温水洗浄便座を長時間使用、温水浣腸をしている人は要注意! 知らない間に「切れ痔」や「便もれ」に......温水洗浄便座を長時間使用、温水浣腸をしている人は要注意! 知らない間に「切れ痔」や「便もれ」に......

お尻を洗ってくれる温水洗浄便座。しかし、使い方を間違えて、肛門を傷つける人が増えているという。どんな症状なのか? どうすれば治るのか? 専門医に聞いた!

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■温水浣腸で大出血の危険性が

お尻を洗う「温水洗浄便座」が一般に普及し始めたのは、1980年頃だった。それから約40年。現在、普及率は80%を超え、われわれの生活に欠かせないものになっている......が、一方で使いすぎによる「温水洗浄便座症候群」も問題になっているのだ。

『オシリを洗うのはやめなさい』(あさ出版)の著者で、大阪肛門科診療所副院長の佐々木みのり医師が解説する。

「この20年くらい、お尻の洗いすぎによる肛門のトラブルが増えています。

例えば、肛門のかゆみやヒリヒリとした痛みだけでなく、ニキビのようなブツブツした湿疹ができたり、ゴワゴワと硬くなって切れ痔のようにヒビ割れたり、色素が抜けたり逆に黒ずんだり、便もれが頻繁に起きたり、性病になったり。本当にさまざまな症状の患者さんがいらっしゃいます。

これらの症状の主な原因は、温水洗浄便座の使いすぎによるものです。

皮膚の表面には『皮脂膜(ひしまく)』という天然の油分があり、外部から病原菌などが侵入することを防ぐバリア機能を担っています。また、皮膚内部の水分が蒸発することも防いでいます。

しかし、温水洗浄便座によって肛門を洗いすぎると、この皮脂膜が皮膚から剥がれ落ちてしまうんです。すると、皮膚が乾燥してかゆみの原因になったり、肛門が硬くなってヒビ割れたりします。

よく、冬に洗い物をしていると手が荒れてヒビ割れることがありますが、それと同じことが肛門でも起きているのです。

さらに、バリア機能が落ちると外部から病原菌なども侵入しやすくなるため、本来なら性交渉でしか感染しないはずの性病が、温水洗浄便座のノズルなどを媒介として発症することもあります。こうした症状を温水洗浄便座症候群と呼びます」

――じゃあ、温水洗浄便座症候群にならないためには、どうすればいいんですか?

「お尻を洗わないことです」

――えっ!?

「そもそも、便がスッキリ出ていれば、お尻を洗う必要はありません。洗わないといけないような排便が問題なんです。便が全部スッキリと出ていれば、トイレットペーパーに便はほとんどつきません。肛門に便が残っているから何度も拭くことになるし、お尻を洗いたくなるんです。

肛門に便が残っていることを当院では『出残り便秘』と患者さんに説明しています。出残り便秘は、排便を我慢することで起こります。

本来、排便は排便反射を利用して出すものです。しかし、社会生活を送っていると、いつでもどこでも排便できるわけではありません。そのため、私たちは成長の過程で便意を我慢することを覚えるのです。

そして、いつの間にか便をためられる肛門になってしまった。そして、排便反射ではなく、腹圧をかけてイキんで便を出すようになる。それでは便を出し切ることはできません。

しかも、中には温水洗浄便座を使って肛門を刺激して便を出す人もいます。これを『温水浣腸』と呼んでいますが、こうなるともう温水で刺激しないと排便できない鈍感な肛門になってしまいます」

――でも、温水洗浄便座浣腸で便が全部出ればいいことなのでは?

「温水浣腸をしても、多くの場合、便は全部出きっていません。もし出ていたとしても、その水圧で肛門をかなり傷つけています。以前、温水浣腸のやりすぎで直腸が傷つき、そこから大出血した患者さんがいました。そもそも温水洗浄便座は便を出すための機械ではないんです。

また、排泄(はいせつ)後に温水浣腸すると、残っている便と温水が混じって、後から便汁がチョロチョロと出てくることがあります。

そして、下着を汚すことがある。これを肛門失禁といいます。肛門失禁は肛門の締まりが悪いわけでも、機能に問題があるわけでもありません。温水浣腸をするからなってしまうのです」

――じゃあ、どうすればいいんですか?

「まず『うんちがしたい』と思ったら、すぐにトイレに行く習慣をつけてください。そして、2週間ほど温水洗浄便座を使うのをやめてください。それだけでお尻の不調がなくなるかもしれません。

また、排便の後はトイレットペーパーをテニスボール大にふわっと丸めて、優しくポンポンと肛門を押さえるような感じで拭く。決して、こすって拭かないように。

ただ、肛門に便が残っているような場合は、拭き取らないと気持ち悪いですよね。そういうときは、脱脂綿を水で濡らして優しく拭いてください。ウエットティッシュはダメです。ウエットティッシュには防腐剤が入っていることが多く、その成分は消毒薬なので、肛門から経皮吸収されて体に害を与えます」

――では、温水洗浄便座症候群になっていない人は、どう使えばいいでしょうか?

「その場合は、水圧は一番弱くして、水温は一番低く、洗浄時間は3秒以内にすること。そして、洗浄回数は一日に1回にしてください」

――3秒以内で一日1回ですか!?

「はい。洗い流してしまった表皮ブドウ球菌(皮脂膜を形成する常在菌)が回復するには約半日必要なので、何度も洗うのはよくありません。使いすぎると温水洗浄便座症候群になってしまいますよ」

とにかく、「うんちをしたい」と思ったら我慢せず、排便することが重要だ。そして、温水洗浄便座を強い水圧で長時間使用することは避けたほうがいい。それが健康な肛門を維持する方法なのだ。

腸活の次は「穴活」がブームになるかもしれない......。