アラフォーの曲がり角。どうにも疲れやすいし、性欲も低下した気がする......アラフォーの曲がり角。どうにも疲れやすいし、性欲も低下した気がする......

40歳を超えたあたりから、男性ホルモン(テストステロン)の減少により、症状が出てくる「男の更年期」。専門医にその基礎知識を聞くとともに、食事や運動、マインドセットなどの対策を伝授してもらった。まだまだ長い現役を、男らしく、元気にやっていくための知恵はここにある!

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■「男の元気の源」、テストステロンの基本を学ぶ!

最近、眠れない、疲れが取れない、ついでにヤル気も全然出ない。新しいことに興味が持てない。昔に比べると、なんとなく調子が悪いような気がする......そんな現役世代の男たちに少し残念なお知らせである。

もし、30代半ば以降の世代で日々ストレスフルな生活をしているなら、その症状は「LOH症候群」、いわゆる「男性更年期障害」が原因かもしれない。

更年期障害といえば以前は女性特有の病気として知られていたが、近年では男性にも起こると認知されてきている。しかし、その実態はあまり知られていない。

まず、男性更年期障害は、以下のような症状が発生するとされている。

集中力や記憶力、モチベーションの低下、不安、不眠といった症状がメインだが、ほかにも全身の倦怠感(けんたいかん)や、のぼせ、ほてり、めまい、関節痛といった身体の異変もあり、さらには朝勃(だ)ちの減少や性的欲求の低下が見られたり、頻尿で夜中に何度も起きたりするケースもある。

それでは、この疾患は何をトリガーに発症するのだろうか。その鍵を握るのが体内で分泌されている男性ホルモン、別名「テストステロン」である。

泌尿器科、精神科、心療内科専門の医院「市ヶ谷ひもろぎクリニック」の土井直人先生がこう解説する。

「テストステロンの分泌は20代にピークを迎え、30代、40代と年齢を重ねるごとに低下していきます。それによって体内のホルモンバランスに変化が生じ、先のような症状が表面化する。

閉経前後のホルモンバランスの変化によって起きる女性の更年期に比べて、男性更年期のそれは、よりゆっくり穏やかに進行していくので気づきにくい」

テストステロンはけっこう繊細で、ストレスによって低下することもある。

「ストレスを受けてテストステロンの値が下がると、ストレス耐性が下がり、さらにテストステロンが低下するという悪循環に陥っていく。その結果、いわゆる『うつ病』のような状態になることもあります。

実はうつ病と男性更年期は症状がオーバーラップしている。頭痛にたとえると、頭痛そのものは表面上の症状でしかなくて、そのバックグラウンドには風邪や高血圧などさまざまな病気が存在しているように、うつ病にもさまざまなバックグラウンドがあって、そのひとつが男性更年期障害なんです」

ところで、そもそもテストステロンっていったいなんなの?

「テストステロンは体の中で大きな役割を担っています。太古の人類は動物(食物)を狩るために考えを巡らせ、草原や野山を走り回っていた。その認知能力や筋肉の発達を助けているのがテストステロンです。

また、大きな動物はひとりで捕獲するのは難しいので集団行動をするのですが、ここにもテストステロンが関与していることが近年の研究で明らかになった。つまり、テストステロンを多く持つ人ほど社会性が高いということ。事実、テストステロンは『社会性のホルモン』と呼ばれていたりもします」

■テストステロンが低下する〝負の悪循環〟

男性更年期障害は泌尿器科の領域の疾患だ。受診に行く場合は泌尿器科の男性更年期外来のある病院、クリニックをチョイスする。

検査は3つの段階に分かれている。まず国際基準の問診票「エイジング・メイル・スコア」に点数を記入し、医師による診察、そして血液検査が行なわれる。

血液検査では血中テストステロンの量「遊離テストステロン」を中心に、「黄体形成ホルモン」(LH)、「卵胞刺激ホルモン(性腺刺激ホルモン)」(FSH)、「プロラクチン」「亜鉛の量」といった男性ホルモンに関わる項目、さらにストレス量を測る「コルチゾール」、「PSA前立腺腫瘍マーカー」の数値がチェックされる。

こうして医師の診断が下されるわけだが、仮に男性更年期と判断された場合、どんな治療法があるのだろうか。

「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)に支障がある場合、患者さんの要望があれば『ホルモン補充療法』を行ないます。ホルモン剤には注射と塗り薬の2種類があります。注射の間隔は2~4週間に1回。反応は人によって異なり、1回で改善される人もいれば、2~3ヵ月かけて少しずつ改善するケースもある。

