『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、テレビなどで選曲される「駄洒落BGM」について語る。
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皆さんも経験があるでしょう。テレビを見ていたら、番組の内容よりBGMが気になってしまうこと。過酷な練習シーンで流れる映画『ロッキー』のテーマ曲『Eye of the Tiger』や、緊張感が漂う場面での映画『サイコ』のシャワーシーンのあの高音など、ストレートに元ネタと結びつく場合は聞き流せるかと思います。
都市伝説っぽい内容のときに流れる『X-ファイル』のテーマや、会議シーンでの『新世紀エヴァンゲリオン』の『E1』も、当たり前すぎて気づかなかったりします。
しかし、日本のテレビのBGMには別種の定番があります。それが駄洒落(だじゃれ)BGM。旅番組の牡蠣(かき)小屋のシーンで『怪物くん』のテーマ曲を流し、しつこく「貝」を乱用。最新のドローンの解説にドロンジョさまのテーマ。強引な言葉遊びで選曲するのは、ワイプの多用と並んで日本のテレビの特徴だと思います。
「駄」強めな駄洒落が好きな身としては、バラエティや情報番組はもはや連想ゲームを楽しむ脳トレと化しています。雰囲気に合わせていると思っていた選曲の言葉遊びに気づいたときは、いくらくだらなくても感動すらします。
今年一の興奮は、卵の黄身をのせたグルメを紹介するVTR。生卵のせローストビーフ丼が登場し、期間限定で卵の代わりにウニをトッピングできます、という紹介とともに流れたBGMはノーランズの『ダンシング・シスター』。ノー卵ズ! 卵(ラン)がの(ノー)らないから!
この曲は「ダンシング=出汁(だし)」ということで出汁の話題でよく使われるので、新たに開拓された可能性に脱帽です。感動のあまり、どこのなんのお店か瞬時で忘れたけど。
2022年はおにぎり関連で使用されるBGMも広がりを見せました。定番は連想系BGMで、『裸の大将放浪記』の主題歌であるダ・カーポ『野に咲く花のように』。おにぎりの行列店の紹介で何度も聞いたことがあります。
しかし、先日ジェームス・ブラウン『I Got You』が流れました。フックは「I Feel Good!」、つまり「アイ・フィール・具! So 具!」。また、具だくさんのお店ではビーチ・ボーイズの『グッド・バイブレーション』が「具~具~具~!」と歌い上げており、具だくさんおにぎりのトレンドとともに、おにぎりBGMの山下清離れもうかがえます。なお、お店の情報は何も覚えていません。
今年、私の中でやっと結びついたのは、太田胃酸のCMのピアノ作品。バイオリン版を演奏したことがあるので、ショパンのプレリュード第7番なのは知っていたものの、先日ラジオ番組で日本語の曲名を初めて読み上げました。正式名『前奏曲第7番イ長調』。イ長調! 胃腸! ちょう! 深読みとは言わせません。
自分が関わったベストオブ駄洒落BGMは、駄洒落BGMの代表格『タモリ倶楽部』から。東急の検測車トークアイに乗車した際のBGMは、クリスタルキング『大都会』。大岡山駅を出発したら、アラン・ウォーカーの曲。ウォーカー......おおおかやま。おおおお。それ以来、『タモリ倶楽部』と『アド街ック天国』の収録中は駄洒落BGMを予想していますが、一度も正解できていません。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ウニの話題でU2の曲がかかったのを聞いて、選曲者と友達になれると思った。公式Instagram【@sayaichikawa.official】