『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、前回に引き続き「ライクの森」300回を記念! 市川紗椰が「300」にまつわる話題を語る。
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前回は、このコラムの第300回を記念して「300」の数字から連想するあれこれを取り上げました。
ボウリングのパーフェクトスコアは300ですが、「世界最大のボウリング場がそばにある稲沢駅で、HD300形ハイブリッド機関車を見た」というこじつけのようなエピソードをしたためました。が、よく考えたらもっとタイムリーかつもっと貴重な300にまつわる出来事がありました。
トピックスは引き続きHD300形ハイブリッド機関車。HD300はJR貨物が2010年に製造を開始した入れ替え作業専用の機関車。貨物用なので、ちらっと貨物駅で見かけることがあっても、乗ることはおろか、近づく機会もありません。
しかし先日、札幌貨物ターミナル駅でHD300に乗車しました! しかも特別運転ではなく、実際に作業をしている営業中の車両に。しかもしかも車両の先頭、むき出しのデッキ部分! 最高な経験でした。
そんな貴重な体験をさせてもらったのは、「AIR-G'」(FM北海道)で放送されている番組『JR貨物 presents Sound of Train』の課外活動。月~金曜日まで、貨物列車の走行音や駅構内の音などをひたすら流すぶっ飛んだ(ホメ言葉)番組で、私がナレーションなどを担当しています。ただスタジオ収録なので、貨物駅での録音・録画には立ち会っていません。
しかし今回、目と耳と心でしっかり貨物を吸収しました。おかげでナレーションの表現も違ったはず! 貨物の音だけの世界を届ける番組だからほとんどナレーションないけど! 違ったはず!(後日、同番組のポッドキャストで訪問のリポートや感想を少し話します)。JR貨物さま、神。
収録当日、札幌貨物ターミナル駅に降り立った私。レッドベアの愛称で知られるDF200形に目を奪われながらも、今回の主役は普段陰に隠れているHD300形。HD300は日本初のハイブリッド式ディーゼル機関車で、従来の車両に比べて騒音も排出ガスも少ないのが特徴。
入れ替え作業特化型だけに連結と解放を繰り返すため、作業員がデッキに立って走行しており、私もそこにちょこんとお邪魔。乗り鉄・極み、スタート。
最初はゆっくり走行し、コンテナを載せた貨車に接近。運転士と作業員たちの巧みな連携プレーで丁寧に距離を縮め、驚くほど滑らかに連結。自分の真下で行なわれる連結作業をじっくり味わいたかったものの、手際がよすぎて一瞬で終了しました。衝撃もほとんどなく、華麗に「カチャン」と連結完了。ミス=大事故につながるのに、プロはすごい。
ゴトンという衝撃とともに、再び出発。線路のきしみ音と貨車を牽引(けんいん)する振動が全身に伝わり、まるで自分が貨車を引っ張っているような感覚で爽快。速度が上がって低くうなるモーター音は、紛れもなくつりかけ駆動の音色。
普段乗る電車では絶滅危惧種のこのつりかけモーター。最近は路面電車でしか聞いてなかったので、朝見かけた札幌市電の小さな車両とこの武骨な機関車が同じ音である事実に脳が少しバグりました。そして貨車を切り離したら、風を切って爆走。あの爽快感は忘れられません。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。貨物の運転シミュレーターで鹿をひいてしまった。公式Instagram【@sayaichikawa.official】