日本では約3000万人が腰痛に悩んでいるという。若いから大丈夫と調子に乗っていたら、ある日突然、なんてことも。来たる日に備えるべく、そして、すでに悩んでいる人もあらためて学ぶべく、腰痛の基礎的な知識を紹介します!
■腰痛の原因っていったい何?
日本整形外科学会の調べによると、日本人のおよそ3000万人が悩んでいるという腰痛。
つらそうなイメージはあるけど、自分とはまだ縁遠いしあまり詳しく知らない、なんて人も多いはず。予防のためにも、ぜひこの機会に学んでおこう! 疑問に答えてくれたのは、自身のYouTubeチャンネルの登録者数10万人超えの整形外科医・歌島大輔先生。
【Q】そもそも腰痛の原因ってなんですか?
論文によると、腰痛の原因の五大内訳として、
①椎間関節の問題(椎間関節炎など)...21・3%
②筋・筋膜性腰痛...17・5%
③椎間板の問題...12・5%
④腰部脊柱管狭窄症...10・9%
⑤腰椎椎間板ヘルニア...6.9%
が挙げられます。腰を含む背骨は積み木のように重なって構成されていて、そのひとつひとつの骨が前方部分(おなか側)と後方部分(背中側)に分かれ、その間に神経が走っています。
後方部分のつなぎ目は椎間関節といって、ここの軟骨がすり減ったり、炎症が起きることで、①の椎間関節の問題が生じます。
②の筋・筋膜性腰痛は、腰の筋肉や筋膜に対して、急激にあるいは慢性的に負担がかかることで生じます。
前方部分のつなぎ目はクッションの役割もする椎間板があり、これが傷んでしまうと椎間板の問題(③)が出ます。その椎間板が飛び出して神経を押してしまうと、椎間板ヘルニア(⑤)となります。
そして前方も後方も、加齢などさまざまな問題で変形していくので、結果、神経の通り道が狭くなると脊柱管狭窄症(④)となります。
よく聞くぎっくり腰は主に①、②、③が含まれると考えています。これらは画像で診断しづらいので、原因不明の非特異的腰痛と分類されることもあります。
「腰痛なんて原因がよくわからないだろう」と決め込まずに、まずは整形外科医の診察を受けることをオススメします。
【Q】腰痛=老人の病気のイメージがあるのですが。
先に述べたように加齢も腰痛の一因ですが、運動にも腰痛リスクは潜んでいます。野球やサッカー、バレーボールなどは腰椎分離症という疲労骨折の原因として有名です。また、水泳やジャンプが多いバレーボールにおいては、椎間板ヘルニアが増えるというのも知られた話です。
【Q】どういう人やどんなケースで腰痛が起こりやすいというのはありますか?
労働者を対象にした研究では、繰り返しの激しい身体活動の時間が長い人、腰の曲げ伸ばしやひねり動作の時間が長いと、腰痛の有病率が高くなったと報告されています。当たり前ですが、前かがみや猫背姿勢など腰に負担がかかる作業時間を長く取らないことも悪化させないコツです。
また、さまざまな研究では、肥満や過体重も腰痛のリスクとされています。
さらに、重いものを持つこともよくありません。特に足元のものを持ち上げる際は膝を十分に曲げて、腰に負担がかからない姿勢から持ち上げることが重要です。
ちなみに、「季節の変わり目は要注意」と聞くことがありますが、そのような明確なデータは持ち合わせていません。実診療においても「季節の変わり目に増えるなぁ」という印象は持っていないです。
【Q】腰痛は一度なってしまうと治らないもの?
急に痛みが出た腰痛の場合は、最初の1.5ヵ月で痛みは半分以下になり、半年後にはさらにその半分になるというデータが示されています。
しかし、慢性的に腰の痛みがある人は、痛みが長期に残りやすいこともわかっています。いずれにしても、多くの場合は悪化というより、速度の違いはあれど改善はするものです。
逆に悪化するということは通常の腰痛とは違い、重篤な原因があるかもしれないと、診断に立ち返る必要性を示しています。
■もし、腰痛になってしまったら
基礎知識を習得したところで、次は腰痛と日常生活についての疑問を。
【Q】腰痛によくない食品ってありますか? お酒はOK? 逆に、効くサプリなどはありますか?
私が知る限り、良い食べ物、悪い食べ物共にエビデンス(根拠)があるものはないと思います。しかし、肥満が腰痛リスクであることを考えれば、健康的な食事が長期的には腰痛にも有効だろうという推測はできます。
お酒に関しては、飲酒習慣があると腰痛が治らない、悪化するというほどの根拠はありませんが、腰痛リスクと関連性があると発表している論文もあるので、ほどほどに、を心がけるとよいでしょう。
サプリに関しても、これが効くといったものはありません。軟骨成分とされる"グルコサミン"も、慢性腰痛の患者さんに対する効果を調べた論文で、効果に乏しかったというエビデンスがあります。
続いては、実際に腰痛を発症してしまったときのお悩み解決法を!
【Q】腰痛が出たら、温めるべき? 冷やすべき? 湿布の効果は?
温める、つまり温熱療法については、腰痛改善に効果があったという研究報告がありますが、アイシング(冷やす)の効果ははっきりしないとされています。腰を打撲したりして、表面が熱を持ったりしていない限りは、温めるほうを試すのが得策かもしれません。
また、湿布などの外用剤は捻挫や筋挫傷(筋肉レベルの打撲)などの外傷においては有効ですが、慢性の痛みについては有効性を示すことが少ないとされています。ただ、急性腰痛(ぎっくり腰など)については一定の効果が期待できるかもしれません。
さらに、湿布を貼ることで安心感を覚える人も多く、プラセボ効果が期待しやすい剤形(薬の形)だったりしますので、皮膚のかぶれなどに注意すれば、試してみるのもありだと思います。
【Q】発症したらなるべく安静にするべきですか?
一般的に、腰痛においては「安静」よりも「可能な範囲での活動性維持」のほうが有用だといわれています。痛くて動けない場合は別ですが、ベッド上で動かないなど、安静にしすぎはNGです。
また、慢性腰痛においては、ウオーキングが効果的という報告もあります。
【Q】マッサージは効果がありますか?
マッサージが腰痛に有効な治療とするエビデンスはないと総合的には判断していますが、短期的に痛みの改善効果が認められたとする論文もあります。実際、そういう経験がある人も多いでしょう。効果は短期的なものでしかないことを認識して、長期的に効果が期待できる運動習慣などについて検討する必要があると考えます。
【Q】朝起きると腰が痛い......。寝具と腰痛との関係性はありますか?
一般的には、あおむけに寝たときに、立っているときと同じような姿勢でいられる硬さでかつ、寝返りが打ちやすいのが自分に合ったマットレスだといわれています。
硬すぎれば体圧が分散されず、一部に体重が強めにかかってしまう可能性があり、逆に柔らかすぎれば寝返りが打ちにくくなる。研究でも、中硬度のマットレスが睡眠の質を高め、腰痛リスクを減らすと示されています。
●歌島大輔(うたしま・だいすけ)
整形外科医。「エビデンスをわかりやすく」をモットーに情報発信。YouTubeチャンネル『すごいエビデンス治療/整形外科医 歌島大輔』は登録者数10万人超え