ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

最近、我が街石神井公園に、立て続けに3軒の新しい飲食店がオープンした。そのうちのふたつは、約5年前の再開発でできた駅前ビルのテナントの1階。しばらく前、契約期間などの関係もあるのか、そこに入っていた2軒がぱたぱたと閉店。空いた場所にまず、ちゃんぽんとシュウマイが名物だという「手わざ屋」という店ができ、続けてヱビスビール直営のビアバー「YEBISU BAR」ができた。

ちなみにYEBISU BARは先日、あわよくば新規開店ひとりめの客になってやろうと、オープン日の開店時間である午前11時に合わせ、その10分前に店の前まで行ってみたところ、想像を超える人だかりができていてあきらめた。"ひとりめ客"への道は思ったよりも厳しいようだ。

というのも、その後こんどは南口の商店街に、またまた新しい飲食店を作っているなとは思っていた。けれども数日前、店の前を通ったらすでにオープンしていたのだった。またしても機会を逃してしまったというわけだけど、これはポンコツな自分が悪い。

「鮨 酒 肴 杉玉」 「鮨 酒 肴 杉玉」
外観は大衆酒場に今風のテイストを加えた酒場で、大きく「大衆寿司居酒屋」と書いてある。なんだか聞いたことがあるような......としばらく考え、思い出した。ここ、回転寿司チェーンの「スシロー」が新たに手がけ、昨今店舗を増やしている居酒屋業態の店だった気がするぞ。

スシローは大好きだし、ちょっと興味あるなと、近寄ってみる。現在、午前11時半過ぎ。ちょうどランチタイムが始まったばかりのようだ。ランチメニューの看板を眺める。なるほどなるほど、にぎりは10貫で990円の「大黒」から2390円の「恵比寿」まで。「天ぷら・寿司定食」、「寿司・鯛出汁らーめんセット」、ちょっと豪華な「杉玉御膳」などが1000円台と、庶民がたまの贅沢ランチを食べるのには絶妙な価格帯だ。

特に僕が気になったのが、限定10食の「舟盛り丼」で、写真を見ると、あきらかにどんぶりめしの上にサイズオーバーの舟盛りがのせてあり、そのやりすぎ感とバカっぽさがなんとも言えず好きな感じだ。値段も990円と手頃だし、食べてみようかな。

店内メニュー。舟盛り丼の豪快さ 店内メニュー。舟盛り丼の豪快さ
店内はすでにかなりの客入りで、ひと席だけ空いていたカウンターに着くことができた。さらにあとから入ってきた客が「お2階どうぞ~!」と案内されている。石神井民、けっこう新しもの好きなんだな......。あ、自分もそのひとりか。

ちなみに、ここは居酒屋であるからして、当然酒メニューも充実している。こういう店では定番のレモンサワーや生搾りサワー、ハイボールなどに加え、僕の大好きな無味の「プレーン酎ハイ」があるのが嬉しい。よし、飲もう。

「プレーン酎ハイ」(税込み329円) 「プレーン酎ハイ」(税込み329円)
さすが大手企業プロデュース。ジョッキやお皿などがオリジナルのもので統一され、とてもかわいい。チューハイちびり。よしよし、ちゃんとプレーンだ。と、にこり。

ちびり、にこり、ちびり、にこりを数回くり返したところで、「舟盛り丼」も到着。

「舟盛り丼」(990円) 「舟盛り丼」(990円)
ところが、あ、あれ~!? どんぶりに船がのってない! これじゃあ単なる「舟盛り定食」じゃん。しかたない、写真を撮影させてもらうにあたり、自分で見本のようにどんぶりにのせてやろうか、とも思ったけど、いかんいかん、それは「やらせ」というやつだ。それに、映えを意識するようなキャラクターでもないだろう、自分よ。

そもそもよく考えたら、まだオープンから日が浅く、慣れていない店員さんも多いであろう店で、お盆の上のつるつるしたどんぶりに、不安定な舟盛りをのせて運ぶほうがどうかしてる。ちょっとよろけた瞬間に、床に舟盛りがどしゃーん、とか、逆に赤だしのほうへがしゃーんとでも落ちてしまったら大惨事だ。なんたって、限定10食。ありがたく味わおう。

で、あらためて見るとこの内容、とても1000円でお釣りがくるとは思えない、まるでお正月のような豪華さだ。

一足先にお正月がやってきた! 一足先にお正月がやってきた!
舟盛りは、身の大きなまぐろ、ぶり、サーモン、いか、あじ、たまごがそれぞれ2切れずつに、たっぷりのねぎとろと、いくら。ごはんは赤酢を使った酢飯のようで、そっちにもいくらがのっている。

いくらってテンション上がるね いくらってテンション上がるね

まずは刺身を大切に大切に、ひと切れずつ酒のつまみにしてゆく。たまにごはんとも合わせたり。どれもとろりと食べごたえがあって、きちんとうまい。さすがスシロー。

すぐにチューハイがなくなり、これはもう日本酒だろうとメニューを見る。日本酒蔵が新酒の季節、軒先に杉の葉を丸めた玉をつるし、それを杉玉(もしくは酒林)と言うが、その名を店名に冠しているだけあり、ラインナップも充実。そのなかから、「杉玉 純米」を選んでみる。1合、2合の他に、半合も選べるのが嬉しい。

「杉玉 純米(半合)」(395円) 「杉玉 純米(半合)」(395円)
店員さんが目の前で瓶から注ぎ、たっぷりと受け皿にこぼしていってくれるのも嬉しい。てっきりオリジナルラベルの酒かと思いきや、説明を読むと、青森県の「桃川」という酒蔵で作っている銘柄のようだ。

これが、スッと飲みやすく華やかなのに、どっしりとした旨味もある酒で、めちゃくちゃおいしい。かなり好きなタイプ。この店がきっかけをくれなければ出会うのがもっと遅くなっていたことを思うと、店、酒、両方の杉玉に感謝だ。

しばしそんなふうに楽しんで、刺身を一巡食べきったら、そろそろ「丼」の本領発揮といこう。残りの刺身をすべてごはんの上にのせ、醤油を回しかけて、海鮮丼風に!

まだまだ豪華  まだまだ豪華

うんうん、やっぱり酢飯と刺身って最高に合うよな~。そこに日本酒。こりゃあ幸せすぎる。

最初から寿司や海鮮丼になっているんではなく、舟盛り×どんぶり酢飯の組み合わせだからこそ広がる自由度。舟盛り丼、いい!

メニューには「昼飲み大歓迎!」って感じのおつまみメニューもあれこれあった。単品の寿司もあるようだ。毎回舟盛り丼の量は僕には多いから、次回はつまみ1、2品に寿司の1、2貫の、昼飲みコースかな。なにしろ、地元に気軽に昼飲みができる店が増えてくれたのはありがたい。

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