保険適用の検査では検出できないマイコプラズマ・ジェニタリウムだが、予防の基本は他の性感染症と同様、コンドームだ保険適用の検査では検出できないマイコプラズマ・ジェニタリウムだが、予防の基本は他の性感染症と同様、コンドームだ
性感染症(STD)の猛威が止まらない。

今年1月に発表された国立感染症研究所によるまとめでは、2022年の梅毒感染者はおよそ1万3000人と月間過去最多を記録したという。

背景には、マッチングアプリの普及で不特定多数の人との性行為が増えたという説もあれば、パパ活市場の拡大との見方もある。またコロナ禍で風俗店が休業したことにより、稼ぎ先のなくなった風俗嬢たちが個人売春を始めたから......という説も飛び交う始末。こう書くと、身に覚えを感じる人も少なくないのではないだろうか。

■「睾丸が3倍に腫れて動けない!」

梅毒やHIVだけでなく、ヘルペス、クラミジア、淋病......といった性感染症の名前は、一度は耳にしたことがあるはず。しかし今、医師ですら聞きなれない性感染症が、新たな脅威となっているという。

「年末に睾丸が3倍までに腫れ上がってしまいました。ジンジンと熱を帯びていて、ほんの数歩歩いただけで擦れてしまい、激痛で歩けなくなってしまって。『一生このままだったらどうしよう......』となかばウツになりかけました」

会社員の川辺賢介さん(仮名、30代)はこう打ち明ける。腫れ上がった下半身を抱え、川辺さんは性感染症内科へ駆け込んだ。そこで受けた診断は「マイコプラズマ・ジェニタリウム」だった。

「最初、『マイコプラズマって肺炎でしょ?』と思いました。見たことも聞いたこともない性感染症に自分がかかるなんて、まさに青天の霹靂でした」

マイコプラズマ・ジェニタリウムの正体とは一体何なのか? 都内随一の"下半身専門クリニック"として、年間1500人の下半身を診察するヴェアリークリニック院長の井上裕章氏に話を聞いた。

「実は当院でも、マイコプラズマ・ジェニタリウムの患者さんは最近チラホラと診ることがあります。女性患者さんが『腟のニオイがなんか、気になって......』と訴えて、調べてみたら"マイコプラズマ・ジェニタリウム"だったというケースもあります。国内に1万人程度の感染者がいるとする試算もあります」

SNSを介したカジュアルな出会いがコロナ禍でさらに増加したことも、梅毒をはじめとする性感染症の流行の背景として指摘されているSNSを介したカジュアルな出会いがコロナ禍でさらに増加したことも、梅毒をはじめとする性感染症の流行の背景として指摘されている
井上氏いわく、「ひとくちにマイコプラズマといっても、その種類はたくさんある」という。

「一般的に知られているマイコプラズマ肺炎は、"マイコプラズマ・ニューモニエ"という細菌に感染することで発症しますが、これはまた別の菌。

マイコプラズマ・ジェニタリウムなどの細菌が尿道や腟に感染すると、男性なら排尿時違和感や膿が生じる尿道炎などクラミジアのような症状が現れます。女性ならおりものの異常や陰部の不快感、腐った魚のようなニオイが見られます。

この男性の場合、睾丸が腫れたのは菌特有の症状ではなくて、細菌が精巣に届いて炎症を起こしたと考えられます」

■普通の性感染症検査では検出されない恐怖

マイコプラズマ・ジェニタリウム以外にも尿道炎を引き起こす菌として、

・マイコプラズマ・ホミニス
・ウレアプラズマ・パルバム
・ウレアプラズマ・ウレアリティカム

があるという。

「いずれも最近発見されたような目新しい菌ではありません。もともとこれらの菌が存在することは知られていましたが、常在菌に近いものなので治療の対象としてみなされていなかったのです」

常在菌とは、主にヒトの身体に存在する微生物のうち多くの人に共通してみられ、病原性を示さないもののことをいう。

「たとえばよく耳にするカンジダも常在菌ですが、免疫力が下がったり、体調を崩したときに増殖すると、女性の場合はヨーグルト状のオリモノが出てきたり、腟や外陰部の炎症が起こってしまう。

マイコプラズマ・ジェニタリウムも常在菌で弱毒性なため、たとえ発見されたとしても医師によっては『悪さをしない』『心配なし』と診断してしまうのです。

検査も治療も保険適用ではないので、いわゆる普通の性感染症検査では感知できず、自費で調べなくてはいけない。そのため泌尿器科医や性感染症内科医でないと、医師ですら見過ごしてしまうことが多いんです」

■不妊症の原因になることも

どのような感染ルートでうつるのか?

「感染者の体液が、直接粘膜に接触することで感染・発症します。飛沫感染の心配はありませんが、ディープキスやオーラルセックスで、のどに感染することもあります。

厄介なのが、自然に放置していても治ってしまうこともあるという点。そのため、気づかないうちに人にうつしてしまい、感染が拡大している可能性もある。特に女性の場合、無症状も多いでが放置していると骨盤腹膜炎、不妊症、流早産の原因にもなりえます」

たかが、とあなどっていると、将来取り返しのつかない事態になるというわけだ。治療法についてはどうか。

「マイコプラズマは抗生剤を投与すれば、1週間くらいで治癒します。しかし繰り返すと薬への耐性がついて、効かなくなることも考えられます。やはり対策としてはコンドームを着用すること、定期的な検査も欠かせません」

既存の検査で「異常なし」と言われたものの、膿や尿道炎のような症状が出ている際には、「マイコプラズマかも?」と疑ってみてもよさそうだ。

●井上裕章
医師。ヴェアリークリニック院長。山口県出身、東京大学医学部卒。外科でのガン治療や美容クリニック勤務を経て、ヴェアリークリニックを開院。ED治療から下半身美容に注力している