体に悪いとも聞く人工甘味料は、砂糖と何が違うのか? ※写真はイメージです体に悪いとも聞く人工甘味料は、砂糖と何が違うのか? ※写真はイメージです

運動は正直あんまりしてないし、ごはんもついつい食べすぎちゃうし、健康的な生活を送っているとはいえない。でも、でもね。コーラとかソーダを飲むときはシュガーフリーとかゼロカロリーの飲料を選んでいるんですよ......! ただ、なんか時々聞くじゃないっすか。「人工甘味料は健康に悪い」みたいなヤツ。あれ本当っすか!? どうなんすか!? あいつはダイエットの味方なんですか!?

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■口では同じだけど腸では違う!

運動するのはめんどくさい。でも、痩せたい。カロリーは気になる。でも、満腹感を得たい。そんな僕らが気になっていること。それは、ノンシュガーやゼロカロリーの飲料は飲んでもいいのかどうか。

それらの多くに含まれている人工甘味料っていったいなんなの? 体に悪いって話も聞くけど、砂糖と何が違うの?

味覚のメカニズムに詳しい、京都府立医科大学の樽野陽幸(たるの・あきゆき)教授に聞いた。

「そもそも『味』とは、食べ物に含まれる化学物質を感知して得られる信号です。『味覚』の中心的な役割は、体に良いものをおいしく、悪いものをまずく感じさせること。腐敗しているものや熟れきっていない果実に酸味を感じたり、毒性のあるものには苦味を感じたりしますよね。

そのため、赤ちゃんやほかの動物は酸味や苦味を好みません。それらをおいしいと感じるのは大人の人間に特徴的な現象なんです。

一方で、人間の体を構成する上で必要な栄養素はおいしく感じます。アミノ酸などのタンパク質にはうま味が含まれているし、塩(ミネラル)はしょっぱくておいしい。そして甘味は、体を動かすためのエネルギーとなる糖質を摂取したときに感じるんです」

では、そのメカニズムとは?

「舌にある味蕾(みらい)という器官の表面に甘味を感知するセンサーがあり、そこに砂糖などの糖質がくっついて『甘い』という情報を脳に伝達します。しかし、中には糖質じゃないのに、その受容体にくっついて甘味と勘違いさせる物質もあるんです。それが、いわゆる人工甘味料なのです」

樽野氏によれば、舌における反応は砂糖も人工甘味料もほとんど同じだという。では、どこに違いが出てくるのか?

「実は最近の研究で、腸にも糖のセンサーがあることがわかってきたんです。糖が腸に到達すると、このセンサーが脳に『糖が届いたよ』って伝達するんですが、実はこのセンサー、人工甘味料には応答しないんです。

つまり、人工甘味料だと口はだませても体はだませず、糖を欲してしまうんです。砂糖であれば体が糖を感じて満足するんですけどね。

実際にマウスで行なった実験では、砂糖水と人工甘味料を溶かした同じ甘さの水を並べて観察した結果、最初のうちはどちらも同じくらい飲むんですけど、しばらくすると砂糖水しか飲まなくなったそう。生き物は体が満足しない限りは糖を摂取してしまうんです」

三鷹駅前たなか糖尿病・内科クリニックの田中祐希医師も人工甘味料が及ぼす食行動への影響を指摘する。

「糖質を含まない人工甘味料飲料であれば、カロリーをほとんど含みませんし、血糖値も上がりません。しかし、結局甘味を欲するようになれば、ほかの食べ物や飲み物で糖質を過剰に摂取する結果につながりやすくなってしまいます」

■昔からあるのに肥満は減らない

人工甘味料が飲料以外で積極的に展開されない理由のひとつに、その「味」がある。一般的な砂糖に比べ、苦味が強いものや甘味が早く届いてしまうものなどがあり、砂糖と同じように使用するのが難しいのだ。コーラにシュガーフリーの展開が多いのは、コーラの風味が人工甘味料の後味を隠すのに適しているからだといわれている。

前出の樽野氏は「そもそも人工甘味料が開発されたのはかなり前なのに、肥満になる人は減らないし砂糖の消費量もあまり減っていない」と指摘する。

世界初の人工甘味料「サッカリン」が生まれたのは1879年。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で実験中にたまたまできた物質が異常に甘かったことから発見された。

砂糖よりも数百倍甘く、希釈して使用するためカロリーもその分低い。しかし、150年近くたった今でも砂糖に代替できる人工甘味料は生まれていないようだ。

■普通のジュースとシュガーフリーならどっちがいいの?

人工甘味料には別の問題も指摘されている。管理栄養士の田中恭子氏はこう話す。

「人工甘味料を取ると下痢症状が出るという方が多く、これは人工甘味料が腸内細菌叢(そう)のバランスを崩しているからだといわれています。

腸内には1000種類以上の細菌が壁にびっしりと張りついており、それを腸内細菌叢というのですが、さまざまな病気との関連が解明されていたり、免疫をつかさどっていたりと、人体にとって重要な役割を担っているのです」

細菌の中には代謝を促すもの、感染症予防、肥満予防などの働きを持っているものも。特に注目すべきなのは「糖代謝」への影響だ。

「人工甘味料を飲んでも血糖値は上がりません。その点でいえば、糖尿病予防には良いと思われがちですが、人工甘味料の中には糖代謝異常をきたす腸内細菌を増やすものもあって、血糖値を正常範囲に下げるインスリンの働きが弱まり、結果的に血糖値が上がりやすい体になってしまうことがあるのです」(田中恭子氏)

血糖値が上がりやすくなるとどうなるの? 前出の田中医師はこう話す。

「血糖値とはその名のとおり血液の中の糖の量。血糖値が高くなると、尿にも糖があふれ、その際に頻尿、多尿になります。それによって次は喉が渇く。そこで体が水分を欲しているからとジュースなどを飲むと、さらに血糖が上昇する、というループに陥り、抜け出せなくなります」

では、人工甘味料飲料とジュースだったらどっちを飲めばいいワケ?

「人工甘味料にはカロリーがほとんどありません。また、直接血糖値を上げることもありません。一方、ジュースは糖を多く含んでいます。液体は消化する手間もなく腸からダイレクトに吸収されるため、血糖値が急上昇するんです。そして、それはインスリンの過剰分泌を引き起こします。

インスリンは血糖値を下げますが、体脂肪が増えます。それが過剰に行なわれれば、当然、体重も増加します。

ジュースを飲むのであれば、人工甘味料飲料のほうが血糖や体重への影響は少ないと思います。時々飲んでいるコーラをシュガーフリーのものに変えるのは意味があるでしょう。

とはいえ、それは根本的な解決にはなりません。どちらを飲んでも結果的にダイエットに悪影響を及ぼすので、可能な限り飲料は水かお茶にしましょう!」

人工甘味料飲料でも時々にとどめたほうがいい......と。まったく、何も考えずに痩せられる方法はないってのかよ!

植物由来の天然甘味料もある。「ラカントS」は希少な羅漢果(らかんか)という植物から甘味成分を抽出したもので、料理にも使える植物由来の天然甘味料もある。「ラカントS」は希少な羅漢果(らかんか)という植物から甘味成分を抽出したもので、料理にも使える