極寒の北の海。この景色がすべて作り物だったら......極寒の北の海。この景色がすべて作り物だったら......
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回はジム・キャリー主演の映画『トゥルーマン・ショー』について語る。

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1998年公開のジム・キャリー主演の映画『トゥルーマン・ショー』。当時小学生だった私には衝撃的な内容で、いまだに自分への影響を感じます。日本でもヒットしたこの作品を、これから見るという後輩に粗筋を説明するのは簡単でした。「生まれてから人生のすべてを、テレビ番組として生中継されていた男の物語」。

しかし、「ジャンルは?」と問われたら一瞬考えました。映画.comでは「コメディドラマ」、Netflixでは「コメディ」、配給会社のリリースでは「21世紀に向けての不安と希望を反映するブラックコメディ感動作」。

一方、Wikipediaでは「サイコSF」、ほかに「風刺劇」としているサイトも。ある意味で全部しっくりきますが、私の中で『トゥルーマン・ショー』はホラーであり、ハッピーエンドで終わるように見せかけた完全なる悲劇です。

海辺の町の保険会社で働く平凡な男、トゥルーマン。実は町は巨大なセットで、家族や友人を含む住人が全員役者であることを彼だけが知りません。しかし29歳のとき、空から照明器具が落ちてきたり、死んだはずの父を目撃したことから、彼は真実に気づき始めます。

世界観はまったく違うものの、テーマは『マトリックス』や『攻殻機動隊』と類似する。自分が思う現実がすべて作り物だったら? この世が誰かの作った仮想現実だったら? しかも「胡蝶(こちょう)の夢」のような、夢・現実・幻想の境目がブレる感覚でもなく、誰かが意図的に作り上げた嘘の世界に住まわされていて、自分以外はみんな知っていたら?「そんなわけない」と思っていても、絶対に違うと証明する方法がないのが、この映画の根底にある怖さだと思います。自分の人生が"やらせ"じゃないと絶対に言い切れないと気づかされるサイコロジカルホラーです。

真実を知ったトゥルーマンは最後、自分の意思で番組を去り、初めて自由になります。生まれたときから彼を見守ってきた視聴者は、彼の成長と決断に喝采し、感動しながら番組のエンディングを見届けます。

トゥルーマンはやっと解放され、思い続けてた元エキストラの女性と再会できるし、めでたしめでたしなハッピーエンド......。でもこの視聴者の喝采と彼のあっさりとした解放が、まさに悲劇を示唆していると思います。

視聴者はすぐさまチャンネルを変え、次の番組を見始めます。一方、本人は現実世界で生きるすべもなければ、誰も信頼できない。世間やメディアの身勝手さを皮肉る、現代のトラジェディ。ユーモアと薄気味悪さのあんばいや、何度見ても発見のある小ネタの豊富さもたまらない作品です。

人々がSNSなどで日々の生活を公開する昨今。どこまでが本当の自分なのかわからなくなったときや、みんなの「現実」に違和感を抱いたとき、この映画を思い出します。

幼少期からYouTubeやリアリティショーに出ている人や、興味深く見てた健康番組が青汁の通販だと気づいた人などにも、"トゥルーマン症候群"が発動するでしょう。と真面目に語りましたが、現代の『トゥルーマン・ショー』ともいえる『水曜日のダウンタウン』のクロちゃん恋愛企画は、爆笑しながら見てました......。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。トゥルーマンが聴くラジオが、すべて著作権フリーのクラシック音楽なことなど、ディテールも楽しい。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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