わが家の胴長短足要員。剣闘もアクロバットも絶対に無理 わが家の胴長短足要員。剣闘もアクロバットも絶対に無理
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「コロッセオ」について語る。

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古代ローマのシンボルのひとつ、巨大円形競技場「コロッセオ」。2000年前に建てられたにもかかわらず、世界史の授業や映画のおかげで、剣闘士や猛獣が熱狂する市民に全方位からあおられながら命がけで戦う姿を誰もがイメージできると思います。

剣闘士vs剣闘士、剣闘士vsライオン、ライオンvs虎......わざわざ世界中からローマに連れてこられた動物と身分の低い人間や罪人が、どちらかの命が尽きるまで戦い続ける。今では考えられないこの残酷な娯楽に、意外な参加者がいたことが最近の発掘作業でわかりました。それは、ダックスフント。あなたの近所でも飼われているだろう(名前は「ココア」率が高し)あの胴長短足の小型犬。グラディエーターや猛獣珍獣と同様、コロッセオで活躍していたようなんです。

厳密には、ダックスの先祖に当たる(かもしれない)体長30㎝未満の小さな犬だそう。現代のダックスの原形は、18世紀にドイツで品種改良されたものだから、ここからは「ダックス」ではなく、より広義に使われる欧米のダックスの愛称「ウインナードッグ」と呼びます。「グラディエーター犬」も捨て難いけど。

記事によると、1年間かけて行なわれたコロッセオの地下溝の大規模な発掘で、クマやライオン、ダチョウ、ヒョウの骨と同じ場所にこのウインナードッグの骨が大量に見つかったとのことです。

大型動物と同じ所に埋められていたということは、やつらも戦っていたのか!? 5万人もの観客がウインナー1匹vsウインナー1匹に熱狂するのは想像し難いので、20匹vsクマ1頭の団体戦だったのか? むむむむ?。たとえ胴長の鎧よろいを着せてあげても、負ける気しかしない......。ローマ人よ、冷酷すぎる。

しかし、発掘監督の考古学者は「サーカス的な芸に使われていた可能性もある」と言っていたので、少し安心。また、ネズミ狩り係として飼っていたという見方もあるようです。同じ下水溝に観客が食べたナッツやオリーブやフルーツの残りも見つかったので、害獣がいたはず。

いろいろと気になる今回の発見ですが、一番びっくりしたのは、コロッセオのウインナードッグたちについて何も史料が残っていないこと。剣闘はもちろん、ボールを鼻に乗せる象やアクロバットをする猿についての文献はたくさん残っている。シマウマが引くチャリオット(戦車)に乗った人気グラディエーターが現れて、シマウマを殺す謎のパフォーマンスを延々と描写する一市民の日記のような史料を、学生の頃に読んだ記憶もあります。

史実も伝説も山ほどあるコロッセオなのに、ウインナードッグは一匹も出てこない。どんな絵画にもちょこっとすらいません。確かにライオンやカバは迫力がある上に珍しかったでしょうが、ウインナードッグの大群を誰も記録しなかったとは。ローマ人のセンスよ! ダックスの組み体操、現代だと確実にライオンよりPV稼げます。

ちなみに、この話題はローマの新しい地下鉄の建設時に出てきた遺跡をリサーチしているときに見つけました。いつかそちらも紹介させてください。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。本文中のダックスの組み体操は本当に見たいわけではありません。虐待反対。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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