。

お三方とも、アイドルグループの話でもするかのようにオオクニヌシ、タカミムスビ、トヨタマビメといった神々の名を口にし、人気ドラマの一場面をふりかえるような近しさで、神話のエピソードを話題にする。ことだまのさきわう国、の縮図を見る想いだった。以下、トークイベントとその後の筆者によるインタビューを再構成し、お三方の神話への思いを紹介したい。

――今度の御著書は神話を身近に感じるための写真付き旅行ガイドです。日本神話の舞台を旅行する、という先生のスタイルはいつ頃から続いているのでしょうか?

平藤 私はもともとお話、物語が好きで、大学生の頃、初めて出雲大社をおとずれて「ここに物語の主人公でもあるオオクニヌシノカミが祀られているんだ」と思った時に、その場所に行って神さまを感じることができると知りました。それ以来、神話にゆかりのある場所を旅するようになりました。

これが外国の神話だったら、たとえばギリシャに行くってなかなか難しいですよね。日本神話の舞台は国内にあり、訪ねてゆきやすいのも魅力です。

『古事記』や『日本書紀』の内容は変わりませんが、読む側の年齢によって読み方が変わってくるところがあります。最近私が気になるのは女神。女神の恋愛話とか、そういう話に、説教をしてやりたい気持ちを抱え、"ひとこと私に訊いてくれればアドバイスできたのに"なんて想いながら見るのが好きですね。

平藤喜久子國學院大學教授。学習院大学大学院博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。専門は神話学、宗教学 平藤喜久子國學院大學教授。学習院大学大学院博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。専門は神話学、宗教学

――神話には地域ごとのバリエーションがつきものですが、学者としてひとつの〝真実〟を突きとめようとはお考えですか?

平藤 できれば旅をしながら、その土地でどういう伝えられ方をしているのか知っていきたいですね。でも"これが真実です!"と説くのは自分の仕事ではないと思っています。やっぱり"自分はこれで納得した!"というものに出会えればいいな、と。

――御著書は日本神話の定番ともいえる出雲神話と日向神話の章に加え、対馬神話の章でしめくくる構成になっています。それぞれの地の魅力を簡単に教えていただけますか。

平藤 イメージとして出雲は"夕陽"が、日向は〝朝日〟がそれぞれ似合う神話の舞台で、対馬は"グローバルな神信仰の通り道"ととらえることができます。

■相川七瀬の神話フィールドワーク

――さて対馬といえば、相川さんはもう10年も通ってらっしゃると聞いて驚きました。

相川 私はもともと、ライブツアーで全国各地をまわる時に、あいた時間でその土地土地の神社を参拝するうちに神道や神話に興味を持つようになりました。

対馬との縁ができたのも、コンサートでこの島を訪れた時です。豆酘(つつ)という集落で、偶然、"赤い稲穂"に出会ったんです。その集落では、皇祖神とも言われるタカミムスビノミコトに捧げるために、その赤米を育ててきたという伝承があり、毎年"赤米神事"が行われているとのことでした。

ところがその田んぼの持ち主の方に、お話を伺ったら、「継ぎ手がいなくて、私の代でこの赤米神事はおしまいになるんです」と言われショックを受けました。「なんとか赤米神事の助けになりたい!」と思ったことから、対馬とのご縁ができました。それ以来毎年通って、赤米神事を後世に伝える活動をさせていただいてます。

対馬って古い神社がたくさんあるんです。亀卜の発祥の地という神社もあり、そこから大和に伝わったという史実も残っている神道のワンダーランドのような場所です。私、今回先生の本を読んで初めて知ったのですが、安徳天皇の御墓もあるなんて(注:壇ノ浦の戦いで亡くなったとされる安徳天皇の生存・漂着伝説は各地に残っており、そのひとつが対馬)! ほんとうに奥深いふしぎな島です。

「もともと神社がすごく好きで、伝統文化とか祭祀にも興味があった」と語る相川さんは、2020年に國學院大學神道文化学部に入学 「もともと神社がすごく好きで、伝統文化とか祭祀にも興味があった」と語る相川さんは、2020年に國學院大學神道文化学部に入学

平藤 対馬には様々な信仰が伝わっていますが、それが古い姿なのか、独特の姿なのか、それとも他の地域とつながっている文化なのか、いろいろ考えたくなるところなんですよね。

相川 あきらかに、外国の方の影響を受けてると思います。

――相川さんは現在大学の三年生でたいへん優秀な成績をおさめられているそうですね。もう卒業論文のテーマは決まりましたか?

相川 それがまだなんです。書きたいことがたくさんありすぎて、教授からはひとつに絞ってって言われてます(笑)。

■学びへの誘い

――相川さんと同じく、賀集さんも社会人を経てから國學院大學の神道文化学部に通われたのですね?

賀集 はい。僕は29歳の時に伊勢神宮に初めて行って、「ああ、日本にはこんなに美しい場所があるんだ」と感動しました。その時、「日本人なのに日本のこと知らないな」て思ったのが一つのきっかけで、歴史の本を読むようになりました。

それで初めて神道という言葉を知ったんです。本当にお恥ずかしいんですけど、それまで神社とお寺の違いも分からないくらいだったんです。それがきっかけで専門的に神道を学びたくなり、俳優業を続けながら國學院大學に通い、卒業しました。

俳優の賀集利樹さんも國學院大學神道文化学部の卒業生で、『神社巡りがもっと楽しくなる 賀集利樹の新ニッポン聖地紀行』の著作もある 俳優の賀集利樹さんも國學院大學神道文化学部の卒業生で、『神社巡りがもっと楽しくなる 賀集利樹の新ニッポン聖地紀行』の著作もある

――賀集さん、相川さんのお二人にお訊ねしますが、社会人を経験して大学に入ると、学びへの餓え、渇きが強くて講義にも身が入るのではないでしょうか?

賀集 そうですね。だいたいもう、講義の時には一番前の席に座っていたので。

相川 わかります!

賀集 高校卒業してすぐに大学受けてたら絶対座ってないだろうなっていう席に、みずから座っちゃう。

相川 座っちゃいますよね! アリーナ席で(笑)

賀集 ここ誰も座んないんだ、ラッキー! てくらい。やはり、専門的になにかを学ぶのは、いくつになってもやれることだし、逆に、日本は高校卒業してからすぐ大学に行かなきゃみたいな流れがあるんですけど、あの若さで、ホントに学びたいものを見つけるのはなかなか難しいでしょう。

30代40代どころか50代60代になっても学べる場所が大学だと思います。僕らと同じような欲求を持っている人がいたら、思い切って挑戦して大学に行くと、楽しい学生生活が送れると思いますよ。いま相川さん見てて、楽しそうでいいなって思いますもん。

相川 楽しんでます(笑)。知らなかったことを知れるし、知ってることをもっと知れるじゃないですか。神話の舞台は、知識があればそれだけ見方も深まりますからね。

――いずれみなさんで共著なさってはいかがでしょう?

平藤 みんなで本を作れたらすばらしいですよね。やっぱり、"ちょっと面白いな"と関心を持った方たちを、次のステップにつなげていくための物をいろんな形で出したいなと思っているので。いろんな関心から勉強始めた人たちの声って大事だと思うので、ぜひいっしょにできたらいいいなと思います

●トークイベントの模様はこちら

■「神話」の歩き方古事記・日本書紀の物語を体感できる風景・神社案内

平藤喜久子 著 
集英社 1980円(税込み)

■相川七瀬さん出演! 9月23日(金・祝)「赤米フェスタ2022」


詳細は公式サイトまで!
https://akagomefesta.com/