街中の時代錯誤アイコン、山手線に残るSLマークの標識 街中の時代錯誤アイコン、山手線に残るSLマークの標識
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、時代錯誤なアイコンについて語る。

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どうも、泊まりロケなのにパソコンを家に忘れてしまい、スマホで原稿を書こうとしている市川です。苦し紛れに習得したフリック入力を駆使しても、スマホでの長文作成に難航しています。遅いし目がしょぼくれるし、おまけに文章の全体像をイメージできなさすぎて、書こうとひらめいたテーマが作業の効率の悪さに負けてどこかに飛んでいきました。

さらに集中力を妨げているのが、スマホのさまざまなアイコンたち。デジタル機器なのに、妙に時代錯誤なものが目立ちます。まずは、設定アイコンに使われている歯車のマーク。機械の歯車をいじると動作が変わるので、スマホのあらゆる使い勝手が変更できる象徴に歯車を使うのは嫌いじゃない。

しかし、機械の象徴としての歯車なんて、ほぼスチームパンクの世界観。デジタルなツールのためにアナログ技術の代表をアイコンに使用している違和感は好きだけど、現代の家の中で歯車で動いているだろうものなんて、車以外ではアナログ時計とゼンマイ仕掛けのチューバッカ人形しか思いあたりません。実際に自宅で見つけた設定アイコンに一番似ているものは、昨日のおでんの残りのちくわぶでした。

もしアップデートを提案するなら、設定=すべて統制できるという意味で、指令どおりにレミング(タビネズミ)を動かすゲーム『レミングス』をアイコンにするのはどうでしょう。神が命を吹き込む瞬間を描いたミケランジェロの『アダムの創造』の指のアップも、設定アイコンとしてしっくりくる。アップデート案が1990年代のレトロゲームと1510年前後に描かれたフレスコ画なのが気になるなら、ちくわぶで。

テキストの保存アイコンがいまだにフロッピーディスクなのもナイス時代遅れ。最後にフロッピーディスクを見たのは10年以上前、使ったのなんて20年以上前。新しく作ったものを保存する機能の象徴が、過去の遺物。「保存マーク」の検索関連キーワードが「元ネタ 何」だったので、若い世代にもフロッピーのレガシーが継承・保存されちゃっています。アップデート案はドクター・中松の顔で。

ほかの例は、受話器が描かれた通話マーク。ガラケーの頃から、受話器を使って通話するのは会社やホテルの内線くらいでしたよね。しかもアイコンの受話器は最近の薄いものでもなく、黒電話のごっついもの。

ほかにも、メールのアイコンが封筒だったり、添付のアイコンが鋼を巻いたクリップだったり。形がないものを視覚的に表すには、なじみのあるものを使用するようです。技術の進化とともに毎回見た目に忠実なアイコンに変更するのも非効率。アイコンが時代遅れだとしても、意味が理解できれば合格なんでしょうね。

ひそかに進化しているアイコンも。イラストのソフトの筆や鉛筆を模したアイコンは、知らぬ間にただの点になったり、色の選択を表していた絵の具パレットも、気づいたらカラーホイールになっていました。フォトショップの塗りつぶし機能を表すバケツのアイコンは健在のようですが、そもそもあんなに豪快にペンキをひっくり返したことがないので、時代錯誤とはまた別の問題かもしれません。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。スマホのフリック入力で「です」を「てわす」と打ちがち。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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