脳の最盛期は50代!? そんなわれわれの常識を覆す脳の仕組みについて解説した書籍『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』が話題を呼んでいる。
著者の加藤俊徳(かとう・としのり)氏によれば、大人の脳の使い方さえ覚えれば、脳は50代以降もまだまだ伸ばすことができるという。まさに、リスキリング(学び直し)が注目される今の時代にぴったりの一冊だ。
* * *
――脳は使い方次第で何歳になっても伸ばしていけるというのは、中高年層にとって大変心強い言説でした。
加藤 年齢とともに脳が衰えるというのは大きな誤解です。20歳の時点ではむしろ脳はまだ発達途中の状態で、本当の意味で大人の状態に仕上がるのは30歳くらいなんですよ。それなのになぜ大人になると記憶力や学習効率が低下するのかというと、それは脳の使い方を間違えているから。大人の脳には大人の脳に合った勉強法があるんです。
――先生がそうした大人の脳の伸びしろに着目するようになったきっかけはなんですか?
加藤 私はもともと学生時代から英語が大の苦手で、医師になってからも散々苦労してきました。34歳でアメリカの大学へ移ってからはなおさらで、一向に英語を話せるようにならず周囲から白い目で見られていたものです。それでもどうにか研究を続けていたら、37歳のときに突然、英語で流暢に講義ができるようになりました。
10代、20代の頃あれほど頑張ってもどうにもならなかったものが、なぜアラフォーになってできるようになったのか。考えてみると、若い頃とはまったく異なるアプローチで英語に触れていて、それが奏功したとしか思えませんでした。つまり、脳の仕組みの変化に合った学習を自然にやっていたことに気がついたんです。
――子供の脳と大人の脳は具体的にどう異なるんですか?
加藤 一番異なるのは暗記力で、耳から入ってくる新しい言葉、知らない言葉を覚えるのは、子供のときのほうが圧倒的に有利です。しかし大人になると、意味のない音を聞いても記憶に定着しにくくなります。逆に言えば、意味のある情報であれば覚えられるわけですから、必ずしも記憶力が低下したということにはならないわけです。
――なるほど。つまり単なる丸暗記ではなく、その意味を理解しながら覚えるのが、大人が採るべき勉強法ということですね。
加藤 脳は番地(部位)によって働きが異なっていて、暗記をつかさどる記憶系脳番地を単体で働かせるのではなく、思考を巡らせる思考系脳番地や、理解を促す理解系脳番地を連携させるのがコツです。つまり、その言葉の意味や背景に共感したり、感情を動かされたりすると、大人でも比較的すんなり記憶を定着させられます。これを「有意味記憶」と呼びます。
私自身、記憶力には決して自信があるほうではありませんが、30年前に診察した脳のMRI画像を、今でも3次元で記憶しているんですよ。これも、その画像からさまざまな情報を読み解き、感情が動いたからです。
ただし、脳というのはサボりがちな性質を持っているので、それぞれの脳番地を意識的に使わなければどんどん動かなくなってしまいます。だから、「もう年だから無理だろう」と決めつけてしまう人ほど、脳の働きは低下していくものなんですよ。
――本書の中で「大人のほうが物事を面白がれる」という記述がありました。つまり、興味のある分野であれば、大人になってからでも十分に高い学習効果が得られるということですね。
加藤 そうですね。大人の脳には有意味記憶がたくさんたまっていますから、覚えようとすることが情報と結びつきやすく、子供の頃より効率良く学習できます。典型的なのが歴史で、学生時代には興味がなかった地名や人物について、「何年前に旅行した場所だ」とか、「この人物に縁のある場所を訪れたことがあるぞ」などと情報が呼び起こされることで、理解しやすくなる。年を取ると歴史に興味を持つ人が多いのはそのためです。
――それにしても、なぜこれまでこうした脳の特性を誰も教えてくれなかったのでしょうか。
加藤 答えは簡単で、赤ちゃんから老人まで脳をずっと追っている研究者があまりいないからです。その点、私の場合はちょうどMRIが開発されるのとほぼ同時に医師になり、脳を画像で診断する歴史の始まりとともにキャリアを歩んできたことが大きいです。これまで老若男女1万人のMRIを見てきましたが、MRIで脳を見ると、どの脳番地が働いているかはっきりと画像に表れますから。
――1万人ものMRI脳画像を見てきた経験上、大人になっても脳を働かせられている人に共通する傾向などはありますか?
加藤 自分の欲求を大切に、いろんなことに興味を持って取り組んでいる人ですね。その意味では週プレ読者の方で、毎週グラビアを楽しみにしている人は、割と有望なのではないかと思いますよ。
――脳の働きを保つためには、具体的にどのような生活習慣を心がければいいでしょうか。
加藤 大切なのは、日中起きている間、できるだけ脳の活動をピークの状態に保っておくこと。そのためには、朝起きてからぼーっとしたままなんとなく昼を迎えるのではなく、遅くても9時までに脳を起こしてピークに持っていくのが理想的。そのためには、例えば起床してすぐその日のスケジュールや行動プランを考えるなどして、脳を起こしてやるのがオススメです。
あるいは、起きた直後はまだ自分自身にしか意識が向いていないので、家族など周囲の環境に注意を向けてみるのも有効です。私の場合は、毎朝決まった時間に愛犬が餌をねだりに来るので、そこで他者に意識が向き、脳を起こすのがルーティンになっています。
――そうした脳の働かせ方さえ覚えれば、40代でも50代でもまだまだ新たな知識やスキルを身につけられそうですね。
加藤 「中年」というと、一般的には40代から50代をイメージしますよね。私はこれを75歳まで引き上げたいと思っているんです。40代の脳の状態を維持したまま年齢を重ねていけば、仕事もバリバリやれて健康寿命も延び、いいことずくめですから。
テキストを読む際も、大人は最初のページからではなく、興味の持てるパートから優先的に読むほうが効率的に頭に入ります。ぜひ、そうした大人の脳の特性を理解して頑張っていただきたいですね。
●加藤俊徳(かとう・としのり)
脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。これまで小児から超高齢者まで1万人以上の脳を診断・治療。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)など多数。
加藤プラチナクリニック公式サイト【https://www.nobanchi.com/】
脳の学校公式サイト【https://www.nonogakko.com/】
■『一生頭がよくなり続けるすごい脳の使い方』
サンマーク出版 1540円(税込)
大人には、大人の脳に合った勉強法がある――。勉強したいけど年のせいではかどらない、などと嘆くのは実は大間違い。40代でも50代でも、脳はまだまだ伸びることが判明しているのだ。そこで、脳科学に基づく大人の脳の使い方をご紹介。資格取得や昇進、転職のため、勉強欲に目覚めた大人たちに送る希望の書