ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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妻が「ちいかわ」というキャラクターにハマり、当然、追いかけるようにして5歳の娘もハマり、はや数ヶ月が経つ。
昨年末には、「ちいかわ飯店」というイベントへ行くため、家族で渋谷のパルコにも出かけた。全国数カ所で行われ、ものすごく競争率の高いイベントだったらしいが、妻が何度か抽選などにトライし、行けることになったのだ。僕も、せっかくそういう機会ならば参加したいと伝えていたので、無事3人で行くことができた。
内容は、中華料理をベースにしたカフェに加えて、限定グッズがたっぷりと用意された物販コーナーもありという感じで、まだまだちいかわのことはあまりよくわかっていないながら、だんだんと好きになりはじめている僕としては、なんだかんだかなり楽しめた。
そもそも、料理がちゃんと美味しかったことに、失礼ながら驚いた。こういうイベントって、話題や映え重視で、味は二の次なんだろう。僕がなんとなく持っていたそんな固定観念が、すでにもう古いのかもしれない。
特に作中に出てくる、「ラーメン二郎」ならぬ「郎」ラーメンが、分厚いチャーシューののった背脂入りこってりタイプで、ぶりんぶりんの太麺もすすり心地よく、うまかった。同時に、客層的には若い女性がもっとも多そうな渋谷パルコの限定カフェで、がっつりと量もある本格ラーメンを出していることが、なんだか笑えた。なんでも、作者のナガノさんは食べることが好きで、提供メニューに対してもその想いがきちんと反映されているようだ。
酒類の提供がなかったことだけは無念だったが、むしろ、ちいかわ飯店にそれを求めようとした自分のほうがどうかしている。
そんな話を、ミュージシャンやライターとしても活躍しているディスク百合おんさんに、先日会った時に何気なくした。そうしたら、百合おんさんもちいかわは好きらしく、特に、作中に出てきた「ツナマヨパスタ」にハマり、最近、昼はそればかり食べているそう。 どういうものか聞いてみると、そのレシピがのっている回がTwitterにアップされているのを見せてくれた。概要をまとめると、以下のとおり。
・キューピーの「ツナマヨ」味のパスタソースと
・煮えてクタクタになった玉ねぎと
・シャウエッセン
で構成されたパスタが、「毎日これが食べたい」と思うほどに美味しいということらしい。詳細なレシピは公開されておらず、それがまたファン心理をくすぐり、みんな試行錯誤して楽しんでいるらしい。
百合おんさんは、「コンビニかけ合わせグルメ」というジャンルの開拓者で、同名の著書も発売されているほどのグルメ人(びと)だ。そんな彼に、「家でツナとマヨネーズで再現しようとしてもあの味にならない」「小袋の刻み海苔がかなり重要」「もはや中毒になりかけている」などとまくしたてられたら、どうしたって食べてみたくなる。
たらこ味とか、ミートソース味とかとは違い、若干マイナー寄りだからか、いくつかのスーパーを回ってやっと見つけることのできた「キユーピーあえるパスタソース ツナマヨ」。ごちそう続きで、若干別方面のものが食べたくなっていた三が日明けの昼、いざ作ってみることにした。
レシピが公開されていないといったって、基本はゆでたパスタとソースをあえるだけ。難しいことはないだろう。「煮えてクタクタになった玉ねぎ」という表現を頼りに、パスタと一緒に、細切りにした玉ねぎ4分の1個ほどもゆでてしまう。
規定時間までゆでたら、いったんざるにとり、乾いてくっついてしまわないよう、オリーブオイルを回しかけておこう。
そうしたら大あわてで、ざっくり刻んでおいたシャウエッセンを炒める。贅沢にも4本ぶんだ。いい感じの焦げ目がついたら、そこへさっきのパスタを戻し、ツナマヨソース投入!
フライパンからまったりとしたツナマヨの香りが立ち上り、一気に料理になる。どさっと皿にもったら、仕上げに刻み海苔を散らして完成だ。
そういえば、先述したちいかわ飯店で、グッズなどまったく買う気はなかったのに、あまりに可愛すぎて衝動買いしてしまったビアタンサイズのグラスがあったんだった。そこにビールを注いで、いざ、いただきます!
なるべく玉ねぎと絡まるようにパスタにフォークを差し込み、仕上げにシャウエッセンひとかけを突き刺し、くるくるくる。ぱくり。もぐもぐもぐ......。
あ~、なるほど! こっちの方向性か。決して、ひと口食べるだけで脳汁がドバドバあふれだしてくるような、派手な味わいではない。むしろ素朴。 ぷりぷりとしたパスタを噛むたびに小麦粉の香りが広がり、甘く、くたくたながらほのかに食感も残る玉ねぎと絡まり、そして、パキッと心地よい食感と共にジューシーなしょっぱさを広げるシャウエッセンが、ごちそう感をぐっとアップさせている。
それらをツナとマヨネーズの穏やかな優しさがコーティングし、ふわりと香る海苔の香りもたまらなく、百合おんさんが「家では再現できない」と言っていたのも納得の完成度だ。
というか、これってあれ。ツナマヨおにぎりやツナサンドなど、地味なようでもはや日本人のDNAに刷り込まれているレベルで浸透している、たまに無性に食べたくなる、あのツナマヨ味だ。それが熱々のパスタと融合したら、そりゃあうまいに決まってる。毎日でも食べたいというのがよくわかる。
ズルズルズルズルと無心にすすり、食べ終わるとちょうど良い満腹感。ごちそう続きの体が、すっかり日常モードに戻ったような感覚だ。
パスタは1人前をゆでたが、それだと味は穏やかめだから、好みでほんのりと醤油やめんつゆを足してもいいかもしれない。また、ちょっと自暴自棄な気分のときは、1人前のパスタに対し、2人前ぶんのソースを絡めてしまうという手もある(1パックに2回ぶん入っているのでやりやすい)。あ、それ、考えただけでたまらないな。こんど絶対やろう。 というわけでひとまず、追加で何袋か買って、ストックしておこうっと。