服用対象は高血圧や脂質異常症などの健康障害を伴わない肥満(男性は腹囲85㎝以上)で18歳以上とされている。カプセル状の予定で価格は未定(薬の写真はイメージ)服用対象は高血圧や脂質異常症などの健康障害を伴わない肥満(男性は腹囲85㎝以上)で18歳以上とされている。カプセル状の予定で価格は未定(薬の写真はイメージ)

■薬で痩せるって可能なの!?

年末年始で太っちゃって、今年こそは痩せる!と燃えている人に朗報!?

今年3月以降、医師の処方箋なしに薬局で抗肥満薬「オルリスタット」が買えるようになる予定だという。ただし、分類は要指導医薬品ということ。

そもそも抗肥満薬って何? どういうメカニズムで痩せられるの? 要指導って怖いけど大丈夫? さまざまな疑問に答えてくれたのは、さとうヘルスクリニック院長でメタボ治療やアンチエイジングに携わる左藤桂子先生。

Q.そもそも要指導医薬品とはどのようなものなのでしょうか?

A.もとは病院だけで処方されていた薬ですが、薬剤師の指導の下、自分の判断で購入できるようになった薬のことを指します。医師の指導は不要。医療費の増幅を抑えるためか、最近はこうした薬が増えている傾向にあります。

Q."要指導"ってなんか怖いのですが、危険性はあるのでしょうか?

A.薬剤師が適切な指導を行ない、必要以上の量や不要な分まで購入するのを防ぐのが主な目的です。

医師の診察を受ければ、適切な薬が適切な量だけ処方されるし、そもそも薬に頼る以前に生活習慣の見直しなどをアドバイスでき、栄養士につなぐこともできる。そういったフェーズをすべて飛ばして購入できる分、要指導となっており、薬品が危険という意味ではありません。

Q.オルリスタットとはどのような薬ですか? 痩せるメカニズムについて教えてください。

A.ひと言で言えば、脂の吸収を阻害する薬。脂を摂取すると、塊のまま体に吸収されるのではなく、細かく分解されながら血液の中に吸収されていきます。吸収された脂肪は体の中でエネルギーとして使われたり、体の中のどこかに集まって自分の脂肪になったりします。

脂肪を細かく分解するのは、消化管から出される消化液の中に含まれる「リパーゼ」という酵素で、この分解作用を阻害するのがオルリスタット。脂肪が細かくならなければ、健康な腸管からは脂肪が吸収できなくなる。

吸収できなかった脂肪はどうなるかというと、そのままお尻から出ていってしまう。要するに、オルリスタットを飲めば、脂肪を食べなかったことにできるというわけです。

Q.気になるのは副作用などですが......。

A.脂っぽい便が出ます。取った脂がそのまま排出されるので、慣れないうちは自分の便を見て少しびっくりするかもしれません。トイレが近くなる可能性もありますが、これこそがオルリスタットの効果が出ている証拠であり、この症状を防ぐことはできません。

脂の吸収が阻害されるため、大便が脂っぽくなったり、トイレが近くなる可能性もある脂の吸収が阻害されるため、大便が脂っぽくなったり、トイレが近くなる可能性もある

Q.どのようなタイプの肥満の人に効果を発揮するのでしょう?

A.脂っこい食べ物が好きで、脂肪を食べすぎている影響で太っている人には効果があります。逆に、アルコールや炭水化物などの取りすぎで太っている人には効果が薄いと考えられます。

Q.肥満の基準に満たないけど、もっと痩せたいと思う人が飲んでも大丈夫?

A.油=栄養です。極端な油抜きダイエットをすれば、単純に体がスカスカになります。ホルモンや細胞膜も油でできているため、油が体の中に入らなくなれば、肌や手はガサガサになって荒れ、イライラしてくるなど、油がなくなることにより生命維持活動に支障をきたします。

油は体の材料であり、一部分なので、それを全部カットしてしまうのはとんでもないこと。過剰に摂取した脂を排出するにはよいですが、そうでない場合は健康被害が出る可能性が高いと考えましょう。

Q.その一方で、かなりの肥満体形の人にはあまり効果がないのでしょうか?

A.肥満の原因が「脂の取りすぎ」というのがハッキリしている人なら、効果はあると思います。ただし、オルリスタットで脂を出したとしても、それ以上に飲んだり食べたりしたら別です。脂はカットしたけど、炭水化物やアルコールを取りすぎたりすると意味はありません。

Q.継続的に飲み続けないと効果はない?

A.服用し続けなければならない薬ではないので、「ダイエット中だけど、この日はどうしても脂っこいものを食べたい」という日にだけ使うという方法も考えられます。

Q.ちなみに、世にあまたあるダイエットサプリとはどのように異なるのでしょう?

A.例えば「脂肪の吸収を抑える」とうたっているようなサプリは、食物繊維の働きによるものが多いと思います。食物繊維は余分なコレステロールや毒素を包んで吸収を抑え、体外に排出してくれる働きがあるので、取れば脂肪の吸収も少し抑えられる。しかし、オルリスタットのようにそのまま脂を排出してくれることはありません。

そもそも、サプリメントは"食品"扱いなので、効果はピンキリと考えましょう。薬品並みの臨床試験を行なっているサプリもあれば、「食物繊維が含まれているから効くだろう」と、深く検証もせずに販売しているようなサプリもあったりします。

Q.最後に、服用における注意点やダイエット全般のアドバイスをお願いします。

A.ぶくぶく太っている野生のサルを見たことはないと思います。要するに、基本的に自分の体に最適なことをしていれば、変にぶくぶく太ることはありえない。一日60gのたんぱく質を取る、全体のカロリーの30%は油で取る、野菜は一日両手盛りで5皿分を取るなど、まずは当たり前に健康にとって良い食生活を心がけるのが大事。

もちろん、中高年になってホルモンバランスが崩れて太りやすくなったり、「太る遺伝子」を持っている人もいます。そういう人たちも、根本的な生活習慣の見直しで改善される場合が多いです。

人それぞれに適したダイエット方法があるので、一概に「これさえすれば簡単に痩せる」ものはありません。オルリスタットはあくまでも、脂を取りすぎて太っている人への対処法のひとつに過ぎない、ということをお忘れなく。