ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

古くからの飲み友達で、今年はついに『赤羽以外の「色んな街」を歩いてみた』という共著まで出させてもらった漫画家、清野とおるさん。その清野さんが昨年出版した『ゾクッ 東京怪奇酒』という漫画のなかで紹介されていて興味を持ち、定期的にお参りをするようになった神社がある。

僕にはいくつかそういう、わかりやすく言えば「自分と波長が合うような気がする神様のいる場所」があり、しかしなんとなくこういう場では名前を出したくない気もするので、ご興味があれば『ゾクッ 東京怪奇酒』をお読みください。すぐわかると思います。

とにかく先日もそこへ行ったのだった。で、その際、目的地の近所にあって毎回セットのように訪れるのが、板橋本町の「長寿庵」というそば屋。もはや半分は、ここへ寄るのを楽しみに行っていると言っても過言ではないかもしれない。ご主人やお店の方々がとても親切で、メニュー豊富で安く、そしてもちろん、そばがめちゃくちゃうまい、昔ながらの街そばの名店だ。

店へ向かう道すがら、もう何度も訪れていることだし、今日はちょっといつもとは趣を変えて「飲みモード」で臨んでみようかな。なんて考えていた。長寿庵は、一般的なそば屋の枠を大きく超えておつまみメニューも豊富なのだ。つまり、なんなら今日は、美味しいことはじゅうぶん知っているそばは頼まず、つまみを何品かと、お銚子の1、2本でもとって、粋に飲んでやろうか、とたくらんだわけだ。

「長寿庵」  「長寿庵」
店に入って席に着き、壁にずらりと並ぶおつまみメニューを眺める。「鴨のくんせい」「梅水晶」「鴨の串焼き」「あさりの酒蒸し」「えいひれ」「焼き油揚げ」「クリームチーズのせいぶりがっこ」「板わさ」「さつま揚げ」「みそ田楽」「有明産 天然芝えび素揚げ」......うんうん、いいじゃないいいじゃない。どれもいいじゃない......どれもいいんだけど......しかし! うお~! 店内に漂うそばつゆの香りがたまんなすぎる! 自分よ、できるのか? この香りのなかでそばを食べないで過ごすなんてことが。否!

と、土台自分には、まだまだ粋なそば屋飲みなんてできるわけがないのだった。しかもだ。写真つきで推されている「焼き鳥丼セット」。なんだかわんぱくな子供が頼みたがりそうな組み合わせではあるけれど、これがやたらとうまそうだ。となると、日本酒ってよりは、しゅわしゅわギンギン系の酒のほうが合いそう。ここはハイボールかな。というわけで、当初の計画は大幅に路線変更され、けっきょくいつもの、がつがつ、グビグビ系昼飲みへと突入していくのだった。

「ハイボール」(400円)「ハイボール」(400円)セットの「たぬきそば」セットの「たぬきそば」

すぐに届いたハイボールでのどを湿らせていると、まずはセットのたぬきそばが到着。だしと醤油と油の入り混じる香りに、三つ葉やゆずの香りまでが加わり、すでに理性がぶっ飛びそうだ。さっそくズズズとつゆを飲む。......あぁ、今確信した。僕にとって世界最強のエナジードリンクは、この、あったかいそばのつゆだわ。

美しい麺  美しい麺
長寿庵の麺は、細めで色白な繊細タイプ。これが、冷たく食べるとのどごしよく、温かいつゆに浸るとふわりと優しい口どけとなって、癒し効果がすごい。あぁ、やっぱり良かった。そばを頼んで。

「焼き鳥丼セット」(1030円)「焼き鳥丼セット」(1030円)
しばし後、ついにセットのオールスターが揃う。お盆の上がなんとも華やかだ。

大ぶりの焼鳥がごろごろ 大ぶりの焼鳥がごろごろ
たっぷりの海苔やねぎに覆われた焼鳥丼、それをどけてみると、大ぶりの焼鳥がごろごろと発掘される。甘めのタレをまとった、焼き目香ばしいぷりぷりの鶏肉。串に刺さっていない、そば屋の焼鳥の美味しさ、これまたたまらん。少なめでお願いしたものの、それでもしっかりと量のあるごはんも、たっぷりと焼鳥のタレをまとい、これまたいいつまみになる。

沁みるな~...... 沁みるな~......

というか、そば、つゆ、それからその上にのった具材たち、焼鳥、タレごはん、箸休めのお漬物、それらすべてを酒のつまみと考えると、こんなにも豪華な昼飲みはなかなかないくらいだ。焼鳥丼セット、大正解だったな。

漬物までちゃんとうまい漬物までちゃんとうまい

あぁうまいうまいとごきげんに食べすすすめ、いよいよ最後のお楽しみ。僕は、天ぷらやたぬきそばの横にごはんがあった場合、つゆを吸ってもろもろになりだした天ぷらや天かすを、ごはんにのせて食べるのが大好きなのだ。はしたないことは重々承知しているが、これだけはやめられない。

こういうこと  こういうこと

というわけで、焼鳥丼の一部に「ミニたぬき丼」をメイクし、いよいよラストスパートだ。
しっとりとつゆを吸った天かすの香ばしさと、焼鳥のタレ味ごはんとの豪華共演。そこにしゅわしゅわギンギンのハイボールが華を添え、もはや今思い浮かべられる言葉といえば、「幸福」の2文字のみだ。

すっかりと堪能しきってご主人にご挨拶をし、お会計を済ませる。さて、次はいつ来ようかな~......って、おっと、今日の本来の目的はこのあとのお参りなんだった。と、ゆるみきった顔をピシャッと叩いて、店をあとにした。

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