フラミンゴじゃないほうの、ピンク・フロイドのツアーTシャツフラミンゴじゃないほうの、ピンク・フロイドのツアーTシャツ
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、市川紗椰がひとりでテンション爆上げしたニュースについて語る。

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物騒な話題が目立つ昨今、誰とも分かち合えないけどひとりでテンション爆上げしたニュースを紹介させてください。

15年ほど前、アメリカに帰国した際、公園でフラミンゴを目撃しました。アメリカ中西部のミシガン州にはフラミンゴは生息しておらず、自分の目を疑いましたが、公園の主のように堂々と闊歩(かっぽ)するフラミンゴが確かにそこにいました。

周りに飼い主らしき人も見当たらず、わが物顔で公園の池に片足でたたずむ姿に私は大興奮。しかし私はひとり、フラミンゴもひとり。友達にも家族にも信じてもらえず、野良ミンゴは私の見間違いということで片づけられました。

そんな出来事があったことさえ忘れていた2022年9月。『ニューヨーク・タイムズ』の過去記事に、まさかの見出しを発見しました。

「17年前に米カンザス州の動物園を逃げ出したフラミンゴ、テキサス州で見つかる」

どうやら2005年に、羽を切っていない2羽のアフリカン・フラミンゴが飛んでいってしまったそうです。追跡しても悪天候で捜索が難航し、そのまま行方不明に。

足首に巻かれたタグの番号から、囚人さながら「492番」と「347番」とだけ呼ばれていた2羽。カンザスの気候はフラミンゴに適していないため、どこかで死んでいると思われていたものの、1000㎞以上も離れたテキサスの海岸で発見されたフラミンゴの足には、なんと「492番」のタグが。

日本でたとえると、上野動物園から脱出し、17年後に四国でのびのびと生きているのが発見されたようなもの。カンザスに比べるとテキサスはかなり温暖ですが、やはり本来は野生のフラミンゴは生息していません。

それでも、専門家が観察する限り492番くんは健康にも異常がなく、周辺の生態系への悪影響も今のところなし。地域住民によって名前が「492番」から「ピンク・フロイド」にセンスよく改名され、なんだかいい感じにセカンドライフを送っているようです。

一時期、メキシコの動物公園から脱走したカリビアン・フラミンゴも一緒に生活していたらしく、自由と愛を手に入れたピンク・フロイド氏の生きざまは名前に負けないほどロックです。異種の野良ミンゴと同棲(どうせい)する感覚もまさにプログレッシブ。

大冒険をしながら過酷な環境で生き延びたピンク・フロイド氏の人生、ピクサーで映画化待ったなし! タイトルは『ファインディング・ピンク・フロイド』。主題歌はピンク・フロイドの『ラーニング・トゥ・フライ(邦題「幻の翼」)』。『炎~あなたがここにいてほしい』でもいいな。

余談はさておき、ここからがポイントです。実はピンク・フロイド氏、脱走して以降、定期的に目撃情報があったみたいです。テキサスの隣のルイジアナ州、カンザスの隣のミズーリ州、さらに北に位置するウィスコンシン州、そしてミシガン州。このミシガン州での目撃情報と、私が野良ミンゴを見た場所はかなり離れているけど......。絶対に彼だったと確信しています。ちなみに友人や家族にこの大発見を報告したら、誰も私がフラミンゴを目撃したと話したことは覚えていませんでした......。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。フラミンゴのピンク色はエサの色素によるもののため、ピンクが薄くなってしまったピンク・フロイドに桜デンブをあげたい。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!