中には『注射すると調子がいい』という理由で毎月のように打ちに来る人もいます」

こういう話を聞いていると「今すぐホルモン剤をくれ!」と言いたくなるが、もちろんデメリット=副作用はある。

「ホルモン補充療法を行なうと、テストステロンの血中濃度は高くなりますが、脳にフィードバックされると、自力でテストステロンを分泌する力が弱くなってしまう。

それが長期にわたると睾丸(こうがん)内の精子を作る細胞が萎縮し、不妊になるリスクもあります。だから、うちでは患者さんに『今後、子供をつくる予定があるか?』を必ず伺います。

また、前出の血液検査でチェックしている『PSA前立腺腫瘍マーカー』は前立腺がんの検査なのですが、この値が高い場合、ホルモン補充療法は行なえません。

がんの場合、その進行を促進させる可能性があるからです。そういう患者さんには体力を底上げする漢方薬『補中益気湯』など、うつ症状が強い場合は抗うつ剤や精神安定剤を処方することもあります。

ただ何よりも重要なのが〝生活指導〟。正しい生活のスタイルとリズムを身につけた結果、ホルモン治療なしでテストステロン値が上がったケースもあるんですよ」

土井先生いわく、まず日常に取り入れたいのが運動だ。

「テストステロンが低い人はメタボリックシンドロームの傾向が強い。そして、内臓脂肪を燃焼し、筋肉をつけるのに一番手っ取り早いのが、太ももに存在し、人間の体で一番大きい筋肉である大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を鍛えるスクワットです。1セット10回を一日計3セットやるのをオススメします」

では、食事は?

「テストステロンを上げる効果のある『亜鉛』を積極的に取りたいですね。牡蠣(かき)やレバー、ナッツ類などです。ほかにもタマネギ、ニラ、ニンニクなどの〝臭い野菜〟に入っているアリシンという成分も有効です。

アミノ酸の一種『アルギニン』が入っているネバネバ系の野菜のオクラや山芋もよい。中でも山芋は『DHEA』というホルモンの前駆体になる成分も入っています。『えごま油』などに含まれている不飽和脂肪酸『オメガ3』にもテストステロンを上げる効果がある。

ちなみに、お酒の飲みすぎはテストステロン値を下げます。飲んだとしても一日に缶ビール1本、ハイボール1杯ぐらい、ワインでグラス1杯程度にとどめたいものです」

そして最も重要なのが生活のリズムだ。

「テストステロンが作られるのは夜の睡眠中、一番多く分泌されるのは午前中だといわれています。なるべく0時より前に就寝し、7時間前後の睡眠を取り、起床するのが好ましい。

リモートワークが日常化してから、それまで18時前後に切り上げていた仕事を23時ぐらいまでダラダラと続けてしまう人が増えている。生活のリズムの乱れがテストステロンを下げる原因となるので見直したいところです」

■ホメて、ホメられて男を上げる!

一方、「東京オステオパシーキャビネ」の院長、柴岡宏二先生はこんな対策を教えてくれた。ちなみに、「オステオパシー」は手技によって自然治癒力を生かそうとするアメリカ発祥の治療法。日本の整体や指圧に大きな影響を与えた代替医療(アメリカでは医師免許が必要な施術)だ。

「日光浴の効果はバカにならない。起床後の午前中までに日光を目で感じる時間を1時間ほど設けてください。太陽光による眼球の刺激は、心のバランスを整えてくれる脳内物質『セロトニン』の生成を促し、うつや記憶力低下を抑制するといわれています。

また、紫外線を肌で受けることで体内にビタミンDが生成されることも見逃せない。これらが結果的にテストステロンを上げることにつながります。太陽を直接見るのではなく、日光を浴びる感覚でお試しください」

柴岡先生いわく、テストステロン値はスポーツやアクション映画を見ると上がるらしい。

「闘志を燃やすもの、正義感や勇気を鼓舞するものはテストステロンの分泌を促すといわれています。スポーツでいえばサッカーやアメフト、格闘技などの観戦もいいし、映画でいうならアクションもの。例えば『ロッキー』『ダイ・ハード』『ワイルド・スピード』あたりがいいですね」

それでは最後に前出の土井先生から、さらに有益なアドバイスをどうぞ。

「先ほどテストステロンは『社会性のホルモン』と言ったように、人とのコミュニケーションによっても増大します。気の置けない友人との会話は大事ですよ。

その際にポイントとなるのが、相手を〝ホメる〟こと。ホメられるとテストステロンが上がるといわれています。こちらからホメて、相手のホメを引き出す。互いをホメ合える仲間をつくるのが一番の薬なんです」

男性更年期の解消法は意外なところに存在しているのかもしれない。